2023/08/23

mastodonの雑感とサーバー選び

 mastodon (mstdn)を一ヶ月ほど使ってみた雑感。主にtwitterの対比で。


 【 他のソーシャルメディアに移住する意義 】

 他のソーシャルメディアを勧めるのは、何よりもまず、あの荒廃しつつあるtwitterから離脱するためだ。近時のtwitter(X)のように、恣意的に仕様が変えられたり、アカウントの存続そのものが不安定だったりするようなSNSからは、思いきって離脱してしまう方が、精神的にもはるかに気楽だ。
 また、リスキーなSNSに居続けるということは、何かあったときのダメージがどんどん大きくなるということだ。twitterへの投稿を続けるのは、沈みかけの船に、さらに大事な荷物を積み込んでいくのと同じようなものだ。ダメージを最小化するために、危険なプラットフォームからは早急に離脱しよう。


 もちろん、twitterで形成してきた大量のフォローリストや、人的なつながりや、書き込んできたライフログがあるだろう。これらについても、様々な考え方ができる。

 1) フォローリストについて。
 現在、有益な情報発信をしている人々(例えば研究者やクリエイターや、海外報道機関の公式アカウント)が、twitterを離脱して他のソーシャルメディア上にアカウントを作り、そちらで活動を始めている。今まさにtwitterの外部で発信されている大量の情報を見逃さないためには、できるだけ早く新たなSNSに参入して、早いうちにどんどんフォローを出していくべきだ。
 有益な情報発信をしている人、気の合う人、人柄に魅力のある人、知的刺激に満ちた人は、きっとどこにでもいる。そういうチャンスに遅れないでほしい。

 2) 人的なつながりについて。
 相互フォローなどの人間関係も、かなり持ち越せる。まずは自分が先に、移住先のアカウントを作っておいて、それをアナウンスしておけば、友人ならばきっとフォローしてきてくれるだろう。あるいは、周囲の人々と一斉に移住しようと話し合ってもいい。
 もちろん、完全に移住して(切り替えて)しまう必要は無い。当面は複数のSNSを併用して、両方を適宜見ていればいい。何年もtwitterを見続けてSNSに慣れている人であれば、スムーズに適応できるだろう。

 3) ライフログについて。
 ライフログに関しても同様だ。日々の思いやメモを自由に書き残していくのは、どのメディアでも簡単に実行できる。むしろ、ライフログの観点で怖れなければいけないのは、サーヴィスそのものがいきなり潰れてしまったり、過去の投稿ログがいきなり破棄されてしまったりすることだ。つまり、現在のtwitterは、ライフログのためのメディアとしてもきわめてリスキーなプラットフォームだ。
 この観点でも、できるだけ早く余所のメディアへ移って、そこでゆっくり腰を落ち着ける方が安全確実だということになる。


 【 mastodonの紹介:主にサーバー選択について 】
 
 代替的ソーシャルメディアの有望な候補は、いくつも現れている。その中で、私はさしあたりmstdnを使っているので、これを紹介しておこう。

 基本的な使い方は、twitterとだいたい同じ。使える操作もおおむね共通している。しばらく使っていれば、すぐに慣れるだろう。広告を見せつけられることが無いというのも、非常に気楽で良い。
 特徴的なのは、多くのサーバーに分かれ住んでいることだ。twitterのような単一の包括的なサーバーがあるというわけではなく、無数のサーバー群が緩く繋がり合っている。基本的な使い方はどのサーバーもだいたい同じだし、サーバーを跨いだフォローにもほとんど制限は無い。リプライなどもちゃんとサーバーを超えて伝わる。ワード検索機能は弱めだが、ハッシュタグ付きの検索であれば、多数のサーバーを貫通した幅広い検索ができる。アカウントを検索するのも容易だ。

 とはいえ、サーバーごとに文化の違いはある。雰囲気の良いサーバーや、活気のあるサーバー、特定の趣味で集まったサーバーなどが様々に存在する。なので、自分にとって居心地の良いサーバーに入っておくと、スムーズに定着しやすいかもしれない。
 
 参考までに、日本語話者中心で、なおかつ知名度の高いサーバーをいくつか紹介しておこう(※データは8月19日時点での[ https://fedidb.org/ ]による)。
 最初に一つだけ説明しておくと、各サーバーは「ローカルタイムライン(LTL)」を公開しているのが通例だ。これは要するに、そのサーバー内での最新投稿が並んでいる場所だ。まずはローカルTLを眺めれば、そのサーバーにいる人たちの雰囲気が掴みやすいと思う。

 1) mstdn.jp : ユーザー数39万。投稿総数を除算すると一人平均176投稿。ただし、人口は大きいものの、私の周りだと「アカウントを作ってみただけで放置」という人が多い。人数が非常に多いため、ローカルTLを見ても大量の投稿に晒されて、何をしたらいいか分からないままで終わってしまう危険がある(というか、私自身がそうだった)。しかし、投稿数も順調に伸びているし、人口規模のアドヴァンテージで、ひとまずは安泰だろう。ただし、後述のように運用上のリスクがあり、他のサーバー(特に海外サーバー)から、コンテンツに問題があるとしてアクセス制限を受けている場合がある。海外情報も摂取したいという場合は、気をつけた方が良さそう。
 2) misskey.io : 37万人、平均81投稿。これもmstdnと連携している。後発ながら急上昇中で、ユーザーも活発だし、機能面でもカスタマイズの幅が広く、かなり面白そうだ。ただし、絵文字やリアクションアイコンを多用する独自文化は人を選びそう。集まって賑やかに盛り上がりたいという向きには適していると思われる。
 3) pawoo.net : ユーザー91万、平均78投稿。オタク寄りの最大手で、クリエイター系アカウントが多数移住している。ただし、情報発信者と受け手側に二極化しているようだ。また、その性質上、18禁イラストなども非常に多い点には注意を要する。さらに、後述のように、他の多くのサーバーから強くアクセス制限されているので、メインアカウントとしての使用はしづらい。
 4) mastodon-japan.net : 1.4万人、平均126投稿。落ち着いた日常つぶやきが主流のようだが、研究者やジャーナリストなど、きちんとした情報発信者も多数参加している。twitterよりも長文を使えるおかげで真面目なリプライ会話が増えているという方も見られる。人数も程々に多く、それでいてローカルタイムラインも適度な速さなので、日本語での汎用サーバーとしては最も無難な選択肢だと思う。
 5) fedibird.com : 3.5万人、平均313投稿。テック系に詳しい方々や、サブアカウント併用として持っている方が多いようだ。一人あたりの投稿数もかなり多いので、相当うまくやれていそうな印象。このサーバーではローカルTLを公開していないが、ハッシュタグ #fedibird で検索するとサーバーの雰囲気は掴めるだろう。
 6) social.vivaldi.net : 3.5万人、平均33投稿。私が今いるサーバー。北欧の団体が主催しているサーバーなのだが、日本語話者とそれ以外の投稿が半々くらいという、おそらく珍しい構成のサーバー。日本語話者同士がローカルTL上の空リプ(?)で広く交流していたりする。話題は食事ネタと技術系ニュースが多いが、真面目なテーマで投稿が並ぶこともあり、和やかさと知的刺激のバランスが良いと思う。EU基準なので、きつめのお色気イラストなどはすぐに削除される(※これについては、歓迎する人もいるだろうし、使いにくいと感じる人もいるだろう)。
 7) toot.blue : 690人、平均455投稿。少数精鋭で濃密という印象。fedibirdがテック系寄りと思われるのに対して、こちらは人文/社会科学系寄りの真面目な雰囲気。しっかりした長文投稿や社会的な発言、映画感想、外部記事への論評なども多い。もちろん日常の投稿も多い。
 8) songbird.cloud : 190人、平均515投稿。小規模なのでコメントしにくいが、参加者はかなり活発に投稿しているようだ。デフォルトのフォントがちょっと特殊。

 これらは特に方向性を定めていない、ノンジャンルの汎用サーバーだが、特定の趣味の人々が集まっている特化型のサーバーや、個人で立てたサーバーも大量に存在する。同好の士を見つけるのに好都合だが、サーバーの存続保障が無いので、サブアカウントとして併用するのが安全だろう。

 あくまで私見だが、日本語でノンジャンルのサーバーに入るなら、mastodon-japan.netが無難だと思う。真面目な話から趣味の話からスイーツ写真まで、様々な投稿が並んでいて懐が広いし、ローカルTLの速度も程々なので居場所を見つけやすいだろう。多様な人がいるということは、自分自身が投稿する際にも、どんなことでも気兼ねなく書けるということだ。
 緩くコミュニケーションしてみたいけど、新しい人間関係を作るのに躊躇しているという人は、vivaldiを見てみるのも一案だと思う。ローカルTLでなんとなく話題共有しているのが面白いし、英語フランス語フィンランド語からトルコ語韓国語まで出てくる国際的な雰囲気も、たいへん風通しが良い。ただし、アカウント作成手順がちょっと特殊だし、規制はややきつい(※スパムや差別発言をBANするのは良いことだけど、セクシャルな表現に対してもかなりきついようだ)。
 それに対して、丁寧な議論をしたい人や踏み込んだ情報収集をしたい人にとっては、toot.blueやfedibird.comの方が有望だと思う。あるいは、どこか特定の趣味系サーバーに入ってみて、そこから始めるのも良いだろう。
 もちろん、複数のサーバーでそれぞれアカウントを作ってもいい。それが出来るのも、mstdnの長所だ。興味を持ったサーバーにそれぞれ登録しておいて、適当にローカルTLを見比べていれば、自分と相性の良さそうな場所が見つかるだろう。

 ただし、注意点もいくつかある。サーバーの間で制限を設けられている場合があるのだ。要するに、違法コンテンツを含むサーバーや、倫理的に問題があると判断されたサーバーは、他のサーバーとの間でブラックリスト的にアクセスが制限されることがある。
 例えばmstdn.jpも、海外の主要サーバーから制限を受けているようだ。外国はポルノなどの基準が厳しいため、お色気イラストやお色気写真の多いmstdn.jpは制限されているのだと言われている。pawoo.netも、もちろん強く制限を受けている。なので、海外ニュースなども摂取したいという場合は、これらのサーバーをメインに運用するのは避けた方が良い。


 いずれにしても、新しいソーシャルメディアに足を踏み入れてみるのは、刺激的で楽しい。一昨年はずっとtwitterを使っていたが、他のSNSにも顔を出してみると、「twitterがSNSの全てではないよね」と、相対化した認識を持つことができるようになった。オンライン生活のマンネリ化を防ぐうえでも、新しいメディアに入ってみるのは大いに有益だ。
 もちろん、twitterと併用したままでも構わない。いやむしろ、併用して見比べていると、twitterがいかに荒んだ場であるか、いかにゴミだらけであるか、いかに広告だらけであるか、なんと争いだらけであるか、なんと消耗させられる場であることかと驚くだろう。
 mstdn(のローカルTL)を覗いてみれば、攻撃的ではない穏やかな雰囲気や、誠実な言葉を丁寧に紡ぐ長文投稿に、しばしば出会えるだろう。ニュースや企業宣伝や煽情的イラストやRTキャンペーンではない、個人個人の自発的発言に満ちていて、まるで最初期のtwitterのように自由の気風と、人々の主体性と、日常の豊かさを感じられる。新鮮さと懐かしさが混在したような気分だ。