たまひよ氏の原画業について。
たまひよ氏のLamiaブランドでの仕事は、上手い路線選択だと思う。
元々は(2001年当時としては堅実なことに)黒箱系タイトルからそのキャリアを開始した原画家だが、現在に至る基本的なスタイルは当初からしっかり固まっていた。特徴的なのは、1)細く引き絞られた眉根(ただし愛嬌のある太眉キャラも時折描かれた)、2)スレンダーな体型と健康的にすらりと伸びた脚部(臀部にかけてのラインも美しく、それを強調するためか生足が多い)。3)細やかで厚みのある頭髪の描き込み、4)一枚絵での涙目表現の多用、5)立ち絵差分では漫画的な頬のギザギザ斜線、6)鼻無しキャラ(『Sacrifice』では「井上美遥」の一枚絵)、このあたりだろうか。とりわけ涙目表現は、悲しい目に遭ってしまっているヒロインたちの様子を表現するうえで非常に効果的に作用している(――落涙表現は、近年のM&M氏が性的歓喜の表現として多用している程度で、アダルトゲーム全体として見ると、依然として未開拓である)。
2002年の『はちみつ荘』からは、ぱれっとの様々なシステム実験に付き合って、背面立ち絵(『はちみつ荘』は背面立ち絵の最初期の実例)、ちびキャラ表現や立ち絵アニメ(『愛cute!』の「チョコ」は、背中の四枚羽を立ち絵で羽ばたかせる)、立ち絵差分芸(とりわけ『えむぴぃ』。立ち絵を組み合わせた擬似一枚絵など)を、精力的に試みた。なかでも、背面立ち絵を用いた空間表現(対面する二人の様子など、奥行きを感じさせる立ち絵配置)は、『愛cute!』『MERI+DIA』『えむぴぃ』では賑やかなコミュニティを描くうえでも、また『復讐の女神』のような緊張感に満ちたドラマを描くうえでも、大きなアドヴァンテージとなっていた。2010年の『すてぃ~るMyはぁと』までは、やや高めの等身をベースにしつつ、親しみやすいユーモラスな表情群とともに、尖りすぎないコメディ――なにしろ「ん。」氏の手掛けるテキストの方はかなり過激なので――の雰囲気を作り上げていた。この時期の作品は、学園ものと呼べるのはせいぜい『愛cute!』くらいで、医療サスペンスから近未来SF、メイド育成もの、忍者ものまで、さまざまなジャンルをこなしている。
2013年の『みんな捧げちゃう!』以降は、業界全体の趨勢と軌を一にして、性表現要素の大きい中価格ピンク系/ダーク系に舵を切っているが、この潮流は、この原画家にとっては好機であったと言えるかもしれない。程良く色気のある表情表現と、柔らかさのある全身の曲線美、そして落ち着きがあって全体がクリアに見える一枚絵構図は、アダルトシーン表現に(も)適しているからだ。とりわけ、この原画家の大きな美質である裸身表現の魅惑的な美しさが、近作では素直に活かされている。とはいえ、Lamiaブランド第一作の『発情スイッチ』では、少々歯切れの悪い絵もあったのだが、それに続く『Trippers.』は、ワイド構図に慣れたためか、たいへん見応えのある絵を描かれている。
というわけで今月の『漫画家さん』も買う。