2020/12/12

アダルトゲームにおける学園恋愛系(2ページ目)

 アダルトゲーム分野における学園恋愛AVGの歴史的展望。

 【 目次 】
はじめに
第1章:学園恋愛系内部での変遷前のページ
  初期:スケジューリングSLGと場所選択式AVG
  00年代前半:読み物化と規模拡大
  00年代後半:内発的な新機軸の開花 
  10年代にかけて:学園ものを超えて
    1) キャラクター造形と関係描写の精緻化
    2) 学園ものの設定拡張
    3) 性表現要素の拡充
第2章:アダルトゲーム全体の中での学園恋愛系(このページ)
  90年代から00年代前半:ワンオブゼムとしての学園もの
  00年代を通しての変化:学園もののメインストリーム化
  10年代のさまざまな動き:学園ものが再び相対化される
おわりに(雑感)


 第2章:アダルトゲーム全体の中での学園恋愛系

 アダルトゲーム全体の中で学園恋愛系が占めてきた位置やウェイトについても、おおまかに私なりの展望を書いてみよう。アダルトゲームの中には、学園ものだけでなく、ヒロインたちを性的に蹂躙するダーク系もあるし(※黒基調のパッケージが多く、「黒箱系」「凌辱系」「鬼畜系」と呼ばれることがある)、アトリエかぐやのようにヒロインたちとの親密なセックスをひたすら描くジャンルもある(※仮に「ピンク系」と呼んでおく)。さらに、特有のゲームパートでプレイヤーを熱中させるSLG作品も多数存在する。それらの中で、学園ものがどのような地位にあったかを再考してみる。


 【 90年代から00年代前半にかけて:ワンオブゼムとしての学園もの 】 
 
 90年代は非常に混沌としていて、当時の先進媒体であるパソコンの環境上で、種々雑多な趣向の作品作りが自由に試みられていた。そして00年代前半までは、そうした自由な時代が続いていた。例えばlight、ぱれっと、PULLTOPの作品履歴を見れば、エロコメから近未来SFサスペンスから温泉街ファンタジーまで、様々な趣向のタイトルが並んでいるのが分かるだろう。

『復讐の女神』(ぱれっと、2003年)。ぱれっとは『ましろ色シンフォニー』(2009)などの学園恋愛系も多数制作しているブランドだが、00年代半ばまでは医療サスペンスや近未来SF、メイド同居スラップスティックコメディまで幅広いジャンルに取り組んでいた。

 とりわけファミレスもの(レストラン制服もの)は、90年代の『Piaキャロットへようこそ!!』シリーズ(1996-)以来、長く大きなブームになっていた。例えば『いただきじゃんがりあん』(2000/2005)、『ドキドキしすたぁパラダイス』(2003/2005)、『パティシエなにゃんこ』(2003)、『人妻コスプレ喫茶』(2003/2006)、『ショコラ』(2003)と『パルフェ』(2005)、『あると』(2006)等々、シリーズ化されるタイトルや、FDや移植版が発売されるタイトルも多数存在した(※ただし、ファミレス恋愛ものも、広く取れば白箱系にカテゴライズされる場合がある)。近年でも『しゅがてん!』(2017)、『喫茶ステラと死神の蝶』(2019)、『あまいろショコラータ』(2020)などが発売されており、飲食店ものは依然として人気ジャンルの一つであり続けている。

『パティシエなにゃんこ』(pajamas soft、2003年)。90年代以来のウェイトレス萌え文化や00年代のメイド喫茶に対応して、アダルトゲームでもレストラン(制服)ものには、学園ものに匹敵するほどの大きな人気があった。


 【 00年代を通しての変化:学園もののメインストリーム化 】

 学園恋愛系は、90年代の『同級生』シリーズから、(全年齢コンシューマの『ときめきメモリアル』[1994]を経由して)『To Heart』、『とらいあんぐるハート』シリーズ(1998-2000)などで大きな注目を集めるようになっていた。しかし、学園恋愛系が本当にメインストリームになったのは、00年代半ば以降だと言ってよいだろう。私見では、AUGUSTの『月は東に日は西に』(2003)、ういんどみるの『はぴねす!』(2005)、そしてPurple softwareの一連の作品(『夏色小町』[2003]から『秋色恋華』[2005]あたり)が、白箱系のプレゼンスを大きくしていった。さらに2006年には、Whirlpool(『いな☆こい!』)とゆずソフト(『ぶらばん!』)がデビューして、その流れを完全に定着させた。このあたりの展望は、別掲記事「学園恋愛系ブランド群」にも書いた。

『いな☆こい!』(Whirlpool、2006年)。00年代半ばのアダルトゲーム業界は、学園恋愛系の大きな再編期にあったように見受けられる。ういんどみるやAUGUSTが学園コメディで地歩を固める一方、Whirlpoolやゆずそふとのような大型新規ブランドが出現した時期である。

 ピンク系(明るい雰囲気の性表現にウェイトを置くジャンル)でも、00年代半ば頃から学園舞台に注目が集まるようになった。例えばアトリエかぐやは、2004年の『まほこい』以降、『Schoolぷろじぇくと』(2006)、『幼なじみと甘~くエッチに過ごす方法』(2007)、『プリマ☆ステラ』(2008)など、コミカルな学園もののタイトルを継続的に制作するようになった(chocochip氏原画のBerkshire Yorkshireチーム)。また、『炎の孕ませ』シリーズ(2005-)のSQUEEZブランドも、作品の大半は学園舞台である。
 それ以前のピンク系は、上記のウェイトレスものや、同居もの(例えば『はじめてのおるすばん』[2001]や『妻みぐい』[2002])が主流だったと思う。その他、古典的な館もの(メイドもの)や洋風ファンタジーものもあったが、00年代のうちはピンク系は少数派ジャンルに留まっていた。性表現を主軸とする路線のタイトルは、大半が攻撃的なセックスを描くダーク系だった。00年代末に低価格帯が拡大するとともに、ピンク系は急激に伸張する(特にNornとアパタイト系列)。

『Schoolぷろじぇくと』(アトリエかぐや、2006年)。00年代半ばのアトリエかぐやは、明るくコミカルな雰囲気の学園ものにも進出した。前半シナリオでは可愛らしいSD画像やユーモラスなお色気イベントが頻発するが、後半パートではベッドシーンが連続する。

 黒箱系(性的蹂躙描写を主眼にしたジャンル)と白箱系は、00年代後半までは市場的に拮抗していたようだ。「学園恋愛系は当たれば大きいが、ダーク系の方が堅実に売れる」という状況だったらしい。ダーク系には非-学園ものが非常に多く、例えば変身ヒロインものを代表とするバトルファンタジー(例えば『対魔忍』シリーズ[2005-])や、館調教もの(『女郎蜘蛛』[1997]や『闇の声』シリーズ[2001-])、触手もの(ただし『淫妖蟲』シリーズ[2005-]にも学園要素はある)、田舎奇習ネタ(『瀬里奈』[2004])などが主流である。ただし、例えばBISHOPのように、00年代初頭から学園舞台のタイトルを継続的に制作してきたブランドも存在する。
 ちなみに、00年代半ばには、黒箱系が蹂躙描写のみに純化していった。00年代前半までは、ピンク系の融和的なセックスシーンとダーク系の嗜虐的な性表現の両方がバランス良く含まれるタイトルも多かったのだが(例えば『超昂天使エスカレイヤー』[2002]、『夏神楽』[2003]、『碧ヶ淵』[2004])、00年代半ば以降はそうした両取り志向のタイトルは避けられるようになった。つまり、明るいピンク系は親密な性描写(イチャラブ)のみに特化し、ダークな蹂躙系はひたすら攻撃的なセックスのみを大量に提供するようになった。内容面でも、ダーク系の性表現は過激さを増していく。『姫騎士アンジェリカ』(2007)や『女体狂乱』(2008)がリリースされたり、Black CYCがエキセントリックな作品を連発したのも、この時期のことだ。白箱系でも、昔は攻略失敗するとヒロインがレイプされるような作品もあったのだが(例:『とらいあんぐるハート』)、00年代半ばにはそういった悲惨な描写は白箱系からきれいに排除された。
 このように、00年代半ばは、白箱系/ピンク系/黒箱系の三者が明確に分断再編されていく時期だったと言える。その変化を、「特化戦略によって内容が充実した」「ユーザーの期待を裏切らないコンテンツになった」と肯定的に取るか、それとも「多様性が失われていった」「驚きが失われた」と否定的に評価するかは、ひとによって異なるだろう。この頃から、アニメ等に主軸を置いている非アダルト系の声優たちが、白箱系にならば出演するという例が増えてきたのも、白黒分断が及ぼした影響の一つと思われる。
 10年代に入ると、世間的な情勢もあってか、フルプライス級の黒箱系はタイトル数を減らしていったようだ。現在ではGuilty系列、つるみく、BISHOP、LiLiTH系列、NEXTON系列、CYC系列、Tinkerbell系列、Waffle、わるきゅ~れ、ZION、縁(yukari)、CHAOS-Rなどのブランドが精力的に活動しているが、一部は中価格帯~低価格帯を主戦場にしている。また、SLG系ブランドのEscu:deとninetail系列も、主にファンタジー世界を舞台にしつつ非常にハードな性表現を展開している。

『魔法戦士エリクシルナイツ』(Triangle、2007年)。変身ヒロインものは、アダルトゲームの王道ジャンルの一つである。歴史的には『流聖天使プリマヴェール』(Escu:de、2000年)がその出発点だとされ、とりわけTriangleの「魔法戦士」ものは長寿シリーズになっている。

 SLG系作品は、次第に数を減らしていった。90年代から00年代前半までは、様々なゲームシステムを搭載した意欲的なタイトルが多数リリースされていた。自社プログラマーを抱えているメーカーも多かったようで、AVG中心のブランドでもファンディスクにミニゲームが収録されることも多かった。しかし、00年代半ばになると、アダルトゲーム分野全体が読み物AVGへと大きく舵を切っていき、SLG作品は、ごく一部のSLG系専門のブランドが制作するばかりとなった。
 現在では、本格的なSLGを制作しているのは、alicesoftとEscu:deの二大ブランドのほか、ninetail系列、Eushully、でぼの巣製作所、Digital Cute、戯画、Astronautsを数える程度である(※残念ながらソフトハウスキャラは、2020年3月をもって解散してしまった)。SLG作品は、その性質上、社会関係を広く扱ったり、戦闘パートを設けたり、調教SLGや経営SLGであったりするため、非-学園ものが大半である。
 余談ながら、性表現の方向性に関しては、SLG系タイトルは大きな自由を享受している。つまり、SLG作品には、一つのタイトルの中で美しい恋愛描写とハードな蹂躙シーンの両方を扱っているものが多い。00年代半ば以降の「白箱系と黒箱系の分断」を免れているのは、SLG系ジャンルの大きな強みだろう。その理由は様々に考えられる。1)登場キャラクターが多いため、特にサブキャラは被害要員にさせやすいのかもしれない。また、2)敵味方の対立構造を取ることが多いため、味方側ヒロインとの恋愛と敵対ヒロインへの蹂躙の両方を扱うことになるのかもしれない。3)「ゲーム性」という確固たる集客要素があるため、性表現の路線を黒箱or白箱に絞り込む必要が無いのかもしれない。4)大作タイトルになりがちであるため、両取り戦略を実行できるだけのキャパシティがあるのかもしれない。5)alicesoftやEscu:deのようなSLG系ブランドが、そうした懐の深い文化を涵養してきたのかもしれない。

『グリンスヴァールの森の中 ~成長する学園~』(ソフトハウスキャラ、2006年)。特有のゲームシステムを持つSLG系タイトルは、経営SLGや調教SLG、戦争SLG、ダンジョンRPGなどが主流であり、学園ものは少ない。


 【 10年代のさまざまな動き:学園ものが再び相対化される 】
 
 学園恋愛コメディの流行は、10年代に入っても持続していた。上記ぱれっとやPULLTOPも、学園ものに大きく注力していった。HOOKSOFTも相変わらず元気だし、clochetteも白箱系ブランドとして存在感を増していった。SAGA PLANETSも、『Coming×Humming!!』(2008)で白箱系ブランドに模様替えをして以降、順調な制作を続けている。Ricottaの2作品『プリンセスラバー!』(2009)と『ワルキューレロマンツェ』、spriteの2作品『恋と選挙とチョコレート』(2010)と『蒼の彼方のフォーリズム』は、それぞれアニメ化までされた。ちょうど黒箱系が激減しつつあったことに鑑みれば、10年代初頭は、アダルトゲーム全体の中で学園恋愛系のプレゼンスが最も大きかった時期かもしれない。

『プリンセスラバー!』(Ricotta、2009年)。このブランドが制作した2本のタイトルは、巧みなマーケティング戦略によって、どちらもTVアニメ化されるまでにコンテンツ展開された。見ようによっては、学園恋愛系アダルトゲームの最盛期であったかもしれない。

 しかし、学園恋愛系がアダルトゲームの中心街であった時代は、10年代前半でいったんピークを過ぎたと考えている。なかでもAUGUSTは、2011年の『穢翼のユースティア』で、いち早く学園恋愛ものからの離脱を試みた。FAVORITEやPurple softwareも、学園ものの枠組に囚われない挑戦的なコンセプトやシチュエーションに意欲的に取り組んでいったし、近年ではCUFFS系列も非-学園ものに進出しつつある。
 時流に敏感な新規ブランド群にも、その傾向は見て取れる。例えばLaplacianは、第一作『キミトユメミシ』(2016)の時点では伝統的な学園もののパターンを踏襲していたが、その後すぐに歴史ものや未来SFへと路線変更していった(歴史ものは『ニュートンと林檎の樹』[2017]、未来SFは『未来ラジオと人工鳩』[2018]と『白昼夢の青写真』[2020])。2017年デビューのきゃべつそふとも、第一作『星恋*ティンクル』とその次の『アメイジング・グレイス』(2018)はどちらも意欲的な設定の学園ものだったが、第三作『あまいろショコラータ』は異種族喫茶店もの、そして第四作『さくらの雲*スカアレットの恋』(2020)は大正時代へのタイムスリップものと、学園ものに囚われない創作活動を展開している。
 先に第1章で述べたように、「学園もの」の枠組を利用する場合でも、そこに様々な独自要素を投入していくのが、10年代のアダルトゲームの常道になっている。学園ものの体裁を取りつつも、作品の中心的要素は架空スポーツの激しい鍔迫り合いであったり(『蒼の彼方のフォーリズム』)、童話モティーフの悪夢的な幻想譚であったりする(『ハピメア』)。

『ニュートンと林檎の樹』(Laplacian、2017年)。このブランドは、デビュー作はオーソドックスな学園ものだったが、この第2作では近世イギリスを舞台にした科学史サスペンスに挑戦した。その後も、SFをベースに独創的なタイトル群をリリースしている。

 とりわけ歴史女体化ものは、『行殺新撰組』(2000)の頃からアダルトゲームのお家芸だったが、10年代に入ってからもそうした動きが(あらためて)大きくなっている。00年代以来の『恋姫†無双』シリーズ(2007-)を代表に、『戦国天使ジブリール』(2011)、『英雄*戦姫』(2012)、『機関幕末異聞ラストキャバリエ』(2015)、『将軍様はお年頃』(2018)、等々のタイトルが出現している。もちろん、いずれも非-学園ものである。

『英雄*戦記』(tenco、2012)。歴史上の人物を女体化するのは、アダルトゲームが得意としてきたアプローチである。同様に、様々な事物を擬人化するのも、『Like Life』(2004)が先鞭を付けていた。

 また、低価格帯の増加とともに、マニアックな趣向のニッチ路線が様々に展開されるようになっている。例えばCYC系列(CYCLET)は昆虫ネタやスプラッターなどの過激趣味を突き進んでいるし、アトリエさくらは寝取られものを量産し続けている。アパタイト/アンモライトは黒ギャルものや高齢ヒロインものをいくつも制作しているが、このような趣向は00年代以前にはまず不可能だっただろう。脳内彼女/の~すとらいくは『女装○○』シリーズを続けているし、ぱちぱちそふとや近年のfrillはenkouものを得意としている。MORE系列は、センチメンタルで退廃的な雰囲気を前面に押し出している。でぼの巣製作所は、ローグ系妖怪退治SLGの『神楽黎明記』シリーズ(2017-)を長く続けている。催眠ネタも、いくつものブランドが手掛けるようになっている。
 個別に見ればマンネリのようでもあるが、様々なニッチジャンルがそれぞれ一定の客層を掴みつつセールスを維持していると言うことができる。そして、アダルトゲーム全体として見れば、00年代後半~10年代前半と比べて、2020年現在では多様性が飛躍的に増している。しかもそれは、90年代のような素朴なカオスではなく、この二十年間に亘るオタク文化全体の蓄積と洗練と先鋭化に対応したクオリティを備えている。

『カサブランカの蕾』(DOLCE、2017年)。MOREブランド系列は、ヒロインの内面のデリカシーにまで踏み込む影の濃いシナリオを得意としている。

 ただし、10年代半ば以降でも、学園恋愛系に軸足を置いた新規ブランドも、いくつも登場している。まどそふと(2013年の『ナマイキデレーション』がデビュー作)、HARUKAZE(『らぶおぶ恋愛皇帝 of LOVE!』[2013]と『ノラと皇女と野良猫ハート』[2016])、CRYSTALiA(『絆きらめく恋いろは』[2017]でデビュー)はいずれも学園舞台をベースにしている。Qruppoのデビュー作『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?』(2018)も、その年の話題作になったが、舞台設定としては学園要素を伴っている。ゆずソフトの人気や、戯画の『○○キス』シリーズの継続展開(2012-)からも窺われるとおり、2020年現在でも学園恋愛系が人気ジャンルの筆頭であることに変わりは無い。


『ノラと皇女と野良猫ハート』(HARUKAZE、2016年)。10年代後半以降の学園ものアダルトゲームは、昔のような野放図な自由さを取り戻している。しかも同時に、技術的な蓄積と最先端の洗練をも身につけている。


 おわりに(雑感)

 だいたいこんな感じだと思う。10年代後半以降は、まだ私の中で整理できていないが。おおまかに言えば、「学園恋愛コメディは、00年代半ばまでういんどみるが盛り上げてきて、そこから十年ほどの出来事だった」という見方をしている。「猫も杓子も学園系」という通念的イメージに反して、実際にはそれほど圧倒的だったわけではないし、その時代もほんの十年かそこらに過ぎなかった。ずっと続いているような印象もあるが、実際にはそれほど長いわけではなかったと言えるだろう。
 アダルトゲーム全体としては、最大の盛り上がりは00年代初頭~半ば頃だったと思われるが、フルプライスアダルトゲームの中での学園ものの占有率は、むしろ00年代後半から10年代初頭が最も高かったと思われる。現在のアダルトPCゲームでは、学園ものはあくまでワンオブゼムであり、それ以外にも様々な趣向のタイトルが自由に散在しているし、学園ものそれ自体もありとあらゆるネタに挑戦している。多様性という観点で言えば、状況は良くなっていると考えたい。

 私はSLG系ゲーマーなので、当初から学園ものを相対化する視座を取っていた。例えばソフトハウスキャラは、ライトな学園ものは事実上ゼロ。学園要素が含まれるタイトルで抽出しても、『アルフレッド学園』『LEVEL JUSTICE』『グリンスヴァール』『アウトベジタブルズ』『悪魔聖女』の5本のみ。SLG系ブランドでは、alicesoftやEscu:deやninetail系列も同様に、学園ものは少ない(alicesoftの学園舞台SLGは『学園KING』、Escu:deは『メタモルファンタジー』が一応存在するという程度)。だから、「アダルトゲームは、べつに学園恋愛系AVGだけじゃないよ」という意識は強くあった。
 黒箱系やピンク系を中心にプレイしている人たちも、それぞれの意見や歴史展望を持っていると思う。例えば、BISHOP基軸とかアトリエかぐや基軸でのアダルトゲーム史展望があったら、是非聞いてみたい。きっと刺激的な示唆が得られるだろう。