2025/01/04

漫画雑話(2025年1月)

 2025年1月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。


●新規作品など。
 山田はまち『マイトワイライト』(単巻、昨年末の発売)。かつて漫画家を目指していた女性が、再び漫画の道を進もうとする話。まさに作中でもくりかえし言及されるとおり、「血の通った」力強く意志的なキャラクターの努力が鮮やかに描かれている。
 この作者の新連載『泥の国』第1巻も同時発売されている。こちらは、異世界転生者によって自分の身体を奪われた人々が、アイデンティティと尊厳を取り戻そうとする物語。こちらも堂々とした女性キャラクターが主人公で、たいへん魅力的。

 末太(まつだ)シノ『女北斎大罪記』第1巻。急死した北斎に成り代わってその仕事を続けようとする娘「栄」の話。ストーリーを長く続けていくのは難しそうだし、絵作りにももったいないところがあるのだが(表情が単調だし、コマ組みも平板)、それでも力強い絵には大きな魅力があるし、ここぞという見せどころをきちんと構築しきっているので、読後感は良い。

 ジャンププラス『10周年読切集:生』。オンライン掲載されていた読み切りからの選集。性別不合の女性(心は男性)と猟師の父親(片親)の間の関係を描く「にくをはぐ」は、ややベタな筋書きながら完成度は高い(※以前に刊行された『遠田おと短編集』で、すでに読んでいたが)。バレーボール少女たちが第二次性徴の困難と向き合う「16歳の身体地図」は、性徴の描き方にオリジナリティもあり、ドラマ作りとしても巧みに出来ている秀作。
 ということで「恋」「情」「変」の3冊も買ってきた。残念ながら『変』は凡作揃い。『変』の一本も『情』の中の一作も、横の枠線だけでコマ組みする(言い換えれば縦の枠線を一切使わない)という特殊なレイアウトを試みているが、正直言って非常にダサい。外連味があるようでいて陳腐だし、緊張感があるようでいて退屈だ。要するに、コマ組みに関する漫画表現の可能性をこんなふうに自分で大きく縛っているわけで、いわば奇策で自爆しているに等しい。というわけで、『情』編は玉石混淆ながら、総じて見せ方の上手い作品が多く、読み応えがあった。
 さらに『恋』編は、いずれも完成度が高い。もちろんこれらは、元々は「恋」のテーマに縛られて描いたものではなく、個々の作品も単なる恋愛感情だけの物語ではない。それぞれに家庭背景や、笑顔の仮面、多重人格といった大きなギミックをドラマの梃子として持ち込んでおり、それらの扱いも上手く成功している。巻頭の「キスしたい男」は、空間的な奥行きのあるレイアウト(カメラワーク)を多用して。迫真性をもたらしているし、朝賀氏のホストものも二転三転のどんでん返しがきれいに出来ている。「心中」は、脇役の動かし方などがいささか強引だが、二人の境遇と心情がまっすぐ噛み合っていく対比的描写が心地良い。最後の「うつろうカノジョたち」は、インパクトの強い絵を堂々と使い切って優れた演出効果を挙げている。


●カジュアル買いから。
 宮木真人『魔女と傭兵』(原作あり)第4巻。今回表紙になっているサブヒロインの「イサナ」が、着物剣士+ダークエルフ(のような外見の少数民族設定)+戦闘力は非常に高いがやや考えが足りなくて暴走or空回り気味+怒りっぽいが真面目で苦労人気質という、なかなか濃厚な萌えキャラとして出してきている。……というわけで既刊も買ってみたが、キャラの動かし方が機械的で、物語進行の都合を優先してキャラクターの内面造形がしばしば死んでいるのが気になる。例えばメインヒロインの魔女も、ただ主人公を立てるように振る舞っているだけで、キャラが生きていない。上記イサナも、すぐにチープな驚き役に回ってしまう。このあたりは描写がイージーだと思う。原作由来なのか、それとも漫画版の問題なのかは分からないが、主人公の特異な振舞いを描こうとするあまり、それ以外が添え物になってしまっているように見受けられる。
 高津マコト『渡り鳥とカタツムリ』第4巻。昨年まで連載していた『アラバスターの季節』(全3巻)はなかなか良かったので、絵柄ともどもしっかり覚えていた。躍動感のある生き生きしたポージングや、衒いのない堂々とした表情作りも魅力的だが、ストーリーも独自の味わいがある。つまり、登場人物たちの生活の周囲(現代日本)には、性犯罪などの様々な陥穽の危険があることが示唆されており、そういった板一枚の下の暗部についても作者は誤魔化し無しに誠実に認識している。しかしそれでもなお、キャラクターたちはそういった危険をなんとか逃れつつ、元気に力強く生きようとしている。彼女たちの表情は、一見すると能天気なまでに朗らかなのだが――そしてそれは、まさにこの漫画家の魅力なのだが――、その一方で、やんわりとした苦みと、時折訪れる静かな内省の情趣もまた、深い印象を残す。面白い作家さんだと思うので、いずれ既刊も買って読みたい。
 西馬ごめゆき『Double Helix Blossom』第3巻。アサウラ氏原作(原案)なので買ってみた。少女どうしのバディもの、エッジの立ったキャラ造形、テクニカルなガンアクション(逆転に次ぐ逆転)、そして流血もある激しい展開と、いかにもアサウラ氏らしいシチュエーションで、漫画家サイドも脚本の醍醐味を上手く掬い取って表現しているのだが……延々バトルを続けているのは、個人的にそろそろ飽きてきたかも。キャラの生死に関わるような過酷なシーンや、人体実験のような悲惨なシチュエーションもあるし、キャラクターの情動も一貫しているのだが、エンタメ作品としてウェルメイドに整えられすぎているのが、かえってドラマの緊張感や切迫感を削ぐ結果になっている。
 yoruhashi『はめつのおうこく』第12巻。近代文明の下で魔女たちが迫害されるようになった悲惨な世界の物語。かなりハードなところまで状況を掘り下げているようだし、漫画表現としても、空間的表現(アングル選択)や二重写し演出など、なかなか読みごたえがある。うーん、既刊も買うか?
 賀東アリ『僕と君達のダンジョン戦争』第2巻(完結。原作あり)。どうやら各国がダンジョン探索競争をさせられている世界なのだが、メインヒロインが虚ろな目で天使たち――つまり見た目は人類とほとんど変わらない――を虐殺しまくる血まみれの姿に主人公が怯え続けるという不穏な状況のまま完結していた。カバーイラストのインパクトを初めとして、バトルシーンの紙面構成の上手さ、空間表現の気持ち良さ、ざらついた質感表現など、良いところも多々あるだけに、シチュエーションのグロテスクさがもったいない。SNSを見たかぎりでは、この漫画家さん自身、ハードな状況での激情を描くのがお好きなようだから、次の作品で面白いものを見せてくれたら嬉しい。

 ……というわけで、今月はバトル要素のあるカジュアル買いが(偶然にも)多かったが、残念ながらハズレ傾向だった。
 個人的に、あまり手を出さないジャンルはラブコメ、格闘、スポーツ、美食、萌え四コマあたり。ラブコメやお色気コメディは、ハズレ率が高すぎる(※作品数は多く、演出ノウハウも蓄積されている筈なのに、不思議だ)。露骨な異世界ハーレムも、まず買わない。ホラーも避け気味だが、ホラー路線ではない怪異ものは買う。


●続刊ものなどのショートコメント。
 LEEHYE『生まれ変わってもよろしく』第3巻。韓国のオンライン縦読み漫画を、日本風のコマ組み漫画(書籍)に再編集したものだが、コマ組みはまっとうに処理されている。フルカラー漫画なので、コマの背景色などで感情表現をしているのも面白い。
 『エクソシストを堕とせない』第10巻。学園編の中途半端さから一変して、この怠惰編はわりと面白い。「社会参加の放棄」「女性嫌悪」「反出生主義」といったテーマ的示唆が明確になっているのも一因だが、主人公キャラの背景(過去)を掘り下げることにもつながっている。
 万丈梓『恋する(おとめ)の作り方』第9巻。可愛い女装男子キャラの二重性を最大限に発揮させる文化祭イベントは、見事なクライマックスを披露している。ただし、「本番直前にペンキをこぼして衣装が駄目になる」といったように、筋運びそのものはあまり上手ではないのだが、そうした瑕疵は問題ではない。キャラクター性の核をしっかり掴まえて表現していることこそが重要なのだと見るべきだろう。
 きただりょうま『魁の花巫女』第2巻。ベタなハーレムもののようだが、キャラクター造形にきただ氏らしい不思議な味わいがあるし、各話サブタイトルを見ると、なんだか美少女ゲームのキャラクター別イベント進行(フラグ進行)を模しているようにも見える。
 イズミダフユキ『マダラランブル』第3巻。素肌露出が多めな、吸血鬼ハンター少女たちのバトルもの。基本的には、「シリアスなようでギャグに見える」アプローチだが、外連味のある演出を楽しげに試みているのがたいへん気持ち良い。さらに映画『シャイニング』パロディ(※姉妹横並びの扉絵)も出してこられたので好感度が上がった。これは買い続けよう。
 橋本花鳥『ルキオラと魔境の商館員』第3巻。主要キャラが出揃って、本格的に魔境進出していくところ。相手の文化を尊重しつつ交渉していく姿勢が、漫画表現として上手く取り込まれており、読み応えがある。
 梵辛『チュンの恩返し』第2巻。擬人化スズメたちとの物語だが、キャラクターの内面造形(情動)と行動原理の芯がしっかり確立されているので説得力があるし、個々の小話も独創性がある。メインヒロイン「おチュン」の純朴で生き生きした振る舞いも魅力的だし、鳥類たちの絵も可愛らしい。要するに、コンセプト+物語+絵作りがきちんと噛み合っていて、作品全体がピントの合った像を作っているのが良い。この作者は『くちべた食堂』(既刊3巻)も連載しておられるが、そちらは不買対象のKADOKAWAなのが残念。
 ひつじロボ『キメラプロジェクト:ゼロ』第5巻(完結)。ケモショタ人工生命体たちと人間の闇を絡み合わせた作品。終盤は悲壮な展開だったが、最後はきれいな結着に行きついた。作者(作画担当)は明らかに本格派のケモ系クリエイターなので、今後の活動にも注目していきたい。
 山口譲司『江戸の不倫は死の香り』第2巻。もしかして、この作品の各エピソードは史実の記録に基づいていたりするのだろうか?(だとしたら、それはそれで不気味だ……)
 ヨシアキ『雷雷雷』と田村隆平『COSMOS』を同時購入したら、特典イラストカードをもらえた(知らずに買った)のはちょっとラッキー。ただし、本編については評価が分かれる。『雷雷雷』第4巻は洒落っ気に満ちた演出がみごとに決まりまくっているし、コマ割レイアウトも抜群に上手い(※一ページあたりのコマ数もかなり多めで、濃密な紙面になっている)。ストーリー面でも、複数の組織(主人公たち/上層部/ライバル/エイリアン)の思惑の絡み合いをきれいに処理(表現)している。対するに『COSMOS』第5巻は、強敵との戦いでアクセルを踏みきれなくて、もどかしい展開になってしまっている。もったいない。
 金光鉉『DRAWING』(原作者あり)第13巻を、前巻からの流れで、つい買ってしまった。しよーもない部分もあるのだが、「ここは良いな!」という見せ場や、「ここの雰囲気は気持ち良く出来ているなあ」という箇所がちょこちょこ出てくるので、なんとなく読み続けてしまう。なるほど……。
 しなぎれ『女装男子はスカートを脱ぎたい!』第2巻。新キャラも上手くストーリー展開に嵌まっている。まるでTVテロップのような説明キャプションも、安っぽくなりかねない見せ方だが、この漫画ならばありだろう。
 椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第10巻。主人公の過去編をじっくり描いているので、コマ割の外連味は控えめ。主人公の内面から一歩距離を置いたストーリーテリングが上手く嵌まっている。
 ソウマトウ『シャドーハウス』第19巻。ようやくラスボスの姿が見えてきて、物語は最終段階に入っていくようだ。相変わらず背景作画が濃密で素晴らしい(※スクリーントーンではなく、手書きのカケアミでほとんどの陰影を表現しきっている)。