2026年2月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。
こちらも試しに、評価点をつけてみる。
●新規作品。
二宮ひかる『うさぎも夢見るクリームソーダ』第1巻(少年画報社、1-7話)。人類の繁殖のために作られた兎型デミヒューマンの主人公が、友の喪失や、新たな隣人との出会いなどを通じて、その実存的な苦しみを強く意識していく。00年代前半にこの漫画家が手がけた『犬姫様』のモティーフを拡大して尊厳破壊的な社会構造と直面する個人のドラマとして鋳直したもののように見受けられる。この作者らしく、内圧の高さを窺わせる感情の不穏さ、精神の危機に陥った瞬間の怖ろしさ、そして爆発的な激怒の表情などが、主人公一人の心の推移としてまっすぐに描かれていく。90点。
たかはしツツジ『声の降るへや』第1巻(小学館、1-9話)。イラストレーター主人公と、その部屋に転がり込んできた旧友(癒やしヴォイス配信者)、そしてその隣人や会社の同僚たちの関係を次第に構築していく。作画に関しては、基本的には上品に整った男女美形キャラたちだが、困惑や怒りなどの表情では適度に崩してとっつきやすくしている。テーマ性は今のところあまり感じず、基本的には温和な恋愛コメディとして展開していくようだ。70点。
須賀晶『不死鳥殺し』第1巻(講談社アフタヌーン、1-4話)。三河地方の寂れつつある村を舞台にして、主人公が神社の奇祭を復活させて復興を図ろうとする話。ヤクザとの対決や、地元に残った知人との軋轢など、ストーリー展開はベタなホームドラマ風だが、線の太細を大きく変えるパワフルな作画には一定の魅力がある。65点。作者はこれが商業初連載だろうか。
●カジュアル買いなど。
窓口基『東京入星管理局』第5巻(28-33話、完結)。溢れんばかりのアイデアと掘り下げのある窓口氏による、SFベースの組織ドラマ。存在は知っていたが、既刊を買えずにいた。今巻では、地球に入星していた(様々な認識阻害で見えなくされていたらしい)異星人たちの存在が暴かれて、超現実的な風景が一気に噴出し、ほとんどサイケデリックなまでの情景がふんだんに展開される。ただし、漫画進行としては、少々錯綜していて状況が把握しづらい。75点。
ゆりかわ『はじめてのセフレ』第2巻(小学館、8-14話)。さらに第1巻も買って読んだ。スポーティな褐色肌ヒロインと、大学生主人公が、たまたまそういう関係になってしまったが、どちらもシャイで誠実な性格で、それゆえにこそ、身体だけで始まった関係から踏み出せずに悶々としているという状況。褐色肌キャラに惹かれて表紙買いをしたが、なかなかの当たり。もちろん性的な行為の描写もあるのだが、その一方で、「ホテルに入ったが、お互いの好きな映画を一緒に見ているうちに一晩を過ごしてしまった」といったような微笑ましいエピソードも多い。作者はこれまで、アダルトコミックを含めていくつもの作品歴があるようだ。75点。
眞山継『シャンバラッド』(5-9話)。昨年11月刊行だが、見逃していたものを後から購入。ヒロインの運命はやや後景に退き、男性主人公の意志と決意にフォーカスを当てている。ライバルとなる隣国の王子との関係など、面白いところもあるのだが、話の大筋がまだよく分からない。65点。
●続刊等。
1) 現代ものやシリアス系。
みいみつき『楠木さんは高校デビューに失敗している』第7巻(43-48話)。絵柄こそキャッチーだが、ストーリー面では、過去のトラウマ体験から自らの社会性を取り戻そうとする苦しみや、相手に受け入れられない関係の苦みなどを率直に描いており、基本的にはシリアスな思春期ものと言える。登下校時の路上など、背景作画もしっかり描かれているので、その世界の中をキャラクターたちが動いて、生きているという臨場感がある。80点。
こだまはつみ『この世は戦う価値がある』第5巻(42-53話)。友人一家の交通事故問題と関わっていく中で、主人公は改めて自分の両親から抑圧されてきた過去を自力で振り払い、そして自分が自分であることの価値を取り戻す。東京の港湾風景――どうやら江戸川あたりらしい――の、物寂しくも開放的で、厳しくも突き放した情緒のある情景が、本作の荒々しくも痛切な物語によく似合っている。90点。
mmk『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』第5巻(69-85話)。お色気要素込みのラブコメだが、キャラクターの心情が丁寧に描かれているので、真面目な恋愛ドラマとしても読みご多恵がある。つまり、メイン2人の一対一の関係にひたすら集中して、お色気に踏み込むか踏み込まないかのぎりぎりの躊躇と羞じらいで手綱を握りつつ、そのうえで描くべきシーンは堂々とストレートに描いている。色っぽいシーンも、ラッキース○ベのようなイージー展開ではなく、あくまでキャラクターの意志と判断と対話の中から積み重ねていくところに凄みがある。潤いのある表情、角度をつけたレイアウトと、そしてコマ組み演出の心地良さが相俟って、説得力のある漫画になっている。そして今巻では、プールイベントから夏祭のクライマックスへと話をじっくり進めている。85点。
まめ猫『純情エッチング』第3巻(12-17話)。アダルトコミックを作ろうとする話なのだが、情熱的なクリエイターものとして素晴らしい。技術的なディテールから、アイデアの掘り下げ、そして絵そのものによる説得力など、創作行為の真摯な追求のドラマとしてその出来映えに唸らされる。ただし、ほとんどバトルもののようなノリだし、主役ヒロインの動きが鈍い(行動の主体性がやや乏しい)のだが、このまま続いていってくれたらと願うばかり。80点。
阿久井真『青のオーケストラ』。第14巻(86-92話)。国際大会の終わりから新年度へ。米国の高校オーケストラの全員が金髪白人キャラというのは、さすがに偏りすぎでは……。アフリカ系やヒスパニック、そしてアジア系も当然いるし、むしろ金髪は少数派なくらいだと思うけど。こういう浅いステレオタイプがほとんど純血主義か何かの表現のように見えてしまうところまで行っているのは、この作品の大きな瑕疵だろう。「自信家なアメリカ人」、「謹厳なドイツ人」のような前世紀的な偏見を無邪気に出してくるのは、さすがに、ちょっと……。とはいえ、「自信たっぷりな金髪白人米国人チームがアメコミシャツでアメコミ志向の曲を超絶技巧で演奏して、優勝をかっ攫っていく」という描写があまりにも非現実的なせいで、読者の側も、狐につままれたような一種の幻想性の中でその勝敗結果をなんとなく納得して受け入れてしまったというのも確かだ。80-10点。
笹乃さい『ブループランター』第2巻(4-10話)。主題としての宇宙農業に関する具体的な小ネタを視野に入れつつも、今のところは学校内でのミニマルな人間関係が中心になっている。モティーフのオリジナリティとストーリーのありきたりさの間で、上手く伸びていってくれたらよいのだけど……。65点。
乙川灯『黒根さんはニャーと鳴かない』第3巻(11-15話、完結)。無愛想な女性主人公よりも、その相方の外面の良い男性主人公の内面造形の方にウェイトが置かれている。作劇、作画ともにちょっとレトロオタク感のある温和な日常ドラマのトーンを維持して締め括った。70点。
柊裕一『履いてください、高峰さん』第11巻(64-68話)。二人の関係はひとまず落ち着いたところで、ライバルキャラの闖入。ネタは強引でつまらないが、丁寧な背景作画や見開き大ゴマを通じて紙面構成の迫力が確保されているおかげで、ちょっと不思議な面白味がある。
工藤マコト『不器用な先輩。』第11巻(102-108話、完結)。円滑な人間関係を構築するのが苦手な主人公が、誠実に苦悩しながら後輩パートナーとの適切な距離感を見出そうとするのが、結局は「転職」という強引な解決法になってしまったのは微笑ましいが、恋愛騒動ものとしてのクドみを出さずに物語を語りきったユニークさは評価したい。
あきま『人喰いダンジョンと大家のメゾン』第3巻(15-22話)。巨大構造物のエネルギー循環システムに目を向けつつ、襲撃者「マンションマン」たちの謎にも接近していく。弐瓶勉フォロワーのような位置づけになりそうだが、本作はSFめいたメカニカルなくすぐりはあるものの、本格的な(システマティックな整合的説明を前提とした)SFという感じではない。グロテスクなクリーチャーとの戦いも、今一つ解決感のないまま進んでいく。75点。
恵広史『ゴールデンマン』第8巻(57-66話)。謎のヒーローの物語は、一種の平行世界設定から主人公の悲惨な生育背景を辿り返して、そしてアイデンティティを取り戻すところまで到達した。超能力開発のための少年人体実験というのはベタではあるが、作劇の巧さと作画の迫力が相俟って、スピード感と重量感のあるドラマになっている。80点。
飛鳥あると『マスケットガールズ!』第5巻(25-30話)。今巻は戦場ではなく政治に焦点を当てて、帝国内部の分裂危機を描いていく。悪役サイドも万能ではなく、各勢力がそれぞれに苦しい状況下でサバイバルのための暗闘を続けていく。こうした描写は小説媒体でもよいのだが、各アクターの人間的な意思や感情を鮮やかに伝え、そしてドラマティックな「溜め」を作るうえで、この漫画版は成功している。80点。
石沢庸介『第七王子』第22巻(182-187話)。堕天使ボスとの総力戦。空間的なスペクタクル、連携行動の巧みさ、激しい感情の噴出、パワフルな見せゴマ、テクニカルな魔術バトル、そしてショタ寄りのお色気と、贅沢に詰め込んでいる。90点。
kakao『辺境の薬師』第11巻(86-93話)。今巻も、絵と演出のクオリティがすさまじい。衣類の質感から調度品の模様まで繊細に描き込まれた豊かな紙面。どんな角度でも背景を融通無碍に描きつつ、うるさくならない範囲で空間的な開放感を表出する作画。そしてそれらを通じて表現される、キャラクターたちの率直でデリケートな心情と、リッチで幸せな日常の雰囲気。ただしストーリーは、やはり根本的にはしよーもないのだが。85点。
コノシロしんこ『うしろの正面カムイさん』第12巻(110-119話)。怪異ネタをユーモラスに解釈する切れ味は相変わらず。ウージーや『バハムートラグーン』ネタ、エレベーターガールのラスボスなど、小ネタも含めたサーヴィス精神も。75点+ネタ要素5点。
ツナマサ『DOG MATIC』第2巻(8-19話、完結)。獣人キャラたちの不気味な造形も、シーンごとの迫力ある演出も、かなり良く出来ているのだが、ストーリーが展開しきらないまま、あえなく終了。次作に期待したい。
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