2014/09/29

キャラデザとファッションアイテム

  美少女ゲームのキャラデザに際して、どのような小物類が導入されているかについて。


  【 話のきっかけ。キャラデザとアクセサリー。るちえ氏と☆画野朗氏 】
  緑茶新作。るちえ原画前作の『恋色』では、清美さんが左腕と左太腿にリボン――本来は制服の襟に結わえておく筈の――を結んでいたが、そのフリーダムの象徴だったものが、今作では楢岡さん(靴下無しの左足首リボンに、左太腿にシュシュ、それから両腕にもそれぞれシュシュとチェーン付きブレスレット)と萩さん(左手首)の二人に分かち持たれている。妹の片方も、腕にミサンガらしきものを結っている。堤さんが腕時計をしているのも、美少女ゲームキャラとしてはかなり珍しいのではなかろうか。二人のメイドにも、リストバンドのような腕留めがある。楢岡さんも、見返してみると指先にもリングやリボンを付けている。総じて美少女ゲームのヒロインたちは、しばしば髪留めばかりが幼稚過剰だが、2014年の最新モードのるちえ氏はこういった小物がブームのようだ。残念ながら胸部は相変わらず鏡餅を貼り付けたような奇妙な丸さだが。

  腕や足にリボンというと、『水月』を思い出す。双子ヒロインがそれぞれ右手首と左手首にリボンをしているのだが、脚本上でもこの姉妹の絆を表す小道具として扱われていた。原画集の☆画野朗によると、このデザインは「最初は無かったものなんですよね。原画作業を進めていくうちに、ぽわっと勝手に湧いて出たものなんです。特に理由も無いんだけど、それが無いとダメな気がして、トノイケさんに了解を得ました。僕的にはそこまでだったんですが、彼がそれに対して意味を授けてくれました」(83頁)という。キャラデザ側の直感的なアイデアが、テキスト側で解釈されてシナリオ上での機能を与えられるに至ったという、刺激的な交流の見本でもあり、そしてまたキャラデザとしても、素肌に黒ワンピース一枚だけという、シンプルであり神秘的でもありまた肌の露出も多い姿に対して、引き締まったアクセントを与えるものになっている(――ちなみに、「素肌」だというのは、さすがに下[パンツ]は履いているものの、上[ブラジャー]は付けていないという話)。

  髪飾りヒロインが膨大であるのに腕時計ヒロインが稀だというのは、気付いてみれはずいぶん不思議だが、いったい何故だろうか。たとえば、立ち絵の中で目立ちにくいからとか、解像度の関係で目立ちにくいからとか、立ち絵を反転利用できないからといったような、即物的な理由だけだろうか? もっとイデオロギー的な、美少女ゲームで意識されている価値観にも関わっているのではないかと想像している。学生ヒロインだからといって、腕時計まで学則で禁止されているということはなかなか無いだろうし。腕時計は、外見上のヴァリエーションで差異化しにくく(盤面までは見せられず、せいぜいバンドの色程度の違いしか見せられないだろう)、立ち絵の腕部はプレイヤーからも見えにくいので、キャラクターのセンスを表現するには不向きだということなのだろうか。



  【 実例検討 】
  上記の話。getchuでキャラデザをサーベイしているのだが、成人男性のビジネスマンキャラですら、腕時計をしている者がほぼ皆無というのは、ほとんど不可解など極端な偏りを示している。たぶん美少女ゲームだけでなく、ゲームキャラ一般、あるいは漫画やアニメも含めて、この奇妙な傾向はあるのかもしれない。むしろ女性向けの方が、(格好良さのシンボルとして)腕時計率が高いかもしれない。何故こうなるのか、なんだか興味が出て来た。オタクに限らず、現代の若年層は腕時計をしなくなっていると思うが。
  ちなみに私は腕時計をしていないし、実生活上での腕時計への興味も無い。以前(学生時代)はごくシンプルな腕時計を使っていたが、それを紛失してしまってからは、常用しなくなった。試験監督などで腕時計の必要がある(携帯を出して時間確認するのが憚られる場面がある)ので、一応いつでも使えるものを持ってはいるが。

  2014年9月発売のフルプライス(6800円以上)美少女ゲーム18本では、以下のようになっていた。getchuで画像確認できる女性キャラクターを対象としている(――『天極姫』も含めれば19本、205人になるが、キャラクターが多すぎること、FDであることなどからこの1本のみはオミットしている)。わずか20本足らずのデータではあるが、通年で見ても、あるいは数年のスパンで見ても、おおむね以下のような傾向は見出されるだろう。

  対象にした18タイトルは、以下のとおり:『もっと 姉、ちゃんとしようよっ! アフターストーリー 通常版』『あの晴れわたる空より高く』『お兄ちゃん、右手の使用を禁止します!』『なないろリンカネーション』『イセカイ・ラヴァーズ!』『キスアト 通常版』『パサージュ!』『マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス 初回限定版』『ヤキモチストリーム 初回版』『ヤリ友ペット欲情生活』『淫妖蟲 凶』『何故か彼女がボクにエッチを迫ってくる件』『契約彼女』『世界を救うだけの簡単なお仕事』『相州戦神館學園 八命陣 天之刻 初回版』『南十字星恋歌』『彼女が俺にくれたもの。俺が彼女にあげるもの。』『秘蜜淫交地下クラブ』(順不同)。

要素人数
(全123人)
人数
(割合)
登場作品数
(全18本)
登場作品
(割合)
髪飾り、髪留め6250.4%1794.4%
シュシュ、リストバンド類1512.2%844.4%
眼鏡1310.6%950.0%
ネックレス(首周りの装飾)1310.6%1055.6%
アホ毛129.8%950.0%
帽子64.9%527.8%
イヤリング32.4%316.7%
ファッションベルト32.4%316.7%
手袋21.6%211.1%
眼帯21.6%211.1%
腕時計10.8%15.6%

  予想されたことだが、髪飾り、髪留め、ヘアバンド(付け耳も1件)が非常に多かった。なんと、全体の半数以上のキャラが頭部になんらかのアクセサリーを付けている。この理由としては、立ち絵で頭部が目立ちやすいという事実がまず前提条件としてあって、そこからキャラクター差別化や、髪型(ポニーテールなど)に合わせた需要などが関連して、このような事態になっているのではないかと思われる。ただし、この比率は作品によってかなり異なる。例えば『南十字星』(14人)、『お兄ちゃん』(4人)、『契約』(1人)は女性キャラの100%が髪飾りを付けており、『彼女が』も87%、『ヤキモチ』は86%、『淫妖蟲』は83%、『あの晴れ』は75%といった具合。他方で、『相州』(9人)は0人、『オルタ』(9人)は11%、『ペット』(5人)は20%、『もっと』(13人)は23%、『イセカイ』(4人)は25%と、かなりばらつきが大きい。特に『相州』は、派手なキャラデザという印象が強いが、それは服装や画風が凝っているのであって、実際には頭部もそれ以外の小物類の有無に関しても、けっしてゴテゴテしておらず、むしろきわめて簡素であった。いずれにせよ、総じて白箱系とピンク系に髪飾りが多く、ダーク系タイトルやクラシカルな画風のタイトルではかなり控えめという、顕著な傾向が見て取れる。また、若年キャラやヒロイン級キャラに多く、高年齢(教師キャラとか)やサブキャラには少ないという傾向も感じられた。

  シュシュなどのリストバンド類は、意外に多かった。『南十字星』の6人と『淫妖蟲』の3人の影響が大きいが、けっしてそれだけではなく、18タイトル中8タイトル、つまり半数近くのタイトルにこの属性のキャラクターが登場している。

  眼鏡キャラも、サブキャラ寄りではあるが、それなりに多い。「眼鏡は身体の一部であってアクセサリーではない」と主張する強硬派もいるようだが、ここではアクセサリーの一種として検討対象にしている。また、そもそも眼鏡は(伊達眼鏡でないかぎり)実用品であってファッションではないという現実的な主張もあるだろうが、ここでは眼鏡もキャラクターを装飾し個性づけをする小道具の一つだという見地で捉えている。

  ネックレスなどの首周りのアクセサリーも、多くのタイトルに見られる。アクセサリーの代表格の一つであるだけに、多用されるのも自然なことだろう。ファンタジー世界ものの『イセカイ』では4人中3人、現代世界ものの『南十字星』でも14人中2人が、ネックレスを付けている。

  いわゆる「アホ毛」も、白箱系(「萌え系」)に偏りがちで、まったく採用していないタイトルも多い。『ヤキモチ』が7人中3人、『相州』が9人中2人おり、後は1人ずつ。キャラデザとしてのアホ毛は、完全にピークを過ぎたようである。

  帽子キャラ以下のアクセサリーは、ごく散発的にしか利用されていない。『彼女が』に帽子キャラが2人いる他は、1タイトルに1人ずつしか出てこない。

  腕時計は、『キスアト』の保護者キャラ(喫茶店のミストレス)に1人確認できるだけで、後は皆無だった。『何故か』のヒロインの一人が腕に赤い帯状のものを巻いているが、一枚絵等を見ても、これが腕時計であるとは判別できなかったので、上記データでは暫定的に「シュシュ、リストバンド類」としてカウントしている。もちろん、ファンタジー世界には腕時計が出てくることは無いだろうが、今回の18本にはファンタジー世界設定のものは『イセカイ』『相州』の2本のみで、それ以外は基本的には現代世界相当のごく普通の世界設定である。

  上記以外に、男性キャラについても腕時計の有無を確認したが、32人のうち腕時計をしているキャラクターは絶無だった。もちろん、長袖で腕時計の有無が確認できなかったものも多いが、腕が露出しているキャラクターでも、皆無。

  上記のアクセサリー群全体の使用頻度を見ると、『イセカイ』が1キャラあたり平均2.25種のアクセサリーを着けている。これは、この作品やこのブランドの特徴というよりは、ファンタジー世界設定ならではの特徴だと考える余地がある。続いて『南十字星』は、一人あたり2.1個のアクセサリーを着けている。衣装差分も多いこの作品が、どのような点に注力しそしてどのような形で見た目のきらびやかさを実現しているかが見て取れる。単独ヒロイン(?)の『契約彼女』は、ヒロインが「髪飾り」「アホ毛」「ネックレス」の3つを身に着けているが、単独ヒロインものという特殊事情のせいでもあるだろう。それ以外も、総じて白箱系のキャラデザの方がアクセサリー量が多いようである。少ない方では、ピンク系『ペット』が1キャラあたり0.2個と最小。続いて『相州』が0.44個。『キスアト』が0.5個となっている。


  全体の一覧を置いておく。とはいえ、データとして重要なものではないので、画像形式で。