2017/04/05

艦NEXT版「比叡」雑感

  フジミ模型:艦NEXT版(1/700スケール)「比叡」について。


  同社の「特」シリーズ版のエッチングを持っていたので、試しに投入してみた。
  ただし、NEXT版の純正エッチングもいずれ発売されるだろうから、このようなアプローチは技術的にはすぐに無意味になると思われる。あくまで現時点での個人的な実験として、「素組みだけではつまらない」、「手軽に実現できる艦船模型制作アプローチの一つとして試してみたい」、「双方のヴァージョンの異同を確かめる一助とする」、「無塗装『艦NEXT』戦艦キット+エッチングの見栄えを確かめる」、といった目的で試みた。

  制作時のメモ(プラン、工程など)は下の方に。


(写真1:)形状に大きな違いは無いので、特版のエッチングもほぼそのままフィットする。探照灯台はキットパーツのままだとトラスの間が抜けていないし、軌条などはシールを貼る仕様になっている(色味はプラと違ってしまう)ので、エッチングを使用すると手軽に精密感が向上する。ただし、第一煙突側面にトラスのキットパーツを嵌め込むためのダボ穴が剥き出しのままになってしまうので、閉塞工作が必要。
(2:)「特」系統(「帝国海軍シリーズ」)の比叡も制作していたので、並べて撮影。手前が今回制作した艦NEXT版(部分塗装+ツヤ消しコーティングのみ)、奥が特系統版(全塗装+純正木甲板シート使用)。NEXT版では、副砲は角度固定であり、その一方、主砲は角度変更できるようになった。ディテール水準はほぼ同じで、一瞥しただけでは識別できそうにない。
(3:)二隻(+おまけ)の全景。この写真では、NEXT版の木甲板成形色がずいぶん赤味がかったイエローに見えるが、実際にはそれほど違いは無いし、軽くウォッシングすればしっとりした色合いになる。スケール感や質感のリアルさを追求するならば、そうした処理は必要だろう。木甲板部分だけ先にサッと塗っておくという対処が出来るのが、NEXT版の強みなのだし。
(4:)正面からの様子。「特」版の比叡は甲板面の幅が広すぎるという指摘がなされていたようで、今回の艦NEXT版では1ミリ半ほど幅が狭まっている。正しい寸法に修正されたのだろう。このスケールでの1mm以上の違いはかなり大きく、完成した模型全体の印象にも影響するし、並べてみるとはっきり感じ取れる。特版もゆったりした存在感があって良いのだけど。
(5A:)艦NEXT版の艦橋周り。前述のとおり、特版のエッチングがほぼそのまま使えるが、窓枠切除の上下幅など、気を遣わねばならない箇所もあった。艦橋のリノリウム部分、後部マストのブラック、副砲防水布などは、マジックペン塗装が指示されている。それ以外の色は、プラ成形色と同梱シールでほぼ再現できる。エッチングを組み込むのも、この程度ならば簡単。
(5B:)上の写真と同じ構図で、特系統の比叡を撮影してみた。こちらはキットパーツ(全塗装)とメーカー純正の木甲板シートのみでシンプルに制作した。「簡易塗装+木甲板シート」というのはイージーな省力制作の一つのアプローチだろう。ただし、シートの厚みのせいで甲板上のオブジェが埋まってしまうのは難点だが。
(6A:)NEXT版の艦中央をアオり気味に撮影。クレーンのワイヤーは、特版エッチングとNEXT版キットとで設置角度が異なるため、いったんキットパーツを切除して位置合わせをする必要があった。第一煙突周囲のトラスも、設計が微妙に異なっているため、そのままでは長さが合わない箇所がある。スナップフィット機構のおかげで、艦底パーツは接着剤無しでもしっかり密着する。
(6B:)同じ構図で、特系統を撮影したもの。探照灯は、特系統ではクリアパーツだったが、NEXT版はグレー成形色になっている。また、艦橋の小さな支柱類は、特系統ではそれぞれ別パーツ化して正しく円柱状になっていたが、NEXT版では簡略化されて間が埋まっている(ムクになっていたり、三角柱状になっていたりする)。
(7:)同シリーズの「赤城」と比べると、比叡はグレー成形色がやや明るい色になっている。俗に言う工廠色を考慮したものだろう。艦底部は、赤城はキット成形色のまま(ただし裏側をブラックで塗った)。比叡はMr. Color缶スプレーの「艦底色」で塗装した。キットパーツのままだと艦首等でプラが透けてしまうので、簡略制作する場合でも艦底部はなんらかの仕方で塗装しておく方がよいと思われる。
(8:)NEXT版の航空機作業甲板は、キットパーツのままだと「ウェルドラインに起因して色ムラが出る」、「ツヤが目立つ(ツヤ消しを吹けばよいが)」、「軌条部分までブラウン一色(軌条部分のシールはあるが、きれいにはならない)」といった問題がある。Hasegawaの「リノリウムフィニッシュ」を貼り付けて、軌条をエッチングで再現するという形で対処した。左はTamiyaスプレーの「リノリウム甲板色」。
(9:)手持ちの金剛型キットを並べてみる。上(奥)はFujimiの1/350金剛、その下が同社の艦NEXT版と帝国海軍版の比叡、そして最下段がHasegawa版の比叡(無塗装)。Hasegawa版は古いキットで、作りは簡素だが、非常に組みやすいし、マストなどはABS素材にして、折れにくいよう配慮されていた。個人的には、金剛のがっしりした艦橋のシルエットとみっしりした構造物のつらなり具合が好み。



  【 制作メモと雑感 】

  04/05

  【 「特」版エッチングの合い 】

  「特」版エッチングを組み込んでみたが、丸二日であっさり完成した。「特」版エッチングはおおむねフィットするが、以下のような問題もあった。
- 窓枠の高さが微妙に足りなくなる箇所があった。見栄えに関わるので要注意。
- 第一煙突周辺では、パーツ設計が異なっているので、エッチング支柱の高さがずれる。
- スナップフィットのダボ穴が露出してしまう箇所がある。これも特に第一煙突周り。
- 後部クレーンが伏せた状態で造形されている。「特」版エッチング使用時は改修の要あり。
- 中央部クレーンが、「特」版エッチングのワイヤーとは角度が異なる。切断&再接着が必要。
- 外周の凸凹は微妙に形状が異なる。手摺の折り曲げ箇所も多少ずれると思われる。

  上甲板外周の手摺は、「特」版エッチングに含まれているが、今回は取り付けなかった。

  入手容易なアフターパーツとしては、Hasegwaからも比叡用エッチングが2種類発売されている。「ディテールアップパーツA」は窓枠や空中線支柱、「ディテールアップパーツB」はトラスと旗竿とループアンテナが含まれている。ただしこちらはステンレス製であり、硬くて頑丈ではあるが、切断や折り曲げが少々難しい。


  【 「特」版キットとの主立った相違点 】

  キットそれ自体については、全体のディテール水準は「特」版とほぼ同等。「スナップフィット仕様」「色分け仕様」「初心者向け仕様」にもかかわらず、造形が犠牲にされている箇所はほとんど無い。気付いた範囲で相違点を指摘すると、
- 副砲は角度固定になっている(※その一方、主砲は角度変更できるようになっている)。
- 主砲の上面突起(照準演習機?)が、一つだけになっている(「特」版は二つずつ。写真8)。
- 主砲砲身にテーパーが付いている(※「特」版はほぼストレートな棒状だった)。
- 艦橋の梯子に、簡略化されている箇所がある。
- 支柱の一部が、一体成形仕様により間が埋まっている(「特」版では別パーツ化していた)。
- ブルワークの厚みが増している箇所がある。測距儀の張り出した柄の部分も太くなっている。
- 甲板面の幅が1ミリ半ほど狭まっている。
- 探照灯がクリアパーツではなくグレー成形色である。艦載機もグリーン成形色+シールに。
- ただし、探照灯の造形はNEXT版の方が良い。特版のは、表側ものっぺりしていた。
- 錨見台は、基部のみモールドされている(張り出し部分は、NEXT版には無い)。
- 主錨(のレセス位置)は、特版よりもNEXT版の方が後ろに付いている(上掲写真2を参照)。
- 錨鎖周辺のグレーパーツに繊細な滑り止めがモールドされている。特版はフラットだった筈。
- 双眼鏡台座を表現する突起が各所に生えている。双眼鏡自体はボーナスパーツ扱い。
- 極小通風筒パーツの上面にパーティングラインが来ているので、整形するのが非常に面倒。
- カッターの内部にはオール(2本)もモールドされている(上掲写真8を参照)。
- スクリュー基部にカバーの膨らみがある。「帝国海軍」版では、シャフトがいきなり剥き出し。
- 艦底部の取水口等のディテールも、「帝国海軍」版と比べて桁違いに増えている。
- 36cm連装砲上面の突起物が片側のみ(上掲写真8を参照)。特版では両側に生えていた。
主立った点はこのくらいだろうか。

  双眼鏡台座を表す突起が各所に生えているのは、善し悪しだろう。そのままでも双眼鏡の存在が一応表現されているという意味はあるが、マスキングをしようとすると邪魔になるし、切除するのも難しい。双眼鏡本体だけが別パーツ化(使用しなくてもよいボーナスパーツ扱い)されているのは面白い処方だろう。より正確に双眼鏡の存在を表現したい場合は、その双筒部分のパーツを台座に接着するだけで済むので。ただし、他のキットに転用するのは少々難しい(――双眼鏡台座部分を一々自作しなければいけないので)。

  通風筒などがすべて別パーツ扱いになっているのも、評価は両義的になる。メリットは、1)成形色による色分け再現のための仕様であり、2)マスキングの手間が省けるし、3)型抜きの制約を免れてキノコ型の立体造形が可能になっている、と言うことができる。
  しかし、a)大量の極小パーツを一つ一つ切り出してそれぞれゲート跡を処理して塗装しなければならず、掛かる手間はマスキングの時と大差ない。しかも、b)上記のとおり、パーティングライン(金型の合わせ目)が上面に走っているため、これらをきれいに整形しようとするとたいへんな手間になる。さらに、c)極小の通風筒パーツを取り付ける際の精度確保(きれいな角度で取り付ける)も大変で、クオリティ確保はかなり難しい。また、d)取り付けの際に接着剤が滲みてしまう虞もある(――滲みを解消するために、塗装前に接着するのであれば、結局マスキングすることになる)。
  総合的にみて、全塗装モデラーにとっては、あまりメリットにならない仕様であるように思える。もっとも、これが1/350スケールであれば、通風筒パーツも扱いやすいサイズになるし、キノコ形状の再現にも意味が出てくるのだが、1/700のサイズでは手間および難度に比して、完成時の見栄えにあまり寄与しない。無塗装制作で、甲板面を空疎にさせない処方としては、それなりに意味があると思うけれど……。ちなみに、ピンバイスによる穴開けは、説明書ではサイズが指示されていない。おそらく0.8mm相当かと思われる。

  ハル部分の取水口等の表現は、1/350スケールキットですら滅多に見ないもので(私の知る範囲では、Finemolds「綾波」にあった程度)、もの珍しさもあるが、それだけでなく、船体の構造/機能/運用のリアリティに関する興味を刺激してくれる。せっかく艦底パーツを付けているのだから、このくらいやってくれると、モデラー側としては嬉しい。


  【 塗装 】

  塗装したのは、以下の箇所。ラッカー塗料(Mr.Color)の吹きつけ。
- 煙突周りの蒸気捨管(フラットブラック)。
- 後部マスト(フラットブラック)。 説明書では、マジックペンでの塗装が指示されている。
- 艦載艇(タン、セールカラーなど)。ただし、同梱シールも用意されている。
- 防水布(セールカラー)。主砲にはシールあり。副砲は修正ペンでの塗装が推奨されている。
- 艦橋の一部パーツ(ウッドブラウン)。説明書では、マジックペンでの塗装が指示されている。
- 各所のホース(タン、黒鉄色)。
- 機銃の銃身部(黒鉄色)。あまり目立ちすぎないよう、薄めに塗った。
- スクリューシャフト(シルバー)。これもシール(シルバー)が用意されている。
- 探照灯と信号灯(シルバー)。探照灯にはシールが用意されている。
- 航舷灯(シルバーの上にクリアレッド/クリアグリーン)。
※エッチングパーツ全体(グレー)。あらかじめプレートのまま全体をグレー塗装した。
※航空機作業甲板はリノリウムフィニッシュシートを使用。
※艦底部分(艦底色)。成形色でほぼ再現されているが、透け防止のために塗装した。
※最後に全体をツヤ消しコーティング。

  だいたいこのあたりを自力塗装すれば、設定上の色分けをほぼ再現することができる。とにかく塗装作業を大幅にショートカットできるので、気楽に制作できる。軍艦色の成形色は、かなり明るいグレーだが、Mr. Colorの「ニュートラルグレー」やTAMIYAスプレーの「呉工廠グレイ」であれば、リタッチなどで使ってもほとんど違和感は無い。
  第二煙突付近の木材(資材)は同梱シールを貼り付けたが、どうも悪目立ちしてしまう。ウッドブラウンで自前塗装した方がよかったかも。係船桁もボーナスパーツ扱いで提供されているが、これも木材色で塗装すべきだったか。


  【 リノリウムフィニッシュ 】

  非常に便利なアイテムだと思う。色合いがやや明るめ、というか、Tamiyaスプレーと比べると白っぽい感じなので、人によって好き嫌いがあるかもしれないが、実物を参考にして色を決めたとのことだから(参考リンク)、こちらの方が正確な色なのだろう。超極薄シールなので、おおまかに貼り付けてから輪郭をデザインナイフで軽くなぞっていくだけできれいに切り取れる。また、パーツ全体をきれいに覆ってくれる(表面処理を多少失敗していても誤魔化せる)ので、軌条エッチング化の工作との相性も抜群。押さえ金具もクドくない色調で細密にプリントされているので、丸太のような真鍮線を一々貼り付けるよりもよほどリアルに仕上がる。巡洋艦クラスの上甲板をシートで覆い尽くすのは大変だが、戦艦の航空機作業甲板くらいであれば手軽にハイクオリティな出来映えになる。この調子で「木甲板フィニッシュ」のようなものをリリースしてくれたら、既存の木製木甲板シートの上位互換アイテムになりそう。


  【 おおまかな感想 】

  キットそれ自体のディテールが十分精密なので、トラスや軌条を改修したり手摺を追加したりするだけでも、見栄えはさらに良くなる。支柱や梯子類が周囲とパーツ一体化されていることもあり、非常に作りやすいキットだった。ただし、木甲板面はさすがに無塗装のままではいささか味気ないし、通風筒などを取り付けるのはわりと大変だった。いずれにせよ、簡単に戦艦比叡のプラモを作りたいという場合にも、1/700スケールで比叡を本格的に丁寧に作り込もうとする場合のベースキットとしても、特版よりもNEXT版が勝るだろう。


  【 NEXT版エッチング 】

  純正エッチングの発売が6月に予定されているとのこと(cf. [ www.1999.co.jp/10456248 ])。サンプルを見たかぎりでは、「特」版エッチングと比べて、航空機作業甲板面、煙突のジャッキステー(?)、旗竿などのパーツが増えているようだ。その一方、艦橋背面ヤードの絡車表現が消えているが、特版の絡車は大きすぎて不自然だったので、これは省略して正解だったと思う。また、特版エッチングには救命浮標(6個分)も入っていたが、この程度ならばどうにでもなる。いずれにせよ、当然ながら、NEXT版専用のエッチングが入手できるならばそちらを使った方がよい。
  しかし、トラス部分をエッチングに置き換えると、煙突側面などのプラパーツ取り付け穴が露出してしまいそうだ。ダボ穴を覆うパーツも用意されていないようだし、「このくらいは自分で塞いでね」ということなのだろうか。



  03/30
  艦NEXT版「比叡」、ランナーをひととおり見て、全員に(つまり初心者にも等しく強制的に)通風筒地獄を強いるつもりかと思ったら、ボーナスパーツ扱いのようで一安心(※使いたいユーザーはピンバイスで穴を開けてね、という仕様。ピンバイスのサイズが書かれていないが、とりあえず1mm寸で試してみよう→0.8mmくらいが適正なようだ)。ランナー自体をやけに細かくいくつにも分割しているのはFujimiの常だが、おそらくは同型艦派生を視野に入れた構成でもあるだろう。


  【 制作プラン 】

  せっかくの成形色を活用しつつ、あまり手間のかからない範囲で、できるだけ緻密に仕上げられる方策を考えてみたところ、以下のようなプランになった。

「特」版エッチングを使用する。エッチング窓枠や軌条などはキットパーツを切除する必要があり、その部分が荒れてしまう可能性があるので注意。
航空機作業甲板は、ヤスリで均してリノリウムフィニッシュを貼り付けることで対処する。キットパーツのままだとプラ自体の色ムラが目立つので、それを隠蔽する作用も果たす。
木甲板面の軌条跡は、それほど目立たないのでそのまま。
甲板面については、「特」版用の木甲板シートを貼り付けるのでもよい。しばしば指摘されているように、「特」版の甲板の方が(不必要に)大きいが、「特」版のシートを多少カットすればほぼフィットする。ただし、甲板上のスナップフィット嵌め込みが面倒になるので、今回はプラパーツのままとする。
艦橋のリノリウム部分は筆塗り。艦底パーツも、色が透けてしまうので塗装する。
それ以外は基本的に無塗装。最後にツヤ消しコーティング。必要に応じてウォッシング。

  だいたいこんなアプローチにすれば、イージーに手間を省きつつそれなりに見栄えのする形になるのではなかろうか。

  同シリーズの赤城も、ほぼ同様の「NEXT版キット+特版エッチング」アプローチにした。違いは、1)赤城キットでは目立つ部分のリノリウムはシールできれいに覆える、2)比叡と比べて赤城では、キットパーツを切除してエッチングに置き換えるという部分が非常に少ない(窓枠や梯子類くらいだったか)。