2023/06/14

アダルトゲームの音量コンフィグ(の歴史)について

 アダルトPCゲームで、キャラクター個別の音量コンフィグが実装されていった経緯についての私見。2022年11月22日にSNSで書いたものの編集再掲。


 最初に結論から言うと、(アダルト)PCゲームのキャラ別音量コンフィグは、「音量調整」以前に「音声ON/OFF」があったと思われる。発想としては、おそらくON/OFFの方が先行している。例えばstudio e.go!(現:でぼの巣製作所)は、たしか00年代初頭か、あるいは90年代のうちから、キャラ個別の音声ON/OFFを実装していたかと思う。
 「音声の個別ON/OFF」がなぜ要請されたかというと、おそらくは男性ヴォイスをOFFにしてほしいという要望に応じたため。特にe.go!は、男性主人公もヴォイス有りにしていたが、ベッドシーンで男性主人公の音声が入ってくるのを嫌がったユーザーがいたのではないかと思われる。
 
『神楽学園記』(でぼの巣製作所、2010)。主人公「三船考太」が、通常シーン音声とHシーン音声を個別にON/OFF(※ボリューム調整も)できるという仕様は、明らかにベッドシーンへの考慮を反映している。なお、プレイ中の未登場キャラクターは「???」になっているという凝った設計。
 
 キャラ個別の「ボリューム調整」に関しては、studio e.go!の他にも、例えば戯画の『BALDR FORCE』(2003)がそういう個別コンフィグを搭載していたかと思う(※ちなみに、台詞カラーの個別変更もできた)。ageの『君が望む永遠』(2001)などにもあったかもしれない。『はるのあしおと』(2004)も、キャラ個別のON/OFFが搭載されている。言い換えれば、ON/OFFだけであって、ボリュームの個別調整はできない。これも、「当初は個別ON/OFFの発想が先行しており、そこから個別ボリューム調整へと機能拡充された」という経緯を窺わせる。

『はるのあしおと』(minori、2004)。音量コンフィグについては。「セリフ」全体のボリューム調整と、キャラクター個別のON/OFF切り替えが併存している。現在の目からすると非常にぎこちない実装だが、過渡期的な試みだったのだろう。

 2004年頃までは、ヴォイスの個別ボリュームコンフィグはそれほど普及していなかった。2005~2006年頃に業界全体で急激にゲームエンジン周りがクオリティを上げて、どのブランドでも安心してプレイできるような環境が整備されてきた。ちょうどゲーム画面もVGA(640*480)からSVGA(800*600)へ移行した時期でもある。
 例えば『Maple Colors』(2003)、『3days』(2004)、『アリスマチック』(2006年)などは、個別ボリューム調整が出来なかった(つまり一括調整のみ)。『シンシア』(2004)は、男性ヴォイス(一括)と女性ヴォイス(一括)をそれぞれボリューム調整できるという、過渡期的設計。save/loadなどのシステム音声を何種類か選べるというお遊び機能も付いている。わふわふ。

『シンシア』(Sincere、2004)。音声については、「女性」と「男性」で一括してボリューム調整できる。2種類のみではあるが、現代的なキャラクター個別のボリューム調整につながる発想が見て取れる。

 印象深かったのは『カルタグラ』(2005)。キャラ別音声設定が堂々と展開されており、なおかつヴォイステストでは各キャラがしりとりをするという凝りよう。プログラムは「公魚」氏。『Imitation Lover』(2006)も、キャラクター個別の音声設定が出来た。この時期、つまり00年代半ばから、美少女ゲームメーカー各社のエンジンもUIデザインもめざましくクオリティアップした。このあたりが端境期だったかと思う。そして、キャラ個別のボリューム調整を実装したところから、小声キャラへの救済手段という側面も出てきたのだろう(tw: 1594878005964595201 )。

『カルタグラ』(Innocent Grey、2005)のキャラクター別音声設定画面。インターフェイスデザインの美術設計も丁寧に作られている。
『Imitation Lover』(light、2006)。00年代後半になると、キャラクター別音声設定が一般的なものになっていく。

 ゲームエンジンやUIデザインの洗練に関しては、純AVG系メーカーとともに、SLG系メーカーもきわめて意識的だった。とりわけ2008年以降のEscu:deは抜群に美しいし、Eushullyも未登場キャラはコンフィグでも「???」になっている(登場済みのキャラクターは明確に名前が表示される)という細やかな設計をしている。