2024/04/17

『第七王子』アニメ版各回の感想

 『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』アニメ版の感想メモ。
 漫画版のファンだが、今回のアニメ版は今一つかも……。
 原作小説/漫画版/アニメ版の対照表は、別掲の比較ページを参照のこと。登場人物一覧と魔術リストも、また別のページに作成してある。


 『第七王子』アニメ版の第1話を視聴したが、ずいぶんいびつな作りに見える。
 脚本構成は、原作小説ではなく漫画版に依拠しつつ、シーンをきれいに分割している。ただし台詞回しは説明過多でしつこい。魔術探究ものだから、言葉による説明が一定程度発生するのは、やむを得ないのだが、それでも言葉に頼りすぎなのはあまりよろしくない。
 画面作りも、漫画版そのままの構図を多用している(イージーすぎる)。漫画版をただなぞっていくだけではなく、アニメ媒体ならではのデザイン再考とコンセプト設計が欲しかった。城郭などの3D利用が浮いていたり、ロイドの服装が安っぽく見えたりと、画面の見え方にも無頓着。グリモワールの最初の外見も、下手なエフェクトを掛けているせいで、造形が見て取りづらい。
 魔術表現については、絵を動かすこと(アニメーション)それ自体は良いが、画面演出としてはべったり流すばかりで迫力に欠ける。ただし、冒頭の前世シーンのように、興味深い演出もある。その一方で、アクションシーンの動きは抜群の出来。ぐるぐる剣戟を続けるカットで、次第にカメラが天地逆様になっていくのは凄い。X軸/Y軸/Z軸がそれぞれ回転しつつ全身運動しているという、とんでもない作画(9:30-。稽古シーンそのものは7:30-)。アクション監督はアベユーイチ氏とのこと。
 キャラクター造形は、アニメで声を付けると不気味。SDキャラもアニメで見るとかなりチープ。音響バランスも良くないし、ドラマティックな抑揚に欠ける。
 内股ショタとバトルシーンを売りにするのは原作/漫画版からして妥当だと思うが、その一方でハーレムアニメ風のダサい表現が頻出しているのは、さすがに安易すぎる。「可愛いいっ」という書き文字を画面内に出すのは、今時のアニメでもまだやっているのか……(※これは漫画版をそのまま再現しているのだが、漫画の書き文字とアニメのテロップ文字では、意味づけも演出効果も大きく異なる。そういう媒体的相違に無頓着なのは、ちょっとつらい)。

アニメ版『転生したら第七王子~』第1話より。練習場を駆け巡りながら、少年主人公とメイドが木刀で激しく打ち合うシーン。走りながら得物を振り回す二人に、カメラのローリング、そして遠近のダイナミズムまで、やたらと凝っていて、しかもそれがその場面の迫力として結実している。

 第2話も、漫画版を忠実に模倣しているが、ただの模倣に終始しており、アニメ独自の面白味が乏しい。演出の出来は今一つ。こうしたアニメの問題は文字表示が出来ないことで、例えば「火球」も「かきゅう」(下級?)としか聞こえず、「気術」も「きじゅつ」(記述?奇術?)としか聞こえないので、一聴して意味が取れないところが多い。
 キャストも今一つ。アルベルトもタオも台詞が浮ついていて、残念ながら私の好みからは遠い。タオは、今時こんなエセ中国人風の「~~アル」口調で通してしまうのか……。音声が付いてしまうと、そのぎこちなさが際立つ。それ以外も、総じて安っぽいコメディ強調が目立つ。ただし、グリモワール役の声優さんは、激しいダミ声も厭わない力演で、作品の生命を救っている。
 画面演出については、オーク戦は状況が見て取りにくい(※漫画版の方が上手)。しかし、「気」を練習するところは、音声とアニメーションのおかげで、状況説明が明確になった。木形代くんのアニメーションの動きについては、漫画版には無かったもので、このアニメ版ならではの面白味を作り出している。しかし、相変わらずのSD使用と、「おまけ」パート多用は、イージーに感じる。

 第3話。このアニメ版の長所と短所がはっきりしてきた。長所は、バトルシーンでしっかり絵を動かすアニメーション。現代のクール制アニメとして、かなり優秀な部類だと思う。
 しかし、それは短所にもつながっている。というのは、レイアウトが無思慮にも漫画版をただ再現したがっていて、それがアニメーションとしての進行にマッチしていない。漫画であれば、細かな描写は小さなコマで軽くやり過ごすことができるが、それをそのままアニメ化しようとすると、コマの大小による抑揚が失われてしまう。つまり、軽い部分も長時間しつこく画面に出続けるし、大ゴマの見せ場も、他のカットからあまり区別できず、あるべきインパクトを発揮してくれない。せっかく絵を動かしているのに、それが効果的に表現されていない。例えば、何かが衝突した衝撃とか、何かを切断したカタルシスとか、そういった表現効果がアニメとして演出されておらず、ただのっぺりした描写の連続に終始してしまっている。敵キャラの視界を表現するのに、ドクロの奥側から覗く演出(つまり両目の視界の周囲が黒ベタ)をしているのも、かなりチープ。要するにコンテが悪い。
 また、言葉による説明が過剰なのも問題だ。バトルシーンの最中に長尺の説明台詞が混じってくるのは、どうしてもテンポを阻害する。これは原作由来のものでもあって、一定程度はやむを得ない(避けがたい)のだが、そこを整理するのも脚本の仕事だろう。魔術関連の特殊な用語も、原作未読だと音声だけでは分からないだろう。例えば「魔髄液」を、ただ「まずいえき」と喋らせるだけでは、話が通じない(※ちなみに、魔物の台詞もエフェクトを掛けすぎて、何を言っているのか聞き取りづらい)。さらに、尺の調整のためか、妙にもたつく瞬間が散見されるし、モブキャラによるネガティヴ発言がやけにクローズアップされてしまうのも雰囲気を悪くしている(※今回だと、兵士たちの愚痴)。要するに、脚本も悪い。
 結局のところ、現場の作画は頑張っているのに、大元のコンテと脚本がイージーな仕事をしているせいで、流れの悪いアニメになってしまっている。もったいない。実際の制作工程としては、「お芝居の大本は打ち合わせからアニメーターが作る」という形にしているとのことで( cf. https://twitter.com/PPLtKkdKLD39004/status/1777715832795308041 )、映像全体の流れがきちんと制御しきれていないのはそのためかもしれない。意欲的な試みではあるが、映像テンポのコントロールなどは、やはり統括者が仕事をすべきではなかろうか。
 キャストについて。主演のロイド役は、当初の媚びが減ってきて、落ち着いて聴けるようになった(※今回は成人ヴァージョンだったおかげもある)。グリモ役も快調、タオ役も今回の力演はわりと良い感じ。次回予告台詞は、各キャラ持ち回りのようだ。「君は魔術の深淵を目撃する」。

 第4話……うーん、これは駄目だなあ。取り柄のはずのバトルシーンも、今回はろくに動かさないで白刃軌跡のエフェクトで誤魔化していて、戦闘シーンの迫力がまるで無い。アクションシーンに台詞を一々混ぜてくるせいでスピード感が削がれて、ものすごく間延びする。せっかくのアニメ化がここまで拙劣な演出になるとは……悲しい。
 細かいところでも、冒頭で魔人グリモが堂々と顔を出していて、メイドがそれをまったく気にしていないのも演出の失敗だろう(※漫画版では、ほんの一コマでそれらしく見えるだけだから問題にならなかったが、アニメーションでじっくり描いていると、明らかにおかしい描写になってしまう)。お色気シーンでモブ兵士たちが騒いだりお仕置きされたりしているのも余計だし(※漫画版では、背景におまけのように描かれていただけなのだが、アニメ版はもったいをつけて強調しすぎ)、雑魚魔物たちがほとんど動いていない(アニメーションしない)ので戦闘の怖さを感じないし、魔物の足から血が噴出する時間が長すぎたりもする(何故か延々噴出している)。ボスキャラが五角形に飛び跳ねるところも、台詞を言い終わるまで延々跳ね続けている。ボスキャラの芝居も、ただガナっているばかりで下品。とどめの二虎双牙の直前も、たぶん一回転だけで良い筈なのに、アニメ版では何故かクルクルと何回転もしている(※無駄な動きに見えるし、アクションのつながりも悪いし、意味不明にクルクル回るのがダサくもある)。とにかく考え無しに漫画のコマを「形だけ再現」しているのが悪い。つくづくもったいない……。
 漫画版のシルファのシーンがアニメーションになったら、もっと速度感があって、もっと乱舞攻撃が華やかに描かれて、もっと打撃の重さが感じられて、もっと激しい勢いがあって、もっと美しいシーンになることを期待していたのに……。台詞の表現も、「汚いものを嫌い、敵に対してきりりと冷徹で、そしてロイドを侮辱されたら憤激するキャラ」だと思っていたのに、アニメ版の演技だと「ただ単に口が悪くて性格も悪くて、よく分からない必殺技をモゾモゾ呟きながら戦うキャラ」に聞こえてしまう。ここはディレクションレベルで失敗しているのではないかなあ……。
 ちなみに、アバンタイトルの出発シーンは、アニメ版オリジナル。これも明らかに尺調整だが。馬の歩行アニメーションがやけにガクガクしているのは、うーん、あの動かし方でいいのだろうか? 後半のロイドの台詞「あれがシルファの本気……覚えた」のくだりはアニメ版独自で、ここは魔力の性質変化とシルファの戦闘姿を重ね合わせる視覚的演出が面白い。
 長所は、グリモの作画かな。丸々としたキャラが、ウサギかモルモットのようにモゾモゾプルプル動くところは、たいん可愛らしい。これは原作小説や漫画版では表現されていなかった要素で、アニメ版の大きなアドヴァンテージになっている。

 アニメ版が、だいたい1回につき漫画版3話分ほど(70ページ程度)進んでいくとすると、尺が足りない。なんとか12話(13話)に収めようとすると、以下のような進行配分になるだろうか。
5回:11-14話、パズズ戦決着。
6回:14-18話、アリーゼとディアン(※この二人は公式サイトに載っているので登場は確定)。
7回:19-22話、暗殺者たちとバトル。
8回:23-26話、ジェイドについて。
9回:27-29話、ロードストの真相。
10回:30-32話、ギザルム戦開始。
11回:33-35話、シルファの戦い。
12回:36-38話、ギザルム戦決着。
(13回:39-41話、エピローグ。)
 コスト配分についていうと、リッチとの空間戦闘をしっかり描いたのは良い判断だと思う。パズズ戦は、魔術エフェクト班(?)が頑張れば作画はなんとかなる筈。暗殺者バトルも、4話のシルファのように省力制作するならばやり過ごせる(ただし、面白味は無いが)。終盤のギザルム戦は、全身運動のアニメーションから、空中での立体的な戦闘から、派手な魔術VFXまで、全てを総動員することになるだろう。夜空の戦闘だから、背景作画は多少節約できるか?

 第5話。もう言うことも無いかな。画面分割を多用しているのは、漫画版のカットをそのまま詰め込むための強引な処置だし、結界球の乱射もランダムで、対象を追いかける雰囲気が全然出ていない。魔術発動も、溜めと開放の切り替えが無くて、迫力に欠ける。うーん、どうしてこうなった。
 パズズ戦終盤が、ちょっと不思議な色使いをしているが、朝焼けの雰囲気を表したものだろうか。戦いが終わったところできれいな朝の風景になるので、ここの色彩コントロールはカラーアニメの強みと言える。