2024/04/17

『第七王子』アニメ版各回の感想

 『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』アニメ版の感想メモ。
 漫画版からのファンだが、今回のアニメ版は今一つかも……。
 原作小説/漫画版/アニメ版の対照表は、別掲の比較ページを参照のこと。また、登場人物一覧と魔術リストも、別のページに作成してある。


 『第七王子』アニメ版の第1話を視聴したが、ずいぶんいびつな作りに見える。
 脚本構成は、原作小説ではなく漫画版に依拠しつつ、シーンをきれいに分割している。ただし台詞回しは説明過多でしつこい。魔術探究ものだから、言葉による説明が一定程度発生するのは、やむを得ないのだが、それでも言葉に頼りすぎなのはあまりよろしくない。
 画面作りも、漫画版そのままの構図を多用している(イージーすぎる)。漫画版をただなぞっていくだけではなく、アニメ媒体ならではのデザイン再考とコンセプト設計が欲しかった。城郭などの3D利用が浮いていたり、ロイドの服装が安っぽく見えたりと、画面の見え方にも無頓着。グリモワールの最初の外見も、下手なエフェクトを掛けているせいで、造形が見て取りづらい。
 魔術表現については、絵を動かすこと(アニメーション)それ自体は良いが、画面演出としてはべったり流すばかりで迫力に欠ける。ただし、冒頭の前世シーンのように、興味深い演出もある。その一方で、アクションシーンの動きは抜群の出来。ぐるぐる剣戟を続けるカットで、次第にカメラが天地逆様になっていくのは凄い。X軸/Y軸/Z軸がそれぞれ回転しつつ全身運動しているという、とんでもない作画(9:30-。稽古シーンそのものは7:30-)。アクション監督はアベユーイチ氏とのこと。
 キャラクター造形は、アニメで声を付けると不気味。SDキャラもアニメで見るとかなりチープ。音響バランスも良くないし、ドラマティックな抑揚に欠ける。
 内股ショタとバトルシーンを売りにするのは原作/漫画版からして妥当だと思うが、その一方でハーレムアニメ風のダサい表現が頻出しているのは、さすがに安易すぎる。「可愛いいっ」という書き文字を画面内に出すのは、今時のアニメでもまだやっているのか……(※これは漫画版をそのまま再現しているのだが、漫画の書き文字とアニメのテロップ文字では、意味づけも演出効果も大きく異なる。そういう媒体的相違に無頓着なのは、ちょっとつらい)。

アニメ版『転生したら第七王子~』第1話より。練習場を駆け巡りながら、少年主人公とメイドが木刀で激しく打ち合うシーン。走りながら得物を振り回す二人に、カメラのローリング、そして遠近のダイナミズムまで、やたらと凝っていて、しかもそれがその場面の迫力として結実している。

 第2話も、漫画版を忠実に模倣しているが、ただの模倣に終始しており、アニメ独自の面白味が乏しい。演出の出来は今一つ。こうしたアニメの問題は文字表示が出来ないことで、例えば「火球」も「かきゅう」(下級?)としか聞こえず、「気術」も「きじゅつ」(記述?奇術?)としか聞こえないので、一聴して意味が取れないところが多い。
 キャストも今一つ。アルベルトもタオも台詞が浮ついていて、残念ながら私の好みからは遠い。タオは、今時こんなエセ中国人風の「~~アル」口調で通してしまうのか……。音声が付いてしまうと、そのぎこちなさが際立つ。それ以外も、総じて安っぽいコメディ強調が目立つ。ただし、グリモワール役の声優さんは、激しいダミ声も厭わない力演で、作品の生命を救っている。
 画面演出については、オーク戦は状況が見て取りにくい(※漫画版の方が上手)。しかし、「気」を練習するところは、音声とアニメーションのおかげで、状況説明が明確になった。木形代くんのアニメーションの動きについては、漫画版には無かったもので、このアニメ版ならではの面白味を作り出している。しかし、相変わらずのSD使用と、「おまけ」パート多用は、イージーに感じる。

 第3話。このアニメ版の長所と短所がはっきりしてきた。長所は、バトルシーンでしっかり絵を動かすアニメーション。現代のクール制アニメとして、かなり優秀な部類だと思う。
 しかし、それは短所にもつながっている。というのは、レイアウトが無思慮にも漫画版をただ再現したがっていて、それがアニメーションとしての進行にマッチしていない。漫画であれば、細かな描写は小さなコマで軽くやり過ごすことができるが、それをそのままアニメ化しようとすると、コマの大小による抑揚が失われてしまう。つまり、軽い部分も長時間しつこく画面に出続けるし、大ゴマの見せ場も、他のカットからあまり区別できず、あるべきインパクトを発揮してくれない。せっかく絵を動かしているのに、それが効果的に表現されていない。例えば、何かが衝突した衝撃とか、何かを切断したカタルシスとか、そういった表現効果がアニメとして演出されておらず、ただのっぺりした描写の連続に終始してしまっている。敵キャラの視界を表現するのに、ドクロの奥側から覗く演出(つまり両目の視界の周囲が黒ベタ)をしているのも、かなりチープ。要するにコンテが悪い。
 また、言葉による説明が過剰なのも問題だ。バトルシーンの最中に長尺の説明台詞が混じってくるのは、どうしてもテンポを阻害する。これは原作由来のものでもあって、一定程度はやむを得ない(避けがたい)のだが、そこを整理するのも脚本の仕事だろう。魔術関連の特殊な用語も、原作未読だと音声だけでは分からないだろう。例えば「魔髄液」を、ただ「まずいえき」と喋らせるだけでは、話が通じない(※ちなみに、魔物の台詞もエフェクトを掛けすぎて、何を言っているのか聞き取りづらい)。さらに、尺の調整のためか、妙にもたつく瞬間が散見されるし、モブキャラによるネガティヴ発言がやけにクローズアップされてしまうのも雰囲気を悪くしている(※今回だと、兵士たちの愚痴)。要するに、脚本も悪い。
 結局のところ、現場の作画は頑張っているのに、大元のコンテと脚本がイージーな仕事をしているせいで、流れの悪いアニメになってしまっている。もったいない。実際の制作工程としては、「お芝居の大本は打ち合わせからアニメーターが作る」という形にしているとのことで( cf. https://twitter.com/PPLtKkdKLD39004/status/1777715832795308041 )、映像全体の流れがきちんと制御しきれていないのはそのためかもしれない。意欲的な試みではあるが、映像テンポのコントロールなどは、やはり統括者が仕事をすべきではなかろうか。
 キャストについて。主演のロイド役は、当初の媚びが減ってきて、落ち着いて聴けるようになった(※今回は成人ヴァージョンだったおかげもある)。グリモ役も快調、タオ役も今回の力演はわりと良い感じ。次回予告台詞は、各キャラ持ち回りのようだ。「君は魔術の深淵を目撃する」。

 第4話……うーん、これは駄目だなあ。取り柄のはずのバトルシーンも、今回はろくに動かさないで白刃軌跡のエフェクトで誤魔化していて、戦闘シーンの迫力がまるで無い。アクションシーンの最中に長台詞を一々混ぜてくるせいでスピード感が削がれて、ものすごく間延びする。せっかくのアニメ化がここまで拙劣な演出になるとは……悲しい。
 細かいところでも、冒頭で魔人グリモが堂々と顔を出していて、メイドがそれをまったく気にしていないのも演出の失敗だろう(※漫画版では、ほんの一コマでそれらしく見えるだけだから問題にならなかったが、アニメーションでじっくり描いていると、明らかにおかしい描写になってしまう)。お色気シーンでモブ兵士たちが騒いだりお仕置きされたりしているのも余計だし(※漫画版では、背景におまけのように描かれていただけなのだが、アニメ版はもったいをつけて強調しすぎ)、雑魚魔物たちがほとんど動いていない(アニメーションしない)ので戦闘の怖さを感じないし、魔物の足から血が噴出する時間が長すぎたりもする(何故か延々噴出している)。ボスキャラが五角形に飛び跳ねるところも、台詞を言い終わるまで延々跳ね続けている。ボスキャラの芝居も、ただガナっているばかりで下品。とどめの「二虎双牙」の直前も、たぶん一回転だけで良い筈なのに、アニメ版では何故かクルクルと何回転もしている(※無駄な動きに見えるし、アクションのつながりも悪いし、意味不明にクルクル回るのがダサくもある)。とにかく考え無しに漫画のコマを「形だけ再現」しているのが悪い。つくづくもったいない……。
 漫画版のシルファのシーンがアニメーションになったら、もっと速度感があって、もっと乱舞攻撃が華やかに描かれて、もっと打撃の重さが感じられて、もっと激しい勢いがあって、もっと美しいシーンになることを期待していたのに……。台詞の表現も、「汚いものを嫌い、敵に対してきりりと冷徹で、そしてロイドを侮辱されたら憤激するキャラ」だと思っていたのに、アニメ版の演技だと「ただ単に口が悪くて性格も悪くて、よく分からない必殺技をモゾモゾ呟きながら戦うキャラ」に聞こえてしまう。ここは明らかにディレクションレベルで失敗している。
 ちなみに、アバンタイトルの出発シーンは、アニメ版オリジナル。これも明らかに尺調整だが。馬の歩行アニメーションがやけにガクガクしているのは、うーん、あの動かし方でいいのだろうか? 後半のロイドの台詞「あれがシルファの本気……覚えた」のくだりはアニメ版独自で、ここは魔力の性質変化とシルファの戦闘姿を重ね合わせる視覚的演出が面白い。
 長所は、グリモの作画かな。丸々としたキャラが、ウサギかモルモットのようにモゾモゾプルプル動くところは、たいん可愛らしい。これは原作小説や漫画版では表現されていなかった要素で、アニメ版の大きなアドヴァンテージになっている。

 アニメ版が、だいたい1回につき漫画版3話分ほど(70ページ程度)進んでいくとすると、尺が足りない。なんとか12話(13話)に収めようとすると、以下のような進行配分になるだろうか。
5回:11-14話、パズズ戦決着。
6回:14-19話、アリーゼとディアン(※この二人は公式サイトに載っているので登場は確定)。
7回:19-22話、暗殺者たちとバトル。
8回:23-26話、ジェイドについて。
9回:27-29話、ロードストの真相。
10回:30-32話、ギザルム戦開始。
11回:33-35話、シルファの戦い。
12回:36-38話、ギザルム戦決着。
(13回:39-41話、エピローグ。)
 コスト配分についていうと、リッチとの空間戦闘をしっかり描いたのは良い判断だと思う。パズズ戦は、魔術エフェクト班(?)が頑張れば作画はなんとかなる筈。暗殺者バトルも、4話のシルファのように省力制作するならばやり過ごせる(ただし、それだと面白味は無いが)。終盤のギザルム戦は、全身運動のアニメーションから、空中での立体的な戦闘から、派手な魔術VFXまで、全てを総動員することになるだろう。夜空の戦闘だから、背景作画は多少節約できるか?
 12話で収めるならば、アリーゼ&ディアンの回は思いきってカットする方が良さそうだ。今後の展開にも、ほとんど関わってこない二人だし。

 第5話。もう言うことも無いかな。画面分割を多用しているのは、漫画版のカットをそのまま詰め込むための強引な処置だし、結界球の乱射もランダムで、対象を追いかける雰囲気が全然出ていない。魔術発動も、溜めと開放の切り替えが無くて、迫力に欠ける。うーん、どうしてこうなった。
 パズズ戦終盤が、ちょっと不思議な色使いをしているが、朝焼けの雰囲気を表したものだろうか。戦いが終わったところできれいな朝の風景になるので、ここの色彩コントロールはカラーアニメの強みと言える。

 第6話。無節操に漫画版の台詞とコンテを詰め込んでいるのが、明らかに裏目に出ている。例えば、魔術付与を見てディアンが驚くシーン。漫画版だと、「ロイドの実力をディアンが疑っているコマ(モノローグ)」→「ロイドが魔術付与しているコマ(それを覗き込むディアン)」→「完成度に驚くコマ」と順序立って進行する。しかしアニメ版では、「疑念のモノローグ」と「すごい魔術付与の様子」を同時に重ね合わせてしまっているため、明らかに筋の通らない描写になってしまっている。魔術付与のプロセスを実際に見ている間は驚かなかったのに、手に取ったらいきなり驚愕するというのは、どうにもおかしい。
 その他にも、漫画のコマ組みとしては成立しているレイアウトも、それをそのままアニメの絵にすると、退屈なレイアウトになってしまう。例えば、漫画ではダイナミックなアクションの真っ最中を切り出して描いているコマがあって、それは漫画表現として非常に上手いのだが、アニメ版ではそのカットをそのまま止め絵として模倣している(静止画として数秒止めている)ので、かえって動きの欠如が際立ってしまっている。漫画のコマとしては状況説明の役割を果たしていたカットも、アニメにすると無意味な引きの構図になってしまっているところが多々ある。冒険者ギルドを訪れるシーンでも、漫画版のレイアウトを無頓着に再現しているせいで、シルファたちがエスカレーターのようにただ滑っている(スライドしている)という不気味な演出になってしまっている。つらい。
 台詞回しも、「寄せ餌体質」をそのまま音声にして、「よせーたいしつ」と言われて、視聴者は理解できるのだろうか? 字幕を出していれば理解できるが、字幕頼みというのは良いことではない。音響面でも、不満が大きい。例えば「戦が近いのか?」のくだりでも、呑気な冒険BGMのまま押し通していて、ムードの違いが消されてしまっている。コンテも脚本も劇伴もどれも、気の利かなさがひどい……。どうしてこうなった。

 第7話。アクション表現には、良いところもあった。例えば冒頭のレンの回し蹴り、バビロンの攻撃、タリアの剣撃など。しかしそれ以外は、見どころが無い。なかでも、打撃のインパクトがまるで表現されていないのは、バトル表現としての迫力を致命的に損なっている。また、バトルシーンの最中にもいちいち長台詞を挟んでいるので、非常にテンポが悪い。漫画媒体であれば饒舌でもよいが、アニメの時間進行でこれをやられると、絵の進行が大きくもたつく。明らかな失敗演出だ。
 漫画版の描写の捉え方そのものも、間違いが多い。例えば、レンが「じゃあね」と去っていくところ。漫画版では、地面に立っている状態で、いったん振り返って「じゃあね」と言ってから、跳躍して逃げていくのだが、アニメ版では大ジャンプの途中で(つまり空中で)わざわざ頭を後ろに向けて「じゃあね」と喋っている格好になってしまっている。漫画版の絵の理解として間違いだし、アクション表現としても珍妙だし、アニメとしてもテンポが悪い。仕事が雑すぎて泣ける。
 また、ロイドがガリレアの糸を脱出するところなども、描写がおかしくて、脱出の動きが読み取れない。スポンと抜け出る感触をアニメーションのコンテで構築しなければいけないのに……。
 さらに、ロイドがバビロンを斬りつけるところも、漫画版をただベタ再現しているせいで重要な瞬間が飛んでしまっている。漫画版のコマ組み進行であれば、斬りつけた瞬間を描かなくても、むしろ瞬間の速度感を表現できているのだが、それをそのままアニメに置き換えただけだと、斬りつけた瞬間がスキップされたような意味不明演出になってしまっている。ひどい。
 タリアを「狼牙」で吹き飛ばすところも、漫画版はおそらく真横に薙ぎ払って瞬間的に叩き付けている(※描写はやや分かりづらい)のだが、アニメ版はどうしたことか、突き出した剣先から何かのパワーを出して(?)吹き飛ばすという、およそ剣術らしからぬ描写に変更されている。たぶんこれも、漫画版の誤読ではないかと思われる。
 それ以外も、絵の動きを止めて長台詞を延々喋らせるところが多く、バトル表現としてダレる。さらに音響バランスも悪くて、とりわけアバン部分ではレンの台詞が小声すぎてBGMに埋もれている。これは音響監督のディレクションと音響コントロールがマズい(※そもそも「音響監督」のクレジットが無い。「音響制作」がAi Addiction、そして「音響制作担当」として2名のスタッフが出ているだけで、彼等が果たしている役割はちょっと分からない)。
 多角的に吟味するために、各話3回ずつ視聴しているのだが、どう考えてもやはり制作アプローチそのものがおかしい。止め絵はおおむねきれいだし、キャラクターのちょっとした所作のアニメーションや柱の崩壊アニメーションなどは良く描けているので、現場スタッフは優秀だと思われるが、上の方針が悪いとこんな体たらくになってしまうのか。作画についても、ガリレアの絵が妙に安っぽくて迫力に欠けるのは、ちょっと気になる。
 ストーリー面では、ジェイドのバックグラウンドに関する説明がカットされてしまった(※次回以降で説明される可能性もあるが)。これはもったいない。こんなに性急な進行にするなら、前回のアリーゼ&ディアンは思いきってカットしておいた方が良かったのでは……。
 最後の救いは、グリモワール。可愛らしいぷにぷにマスコットの動きと、ファイルーズあい氏の感情豊かな力演は、作品に瑞々しい生命感を提供してくれている。今期は主演/レギュラー級で出まくっておられるが、実力が正当に評価された結果だと言うべきだろう。

 第8話。前回省略したジェイド過去話を、ここで説明した。ただし、アニメ版では「ロードスト領主になったという転移手紙」→「ロードスト貴族だったことを打ち明ける過去話」という順番にひっくり返ってしまっている。
 演出面では、面白い進め方をしている。Bパートの冒頭で楽しい歓迎会の雰囲気とともに早々にエンドクレジットを出しておき、そこから急転直下で陰惨な真相が噴出して、邪悪なギザルムに支配された空気のまま最後まで行く(ED曲も流れない)。この演出はなかなか良い。その直前のパーティーシーンも、色彩とBGMを利用できるアニメ版は、明るく華やかなムードを表現できている。
 しかし今回はかなりの駆け足で、ちょうどきりの良いところまで進めたものの、「溜め」を置かずに話をどんどん進めていくので情緒が無い。現場の作画班はわりと良い仕事をしていると思うのだが(物体破壊アニメーションとか光源演出とか)、青写真となるべきコンテがただの漫画コピーなので、画面進行がダルいし、絵そのものも動かしにくくなっている。
 依然として不満は多い。劇伴の付け方はかなり鈍感だし、しばしば音声の邪魔をしている(音声がBGMに埋もれがち)。声優についても、特にガリレア(杉田氏)の芝居は、抑えすぎていて感情が見えてこない。ギザルム(島崎氏)も、期待したほどの迫力が無い。悪い意味で芝居がかった調子を挟んでくるのが、かえって安っぽく軽薄に聞こえる。レン(高橋氏)の芝居も薄すぎる。シャイで可憐なキャラを表現するのに、ただ単に小声で高音喋りをするというのでは、さすがに退屈する。
 視覚表現としても、レンが拾われてきたくだりに疑問がある。漫画版では、ジェイドがレンを連れてきたシーンで、レンは小さく描かれているが、これはあくまでデフォルメであって、本当に幼児だったわけではない筈だ。しかし、アニメ版はそれをそのまま再現してずっとアニメーションさせているので、デフォルメであることが伝わらず、まるで幼児レンを拾ってきたかのように見えてしまう。タリアの眼がずっと輝いているのも疑問。能力発動時のサインとして輝くならば分かるが、そうでないときも常時光らせているのは、あまり良い演出ではないと思う。能力を制御できていることを示すためにも、ON/OFFを切り替えてみせるべきではなかろうか。
 クレジットにある「ポルカ」というのは、漫画版のいわゆる「う○この人」(魔人剣士)のことだろうか? さすがに「うん○の人」と書くわけにはいかないだろうし、アニメ版に際して正式にネーミングしたということだろうか。キャストは上田燿司氏。剽軽なようでいて不気味さも漂わせている、秀逸な芝居(※ちなみに、上田氏は第3話のリッチ役も演じていた)。

 第9話。漫画版の絵(構図)を再現することだけを重視しているせいで、絵をアニメーションさせるべきところが、ただの静止画+エフェクトばかりになってしまっている。魔槍の群に追い回されるところも、台詞も何も無いままたただ延々と結界球が動き回るだけなので、迫力も無いし抑揚も乏しく、あまりにも冗長でつまらない。時間にして40秒間(11:07-11:47)も、このシーンが続くのはさすがに長すぎる(※漫画版では見開き2ページ、ほんの6コマだけ)。技術的には、カメラワークなどでかなり凝ったことをしていて実は凄いのだが、暗い画面で結界ボールがひたすらフワフワ逃げ回っているだけなので、ちっとも演出効果に結実していない。これはもう、玉村監督が悪いと言うしかない。他のシーンも、SFXは頑張っているが、換言すれば「エフェクト頼みで、ちゃんと絵を動かしていない」とも言える。
 ギザルムの表情作画が、かなり険のある邪悪さを前面に出している。漫画版では、もっとすっきりした表情が多くて、それがかえって無邪気な傲慢さを際立たせていた。これはキャラクター造形上/解釈上の違いか。アニメ版7:40-(漫画版29話に相当)で、ロイドとギザルムが会話しながら同じポーズで両手を持ち上げていくところは、アニメーションさせることによって、対比効果を上手く表現している。
 ギザルム役の芝居も相変わらずひどいが、これは本作の音響ディレクション全体がおかしいので、彼の責任かどうかは分からない。本作の拙さだけで島崎氏の評価を決めてはいけないだろう。

 タリアさんの自傷共有スキルは、きついなあ……。要はダメージ反射スキルで、自分の身体を傷つけると、それが相手にも同じ効果(同じダメージ)を生じさせるというものだが、能力を効果的なタイミングで使おうとすると自傷しまくることになり、基本的には相討ち(共倒れ)になってしまうし、あまり無茶な傷はつけられない。せいぜい乱戦のサポート役か、あるいは(相手がスキルを理解していれば)囮か壁役にしか使えないだろう。しかし、治癒魔術があまり発展していない世界だし、腕や脛に包帯を巻いているのは実際にこれまで深刻な自傷を繰り返してきたことの証左だろう。
 漫画版では、最初の対ロイド戦と雑魚魔人足止め以降は、能力を使って活躍する機会はほぼ皆無だが(アルベルトを酔わせたくらい)、そうなるのも仕方ない。なにしろ、防御無視&回避不可能なきわめて強力な攻撃になるが、基本的には犠牲的な相討ちにしかならないので。アニメ版のキャラ紹介でも、「仲間のために自分が傷を負うことに躊躇しない犠牲的な精神を持つ」と明言されているが、そのくらい覚悟の決まった性格でなければこんなスキルはとても使えないだろう。フィクションの異能設定の中でも、突出して残酷な(可哀想な)スキルの一つだと思う。


 第10話は剣士対決の回。クライマックスだけあって、さすがに作画のクオリティも上がったし、演出面も、キャラの細やかな振り付けからVFXの迫力まで、非常に充実している。
 ポルカが「夜行」を発動する場面の直前に、アニメ版独自の追加カットがある。具体的には、二人が切り結び、そしてポルカがドリルのような回転攻撃を仕掛けてくるというシークエンス。ここはしっかりとアニメーションしているし、剣戟の尺の長さをたっぷり確保するという意味でも、良いアレンジだと言える。また、「凩」のカットで、一息で大きく踏み込んでくるところをアニメーションで表現していたのも良い。シルファの髪留めがほどけるところなど、頭髪表現のアニメーションもきれいで、雰囲気が出ている。シルファのエフェクトがクールな青で、ポルカの剣戟エフェクトは禍々しい赤色に分けてあるのも、カラーアニメ媒体ならではの独自の表現と言える。劇伴(BGM)も、対峙する二人の緊張感を盛り上げるように、上手く作用している。
 剣士どうしが同時に必殺技を発動するところは、漫画媒体であれば二人の台詞を一つのコマに並べてしまえば済むが、アニメだとそうはいかない。同時に喋らせると、台詞が被ってしまって聞き取りづらくなるからだ。それゆえこの作品では、「狼牙」→「大天狗」の技名を順番に叫ばせているが、しかしこれだと、タイミングの合った同時発動の緊張感が感じにくくなる。アニメ媒体ならではの難しさだと言ってよいだろう。
 シルファが抜刀の構えに入るところは、漫画版では「ドォン」と両足を踏みしめる形だったが、アニメ版では静かに両足を開いて構えるという形になった(※ちなみにここでカメラはシルファの周囲を一回りするという、力の入った作画)。
 さらに、「一虎・顎」の発動状況も異なっている。漫画版ではポルカに奥義を発動させることもなく、シルファが一瞬で切り捨てて終わった。つまり、ポルカ(うんこの人)が気づくよりも速く、気づいた時にはすでに斬られ終わっているという、完璧な居合技の瞬殺シーンだった。それに対してアニメ版では、お互いに正面から抜刀で打ちかかって交差するという形にアレンジされた。このアレンジが良いかどうかは、評価が難しい。漫画版は、大胆なコマ組みによって「静」の居合瞬殺を表現していたのに対して、アニメ媒体では「動」の一刀両断を描くのに適していると考えられるが……。
 8級魔人が最初に斬りかかってくるところも、微妙に異なっている。漫画版では、魔人が飛びかかってくる瞬間にシルファが抜剣対応して、一撃ぶつけて離脱する。アニメ版では、魔人に一太刀斬られてから、シルファが抜剣して、二撃目に対処するという形になっている。背中側で斬り結んでいるのも含めて、このアニメ版の解釈(アレンジか?それとも誤読か?)には疑問がある。ここは漫画版の方が、速度感があるし、位置関係も無理がない。

邪悪な魔人が、領地乗っ取りを喜々として語っているシーンで、背景には無惨に崩壊しかけた城郭が映されている。これはアニメ版独自のカットだが、この一枚によって、事態の悲惨さがまざまざと感じ取れるようになっている。印象に残る演出。

 剣士対決のシーン以外でも、例えばバビロンがひそかに拳を握りしめるところなど、アニメーションさせる(絵を動かす)ことによって、その場面の意味づけを明瞭に表している。8級魔人ポルカの傲慢な語りでも、漫画版からさらに振り付けアニメーションを加えていて、たいへん表情豊かなものになっている。
 ポルカ役の上田燿司氏は、今回は饒舌に語りまくっているが、明晰かつ雄弁な芝居がたいへんな聴きもの。魔人の怪しさと邪悪なおぞましさ、外見に伴われた剽軽さ、そして剣士としての強キャラらしさに至るまで、絶妙のチューニングと堂々たる迫力で演じておられる。

 余計な話だが、シルファが剣をディアンに持たせておいたのは(アニメ版独自のカット)、かなりおかしな描写だ。なにしろメイドが、王族に向かって、無言で荷物持ちをさせたのだから。身分制社会としては、とんでもなく不遜な行為になってしまうだろう。とはいえ、ここの描き方が難しいのも、分かるには分かるのだが……。大事な剣を地面に置くのも変だし、かといって脇に抱えたままだったりするのもおかしい。その直後に剣の名前の話をするので、アニメの画面から消去するわけにもいかない(※漫画版では、コマ絵から消えていても問題にはならない)。

 細かい話。4話のシルファは8級魔人パズズに勝てなかったのが、この10話で同じ「8級」の魔人ポルカを撃破して、雪辱を果たしたことになる。
 第10話の視点から、過去のパズズ戦の状況を再検討してみよう。シルファは獣肉の鎧を切り剥がしてパズズ本体を追い出すところまでは出来た。しかしパズズ本体に対しては、二虎爪牙で叩き付けるまでに留まっている。そしてその直後、瘴気の霧で動けなくされて敗北した。ここから見て取れるのは二点。「魔人本体を切り裂くことはできていなかった(本気で斬ったら、おそらく剣が折れていたのだろう)」、「瘴気の霧に敗れたのは、初見殺しだったとも言えるし、そもそも相性が悪かったとも言える」。だから、4話の時点でシルファが勝利するには、「魔人殺し」並の強靱な武器を持っていて、なおかつ、油断せずに一気に魔人を仕留めきる必要があった(つまり、再生したり魔霧を発動されたりしないうちに撃破しなければいけなかった)。戦闘力そのものは上回っているのに、敵のタフネスと特殊能力に後れを取るという典型例か……。
 後のシルファ回想編(漫画版)でも、同じように相性不利が生じていたし、月皇戦でも魔力不足が足を引っ張った。魔術探究の美しさと剣術探究の美しさは、相通じる精神的姿勢だとはいえ、魔力の足りないシルファは、この作品の中では強烈な能力制限を掛けられた存在であり、その限界部分に物語としての焦点が当てられがちになってしまうのは、やむを得ないことだろう。


 魔人に対してどのような攻撃手段が有効なのかも、よく分からない。漫画版の描写から推測すると、以下のような感じだろうか。

 本体(精神体、魔力体)
 低級魔人(10級雑魚たち)には、魔術が多少効く(※実際にロイドが雑魚魔人の多くを消し飛ばした)。魔力の性質変化も、おそらく効く(クロウの呪言やタリアの百傷も)。物理攻撃は完全無効かも。ただし、精神体のままでは大した活動はできない(グリモの説明より)。
 しかし中級以上の魔人(8級パズズ、8級ポルカ、3級[?]のグリモ)に対しては、魔術もほぼ無効。ただし、魔術の効果をまったく受けないというわけではなく、例えば封印の魔術で閉じ込めることはできる(パズズや、1話のグリモ)。また、瀕死の魔力体を吸い込んで消滅させてしまうこともできるようだ(例:パズズを取り込んだグリモ)。物理攻撃は、完全無効だろう。
 魔族(ギザルム)は、精神体では、おそらく中級魔人たちと同様。

 寄生(乗っ取り)、または自力で肉体形成している状態。
 低級魔人たちは、寄生or肉体形成の状態では、物理防御も魔法防御もかなり頑丈だし、ダメージを受けても再生していける。しかし、魔術でも物理でもダメージを受けるし、再生もそれほど早くはない。例えば火炎魔術を受けると、肉体再生が必要なほどのダメージを受けるし、熱さなどの痛みも感じている。呪言などの魔力作用も、効果を発揮する(クロウやタリア。おそらくレンの毒霧も効く)。また、物理攻撃でも、首を折ったり全身を噛み砕いたりして身体部分に致命的ダメージを与えれば、再生しきれず、精神体もろともに死亡する場合がある(バビロンの関節技や、リルの丸呑み)。
 中級魔人たちの場合は、物理防御/魔術防御ともに非常に頑丈で、通常の魔術はほとんど効かないし、ダメージを受けてもほぼ即座に再生する。しかし、強力な魔術を当てれば、多少の痛みは感じるし、それを延々続ければ倒すことも一応可能(パズズ。保有魔力は膨大だが、魔力切れで消滅することはあり得るようだ。48話のジリエルも同様)。封印の魔術で結界内に閉じ込めることも可能。呪言なども効く(クロウやタリア)。物理面では、非常にタフだが、ダメージを与える(傷を付ける)ことは可能。なまじの攻撃ではすぐに再生されてしまうが、再生の余裕を与えないように身体部分を瞬殺して絶命させれば、物理攻撃で倒すことも一応可能(シルファ)。
 魔族。寄生or肉体形成した状態でも、中級魔人たちと同等以上。つまり、ほぼ物理無効に近い(※ただし、強力な攻撃を受けた場合にはダメージがあるし、痛みも感じる)。そのうえ、魔人以上の超再生能力を持っており、殺しても即座に完全復帰できるため(※ジェイドによる自害の試みはすべて失敗した)、物理攻撃だけでは絶対に勝てないだろう。また、魔術も基本的に無効。ただし、魔術の効果をまったく受けないというわけではない。例えば、強力な魔術で吹き飛ばすことはできるし、視覚的に幻惑したり(隠遁魔術)、亜空間に放り込んだり(虚空魔術)することもできる。ただし、封印の魔術で閉じ込めようとしても、おそらく破られる(※ロイドの強固な結界すら容易に破壊できるので)。

 こうして見ると、低級魔人(仮)に対しては、なまじの魔術よりも、強力な物理攻撃を叩き込む方が有効かも。実際、アルベルトは、「リルとシルファが動けば確実に」10級魔人たちを一掃できると見込んでいた(32話)。ただし、魔人が防御結界を発動できる場合には、物理攻撃では手も足も出なくなるという可能性がある。
 それに対して、中級(仮)以上の魔人は、再生能力も頑丈さも桁違いなので、並の人類では何百人いても絶対に勝てない。封印魔術を当てるくらいしかなさそう。あるいは、魔術師で立ち向かうよりも、強力な剣士たちで攻撃しまくってクリティカルヒットを狙う方がマシかも(※もちろんロイドは別格だが)。
 そして魔族は、よっぽど特殊な方法でなければ倒せない。「虚空」という防御無視のブラックホール攻撃が無かったら、ロイドでも倒しきるのは難しかったかもしれない。

 ちなみに、パズズが魔獣ボディの中に入っていたのは、ただ単に眷属の体内に潜っていただけで、寄生ではないように見える。
 また、37話でギザルムが溶岩に落ちるのを嫌った理由は不明。身体が完全に消滅したら精神体もろともに死んでしまうのか、それとも、ただ単に瞬間転移を使えるジェイドの肉体を失うのを嫌がっただけなのか、あるいは、溶岩から脱出できずに無限に死に続ける可能性があったからか。私見では、溶岩に落ちてもギザルム自身が死ぬことは無いが、転移魔術を自力獲得したわけではないから、ジェイドの身体を失うと転移能力も喪失してしまうことになり、それを嫌ったのだろうかと考えているが……実際のところは分からない。


 余計な想像だが、2期を作れるかというと、教会編のボリュームは1クール12話(13話)に収めるのは難しい。駆け足で進めれば、一応ぎりぎり可能な分量ではあるが、原作(漫画版)のページ数は1期以上になってしまうし、漫画版のままだと各話の区切りがすっきりしない。2期は途中までにしておいて、ラスボス戦は劇場版に任せるという対処もあり得るが、そこまでの人気があるかどうかは分からない。しかも、高コストなバトルシーンの連続なので、全編に亘ってかなりの制作体力が求められる。2期は難しいだろうなあ……。
 内容面でも、「超精密な反射バトルをアニメ化できるの?」とか、「あの歌の迫力をどうやって表現するの?」とか、「巨大増殖していく七弁天をアニメーションで描ききれるの?」とか(※漫画家は一人で描ききったのだが)、「完全食との珍バトルも正面からアニメ化するの?」とか、「ほくほくのパンケーキもアニメ化するの?」とか、問題が山積みになりそう。もしかしたら最大の問題は、80年代ラブコメのようなセクハラ行動をしまくるジリエル君の存在かもしれない。
 ところで、アニメ版公式サイトでは、いまだに円盤情報が出ていないのはいったい何故だろう? BD/DVDでも上位のセールスになりそうな作品だし、円盤発売を渋る必要は無さそうなのに……(※後日追記:円盤発売がようやく告知された)。


 11話。強烈なエンコ殺しになりそうなエフェクトが大量展開される。前半は説明台詞を喋りすぎてダルいが、中盤の形代量産からはアニメーションとしての見どころが増えてきて、終盤の連打乱舞は鮮やかに表現されている。黒枠を嵌めた回想シーンも良い。
 構成面では、アバンタイトルにジェイドの回想を持ってきたのは良い判断。そのおかげで、Bパートでロイドとジェイドの二重写しが上手く決まっている。
 音響面。「魔術は無限に面白い」のくだりなどは、声優がもうちょっと情趣を込めてくれていたらと思うが、仕方ない。グリモ役(ファイルーズ氏)の熱演は、このぎりぎりの戦いに相応しい出来映えだし、ギザルム役(島崎氏)も、キャラ登場初期の道化た芝居を減らして、ずいぶん良くなってきた。劇伴も、上手く当てられている。
 11話の終盤制作だが、絵作りも隙がないし、絵の動かし方にも説得力があり、エフェクト(VFX)の使い方も面白味と迫力を両立させている。制作スタジオ「つむぎ秋田アニメLab」は、たいへん良い仕事をなさっている。このポテンシャルを活かせるように、またオリジナルアニメを手掛けてくれたらなあ……(※実際、この直前の冬クールでは、同じ監督の下でオリジナルアニメ『明治撃剣』を手掛けていた)。

 この終盤展開は、テーマの扱いも良い。10話ではシルファが、ロイドから受け取った剣で、「研鑽で積み上げた人類の境地」を示して、魔人を瞬殺する。そして11話では、今度はロイドが、ジェイドから受け取った術式化「影狼」で、魔族ギザルムを圧倒する。剣技と魔術の違いはあれど、人の営みによって作り上げられた技術が、それを使うべき人に正しく託されることによって、美しくも輝かしい精華として結実する。そしてそれは、ただ奪ったものを(借り物として)使うだけの魔人たち――ポルカもギザルムも――とは、正反対の姿勢だ。
 こうした姿勢は、普段のロイドにも、前世ロイドにも共通しているし、タオのダンジョンバトルでも同じ主題がはっきりと前景化されている。パズズ戦で、魔獣たちが本来の力を取り戻したシーンにも、これらと通底するニュアンスが漂っている。

 漫画版では、残り80ページ分ほど。最後の駆け足になるか、一部を省略するか、あるいは最終回の特別扱いで長尺にするか……。というか、漫画版のままだと、温泉シーンで締め括ることになるのだが……。

 この11話ほどの高密度でも、SNSを見ると「引き延ばし」と感じた視聴者が何人もいたようだ。Aパートから大迫力の魔術 → 水蒸気で見えなくなる(戦況一転) → 影狼の欠点を把握 → 形代を量産 → 本体を見破る → それすらフェイク → 魔槍乱射で殲滅を図る → 隠遁魔術でそれに対処しつつ影狼を解読 → 美しい回想 → 逆転劇で大迫力の連打+二重魔術 → 最後の黒死玉……と、とんでもなく濃密な頭脳戦+異能(魔術)バトルが展開されていて、むしろ詰め込みすぎ、急ぎすぎなくらいなのに……。前半で戦いの最中に設定トークを延々喋らせていたのが、「ダレる」「メリハリがない」と感じさせた可能性がある。その意味では、アニメ媒体であることを念頭に、脚本がもっとコンパクトに絞り込むべきだったのかもしれない。
 あるいは、初見の視聴者にとっては、作品の方向性が予想と異なっていたということがあるかもしれない。というのは、最初のうちはライトな魔術探究ものだったのが、このロードスト編からどんどんバトル漫画の性格を強めていくからだ。「派手な魔術をぶっ放す爽快さを無邪気に楽しめる、強キャラストーリー」のつもりで視聴していた作品が、「強敵との間の(ボリュームの面でも、精神的な側面でも)ヘヴィな魔術バトルの連続」へと変容していくのに、ついていけない(期待と異なる)と感じられることは、確かにあり得ることだ。こういった作品コンセプトの提示の仕方に関しては、広報部が上手く手当てしていくべきところだろう。
 ちなみに、上記の進行は完全に漫画版準拠なのだが、ストーリー展開の筋はしっかり通っている。すなわち、「影狼は攻防ともに優秀すぎるので、なんとか対処しなければ勝てない」→「形代量産に紛れて接近戦(吸魔の剣)で影狼を解読するのが必須条件」→「だが接近戦では、魔槍乱射にどう対処するかが問題になる」→「解読できたら、影狼に先回りして反撃できるようになる(相手の最大の武器を無効化できた)」ということなので。

 それにしても、どうして「暗殺者」ギルドなのだろうかという疑問はある。彼等は殺人をしそうな雰囲気ではないし、能力面でもあまり暗殺に向いていないので(能力を制御できていなかったので尚更)。実のところ、「誤って人を傷つけてしまったり(レン、タリア)、周囲から嫌がられたりした(バビロン、クロウ、ガリレア)から、アングラに逃れて便利屋をしているだけで、暗殺はメイン業務ではない」なのでは……。ただし、イド暗殺やシルファ襲撃の依頼が来たくらいには、そういう攻撃的な活動もしていたのだろうけど。

 12話(最終話)。前回からの「黒死玉」を、島崎氏が「くぉしだむぁー」と演じるのは、(ギザルムが最終的に安っぽく負けるのを差し引いても)さすがに芝居が薄っぺらすぎて印象が悪い。音響監督のせいでもあるだろうけれど、役者本人についても、いかがなものかと思う。