2013/08/26

『あかときっ!』について(2)

  『あかときっ!』について。全体的なコメントは別ページを参照。このページでは、主として公式サイト等で紹介されていない側面について、かつ画像引用によって説明するのが適当であろう部分について、以下のような項目に分けて紹介を試みる。

  1.背景画像の美術設計について
  2.戦闘パートのシステマティックな視覚表現について
  3.AVGパートに関わる様々な演出技術について


  【 1.背景画像の美術設計について 】

(図1a:)物語の舞台である「アカトキ市」の俯瞰画像。地平線が大きく湾曲して見えるのは、"写実的"ではないが、この視点が高空にあって遠くを見晴らせるものであることを(擬似的に)表している。本作は空中での「魔砲」戦闘を題材としており、そのために背景画像についてもこのように非常に大胆な造形が試みられている。
(図1b:)物語の進行によって、この街の入り江には巨大な時計塔城郭(「クリックフラップ」)が落下してくる。左記引用画像は夜景のものであるが、日中差分の様子は公式サイト※リンク先はアダルトゲームサイト注意)でも見ることができる。
(図1c:)入り江に面した公園のスクリーンショット。画面右端に白-黄-青の時計塔がフレームインしている。時計塔落下イベント以前と以降とで、このように背景画像もひっそりと差分変化を行っている。
(図2:)時計塔内部の玉座前。外観デザインの秀逸さと対応するように、内装部分も時計モティーフをあしらった不思議なデザインになっている。ただし、外観がユーモラスで明るい佇まいを示しているのとは対照的に、この紫色基調の建物内部は、来るべき黒幕のその赤黒いカラーリングを反映するかのようでもある。/なお、画像の発言者「チッカ」は、画面右側のキャラクターである。
(図3:)この世界は太陽光が失われており、代わりに「創造石」と呼ばれる魔石が大量に出現しているという設定である。人類は魔石から抽出したエネルギーで人工太陽を作動させているが、夜空のきらめきもまた現実世界のそれとは大きく異なった姿に描かれている。左記背景画像の中にも、金平糖のような創造石が夜空にいくつも浮かんでいるのが見て取れる。
(図4:)神秘の「魔砲器」に跨がって宙空に浮遊するキャラクターのスクリーンショット。ここで「クラヤミの訪れた世界」という舞台設定の意匠は、1)「空中移動をするヒロインたち」というキャラクター設定の特質と、2)「不思議な魔石の舞い踊る紫色の夜空」というこの非現実的で神秘的な背景デザインの、双方の魅惑的な結びつきへと結実している。

(図5a:)時計塔のテラスに設けられた園庭の夜景。背景画像の魅力が作品の個性的表現の一翼を、その重要な一部分を担っていることは、あらためて言うまでもないだろう。玉座デザインに用いられた「時計」という人工物が彼等「クラヤミ」にとっては自然本性の一部であるのに対して、この自然の夜空は我々の目にはむしろきわめて不自然なものと映るというコントラストも興味深い。

(図5b:)上記背景画像に立ち絵が加わった状態。この「不遜なメイド」に代表されるように、人間界に馴染んでしまう異世界の魔物たちのユーモラスで邪気の無い振舞いの描写もまた、この物語全体を童話めいた非現実的なムードへと導いていく。ただしその一方で、主人公の周囲については、夢に賭ける熱意とその挫折という卑近な状況が、今時珍しいほどの少年漫画的な率直さで描かれもするのだが。


(図6:)市街地上空の背景画像。悠然と傾斜したレイアウトと、地平線まで遠く見通す奥行きの深さは、AVGの背景画像としては異例のものであるが、これらももちろん滞空会話シチュエーションを念頭に置いてそれらに最適化したうえでの設計であろう。この背景画像にも、青空差分や夜景差分などが何種類も用意されている。


  【 2.戦闘パートのシステマティックな視覚表現について 】

(図7:)この戦闘パートは、上の図6の背景を元画像として利用し、一部拡大とボカシ処理を掛けているのが判る。戦闘の中で画面上の行動ユニットが入れ替わっていくにつれて、背景画像も元画像の様々な一部分をその都度切り取って表示するというかたちで不規則に変化していき、それによってこの多対多空中戦闘の空間的広がりをプレイヤーに印象づけることに成功している。

(図8:)攻撃命中表現。ダメージ表現として衣服が破れたり脱落したりする。手袋、上衣、スカート、下着、ニーソ、靴などがそれぞれ独立に「脱衣」していくので、全体としての差分変化はランダムかつ膨大なものになる。「魔砲器」に騎乗した空中戦という設定が、脱衣差分変化が映えるような自由なポージングと自由な(三次元的)カメラワークに説得力を与えている。cf. [ twでの2011年1月25日付ログ ]
(図9a:)必殺技発動時。左図9aのようなカットインが必殺技用コスチュームに変化し、9bの拡大カットインを挟んで、決め台詞とともに必殺技一枚絵が挿入され、そして攻撃命中表現に至る。
(図9b:)こう書くと煩雑な演出に聞こえるかもしれないが、必殺技は一戦闘で通常0~2回ほどしか使用できないうえ、全体攻撃が出来るのも必殺技のみであり、戦闘の推移の中でクリティカルな地位を占める。その重大性のゆえに、この演出は十分に見合う。演出それ自体も、心地良い爽快感を伴う。プログラムの快適さと演出センスとゲームバランス調整の三者の共同作業の成果である。
(図10:)戦闘中には、敵にも味方にも増援が現れることがある。この場合も、左図のように縦のカットインが挿入されつつ、増援キャラクターたちが頼もしい台詞を――あるいは敵側増援の場合は禍々しい台詞を――発してくれる。


  【 3.AVGパートに関わる様々な演出技術について 】

(図11:)先にも述べたように、戦闘中のダメージによってヒロインたちは部分脱衣するが、そのダメージ表現は直後のAVGパートにも忠実に反映される。左図では、右側のキャラクターが上衣のワンピースをほぼ完全に脱落させており、左側のキャラクターも手袋と上衣に部分的なダメージを負っている。
(図12:)場面転換演出の一例。回想終了時の一時的な二重写しのスクリーンショット。テキスト表現のみに過度に依存することなく、ゲームエンジン基軸で様々なエフェクト演出やトランジション表現を行って特有の意味作用をもたらすのは、現代AVGが開拓してきたスタイルであるが、Escu:deのエンジンもそれらを積極的に実践している。
(図13a:)魔族キャラクターの立ち絵が霧靄のように現れる表現(の途中状態)。Escu:deはAVG専業ではなくSLG系ブランドと見做されているが、2008年の『ワンダリング・リペア!』『ヴェルディア幻奏曲』の頃から、AVGの演出技術の開拓にも積極的に取り組んでいる(cf. 演出論Ⅳ-4-5-α)。本作にも、アニメーションVFX、次回予告の活用、テキスト表示形態のアレンジ、画像差分管理など、様々な試みがある。
(図13b:)上の図に続く場面。キャラクターデザインの秀逸さも、本作の大きな魅力である。左図のキャラクター「ピエロ」(名無しのピエロ)は、物語の中で占めるその役回りにおいて、脚本家がのちに他のメーカーで手掛けた悪役キャラクター(『英雄*戦姫』の「ムー」)を連想させるが、それよりも明瞭に、その非常識で派手好きな道化師的役割をキャラクターデザインの次元でまざまざとあらかじめ示唆している。

(図14:)主要なキャラクター以外にも、様々なキャラクターやユニットが登場する。その中には、左図のような邪悪で不気味なデザインのものも含まれている。明るい配色で、時計モティーフを引継ぎつつ、一見愛嬌のある猫耳らしき突起を付けているにもかかわらず、その非対称デザインの笑顔は非常に凶悪なものである。
(図15:)文字(テキスト)による物語表現も、多層的に組み立てられている。装備アイテムの説明コメント欄の中に、その開発者(「綾崎流」)とその上司(「丸河千鶴」)が積み重ねてきた交流の歴史が窺われる。この他にも、命中率を上げる魔法アイテムを使用した雪合戦のエピソードや、千鶴の説教を受け流すために流がノイズキャンセラーアイテムを開発した逸話など、微笑ましい事件群が記録されている。
(図16:)テキスト表示形態も、その場面の意図と必要に応じて様々に変化させられる。一般的な画面下部三行テキストボックスだけでなく、画面全体に複数パラグラフが並ぶヴィジュアルノヴェル形式レイアウトを一時的に採用している場面もあるし、あるいは左図のように画面中央にテキストを表示する(しかもフォントも変えている)という場合もある。

(図17:)コンフィグ画面。パステルカラーを基調としつつ、高い水準でまとまったグラフィックデザインである。はっきりしたコントラストカラー、やさしい縦縞背景、見やすいフォント、瑞々しい水玉模様。そして魔砲器デザインにつながる羽根模様の装飾も、機能上な分かりやすさとアイキャッチ効果を両立させている。各項目はカテゴリー毎に仕切られていて分かりやすいし、画面右にはヘルプテキストも表示される。