ゾンビキャラなど、特異な身体的条件に置かれたキャラクターたちについて少々。
【 超自然的な不死体となった主人公たち 】
ふと思い出したが、『BE-YOND』(elf、2000[1996年版もおそらく同じ])のフェイもゾンビだった、というかゾンビになった。いったんは死亡したものの、超自然的な力を持つ主人公によって(擬似的に)蘇生させられ、それとともに主人公に絶対服従しなければならない存在になった。管宗光らしくギャグシーンとして処理されていたが、今にして思えば『ゆのはな』(PULLTOP、2005)や『プリンセス小夜曲』(すたじお緑茶、2005)の不死化した主人公たちもそれと相通じるところがある。『BE-YOND』のそれがSF的超越神の所行であったのに対して『ゆのはな』は日本土着の神のわざであり、『プリンセス小夜曲』は西洋的錬金術によるホムンクルス化だという違いはあるが(――ちなみに『BE-YOND』自体も、物語の後半では主人公自身が複製物だという話になっていったのだった)。『まじかる☆アンティーク』(Leaf、2000)も同様。『BUNNYBLACK』(ソフトハウスキャラ、2010)の場合は、死亡には至っておらず、ぎりぎり瀕死状態のところをヒロインの魔力注入によって命を救われた。『ヤミと帽子と本の旅人』(ROOT、2002)にも、主人公が一種の不死体になる箇所がある。「吸血鬼ヒロインに支配される」というパターンまで視野に入れれば、実例はわりと多い。
【 ゾンビヒロイン 】
他方でヒロイン側を見ると、もちろん『DUEL SAVIOR』『とり×とり』『エインズワースの魔物たち』『英雄×魔王』『LOVE&DEAD』『腐り姫』『星空のメモリア』のような正統的なゾンビヒロインもいるが、『エスカレイヤー』『BALDR FORCE』『ひめしょ!』『オルタ』『こころナビ』のように「本体(身体)から切り離された人工体ヒロイン」というパターンも出てくる。『エスカレイヤー』では、本体は冷凍睡眠中で、動き回っている人体部分は意識だけを移植(再現)したアンドロイドのようなものだった筈。『BALDR FORCE』では、本体はすでに死亡していて、ネット上にのみ存在する純粋な仮想存在。『ひめしょ!』のサキサカサキは、人体部分はほぼ完全にサイボーグ化されていて、生身の部分は脳髄部分だけ(が自宅にあって、人体部分を遠隔操作している)という設定だった。『オルタ』も似たような感じ。『とらいあんぐるハート』『HUSHABY BABY』『もしも明日が晴れならば』などには幽霊ヒロインがいるが、ゾンビとは別枠だろう。
【 物語にとっての機能 】
ただし、これらのタイトルの中で、たとえば男性側の生殖機能の如何が問題にされることは無い。『です☆めた』の主人公や『MinDeaD BlooD』の主人公が吸血鬼に噛まれた時と同様に、一定の条件づけをおこなうのがその主な役割である。すなわち、主人公に明確な目的を与えること。一定のルールを課すこと(――吸血鬼の場合はとりわけ禁則を。他方で不死者の場合は、どちらかといえば死を免れられることに起因するアドヴァンテージを)。そして、他のキャラクターとの間に特定の関係を定立すること。
ヒロイン側についても、「心か体か」といった二者択一の問が仰々しく提起されることも、むしろかなり少ないと言っていいだろう(――上記タイトル群の中では、ロマンチックな『ひめしょ!』には、サキサカサキの妹が主人公に対してその問を正面から突きつけるシーンが存在した)。そのような問の物語的活用は、どちらかといえば調教SLGの枠内で徹底されていった(例:『Pigeon Blood』)のではないかと考えているが、残念ながらそれをきちんと論じられるだけの用意は持ち合わせていない。
【 メモ 】
『Apocalypse』(Tactics、2003)や『3days』(Lass、2004)にもそんな話があったような気がするが、もうほとんど憶えていない。『3days』のは、複雑な西洋魔術によって編み上げられた魔法体のホムンクルスのヒロインだったか。『シュガーコートフリークス』(Littlewitch、2010)も、ライカや黒蛇リーガンも、たしか似たような設定だった。
その他、モブキャラとしても様々なかたちで登場する。例えば『月神楽』の敵キャラ、『THE GOD OF DEATH』のサブキャラ、『MinDeaD BlooD』のサブキャラなど。吸血鬼とセットで、つまり吸血鬼に支配された喰屍鬼として登場する場合もある(例:『蠅声の王』)。『美少女万華鏡』には「ゾンビ執事」なるサブキャラがいる。『黒の断章』のようなクトゥルフものにも、ゾンビが登場する。