2026年6月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。
●新規作品。
檸羽(ねう)『悪役令嬢ってのはこうやるのよ』第1巻(双葉社、原作あり、1-5話)。いまいち。カオミン氏デザインをベースにしていることもあってキャラデザはなかなか魅力的だが、疫病解決など、アイデアがどれもありきたり。仇役がどれも愚かなのが退屈させる。
男性向けだと敵対者は「倒し甲斐(乗り越え甲斐)のある、立派な強大な存在」として描かれることが多いのに対して、女性向けだと「心ゆくまで叩き潰せる、醜くて愚かで無価値な小物のゴミ」として描かれる。前者は前者で問題がある(例えば悪いことをしているキャラクターも格好良くなりすぎる)けれど、後者も、美醜と好悪だけを基準にした格差主義と、異物(というか自分よりも「下」の存在)に対する攻撃性の発露を全肯定している気持ち悪さがある。この作品でも、主人公と対立する「ヒロイン」側の人物たちが愚かな社会的粗相によってどんどん自滅していくので、なんともカタルシスが無い。
いわゆる「私のためにキモい奴らを殴ってくれるヤ○ザ様or公爵様」のアプローチも、反転させると「俺のために醜いあの女どもをいじめてくれる元気ギャルちゃんor高嶺の花お嬢様」になるのだが、たぶん大多数の男性はそういうキャラクター(関係)を悍ましく感じるだろう。うーん。いや、もしかして、ありなのか? 「モテない僕を愚かなギャルたちから護りつつ尽くしてくれる強気な幼馴染」のようなものも、うーん、それほど露骨ではないにせよ、あったかもしれない。まあ、どちらも私は嫌だけど。
鯨川リョウ『教生カンケイ』第1巻(秋田書店、1-6話)。鯨川氏の新連載。両親から愛されていないと感じている一人暮らしの男子高校生のところに、だらしない女性教師が転がり込んでくるコメディ。主人公の心情描写にはシリアス要素もあるが、ヒロインの方はひたすら滅茶苦茶な生活をしている。この漫画家さんらしいキャラクター造形の尖った切れ味や、闊達自在で「お行儀良くしない」コミカル演出は健在。
あきときたいき『オヤサイリベリオン』第1巻(小学館、1-6話)。野菜擬人化(?)キャラクターたちの物語。ナス族を虐殺する根菜たちと、それに対するナス主人公の復讐のドラマ。作画はレイアウトも良いし、力感のある動きもよく描けていて素晴らしいし、目玉が飛び出る(物理)くらいのグロ描写もあるのだが、シナリオとキャラデザが陳腐なのがもったいない。また、シリアスなようでいて中途半端にメタジョークを挟んでくるのも、個人的に好みから外れる(※焼死したナスキャラを「焼き茄子」と呼んだり)。野山を進むシーンの細やかな所作など、良いところも多いのだが……。擬人化キャラたちの凄惨なバトルという観点では『どく・どく・もり・もり』の後追いのようなアプローチだが、現時点ではとても比較にならない。作者はこれまでいくつもの連載経験があり、絵作りそれ自体はかなり高い水準なのだが……つくづくもったいない。
成田芋虫『ヴァージン・キラー忍法帖』第1巻(マッグガーデン、1-8話)。鈍感な男性忍者と、ツンデレな女性忍者の間のラブコメ。予想以上に、かなり面白かった。ヒロイン「紫(むらさき)」が慌てたりドキドキしたり頑張ったりする表情がやたら生き生きしていて、これだけで読みごたえがあるし、二人を見守る首領キャラがいることで、「状況をかき回す」「ツッコミをする」「いわゆる『カップル見守り』役として読者の反応を代弁をする」といった刺激をもたらしている。ラブコメなので、ベタなネタもあるのだが、ネタの密度が高いし、オチの前の溜めも上手く利かせているし、台詞回しや周辺の小ネタなども洒落っ気があって良い。この漫画家さんの作品を読んだのは初めてだが、2010年デビューでこれが3つめの連載(本書で16冊目)という、中堅クラスの十分な実績のあるクリエイターのようだ。
●カジュアル買い、買い足しなど。
新島なるい『白銀のキュイジーヌ』第1-2巻(講談社、1-4話/5-11話)。明治時代の外交官邸で西洋料理を作ることになった少女の物語。傲慢毒舌な上司(美形若年男性)の下で働くことになる主人公の「かわいそ可愛い」雰囲気はコミカルで楽しいし、料理描写などもきちんと下調べをして作劇されている。主人公の少女も、どこか妙に色っぽく(えろすではなく、なまめかしい)、濃厚な雰囲気を漂わせている……のだが、えっ、第2巻(新刊)で完結してる! もったいないなあ……。シチュエーションも明確で、目標もはっきりしており、人間関係も見通しが良く、そしてキャラクター造形や台詞のセンスにも独自性があり、漫画的演出もこなれていて充実した内容なのに……。なお、作者はこれが3つめの連載のようだ。次なる連載の機会に期待する。
俵京平『金のなる森』第2巻(集英社、5-16話、5月刊)。表紙でカジュアル買い。人類が火薬などの近代的技術を発達させて、旧弊的なエルフ族から搾取しはじめている世界(財宝、奴隷化)で、両者の合間を縫って活躍する商売人(?)主人公の物語。オリエンタリズム的な財宝探しロマンの物語類型でもあり、また、近年(再)形成されてきたエルフイメージを梃子として巧みに用いている点でも興味深い。ただし、シナリオ展開はややぎこちなく、トリックもありきたりだが、ドラマティックな展開は楽しめる。ほどほどに肉付きの良い人体描写と、意外に派手なグロシーン、さらに異能フレーバーのある魔法表現と、それらを活用した戦術的側面が混じり合っている贅沢な内容。せっかくなので第1巻も買って読んでおこう。作者は『恋獄の都市』(全5巻)に続く2つめの連載のようだ。
ささきさ『蒼きバルカナリア』第1巻(秋田書店、4月刊、1-5話)。これまで2作の連載経験のある漫画家による、16世紀ブルガリアを舞台にした物語。衣装、風景、建物、料理などのディテールが濃密に描き込まれており、読みごたえがある。シナリオは少女漫画なりに見通しをシンプルにしているが、ポジティヴな主人公の意志的で活発な行動が、見ていて心地良い。なお、「バルカナリア(balkanaria)」は、「バルカン半島の事物(バルカン文化)」といったような意味のようだ。
●続刊等。
1) 現代舞台の作品。
雁木万里『妹は知っている』第7巻(55-63話)。人間関係がいったん確立されたところで、さらにそれを先へ進めていこうとしているようだ。メール投稿職人の兄というキャッチーな部分と、芸能人(妹手)の裏側の何気ない日常という受けの良さそうな側面が、さほど連動しているわけではないのに、上手く両輪としてバランスが取れているのが面白い。
三都慎司『ミナミザスーパーエボリューション』第3巻(9-12話)。超常能力そのものの開拓はいったん区切りを付けて、同じ能力を持つ他者の出現、そしてそれらと対比的に描かれる青春の日常の輝きが美しい。
仲邑エンジツ『同居人がこの世界のモンじゃない』第2巻(11-20話+web掲載版いろいろ)。うーん、常識外れの突拍子もないキャラクターをほのぼのと描くのは、この作者の得意分野なのだが、この作品では、生々しい性欲表現がちょっと気持ち悪いし、それに引っ張られてネタの幅も狭まっている。倫理観の枠を外してみせる性的なネタも、道満晴明氏だったら突き放したユーモアで流していけただろうに、この作品では押しつけがましい雰囲気になってしまっている。うーん、もったいない。同じ作者の同月刊行『ムジナとミサキ』第2巻(8-14話、完結)も、歯切れの悪いまま終わってしまった。『おぼこい魔女』のようにキャラが上手く当たれば魅力的になるが、そこを外すと構成の弱さと中途半端なお色気が目立ってどんどん崩れていってしまうようだ。もったいない。
天井フィナンシェ『白紙の上でさようなら』第2巻(6-11話)。漫画家として(再)デビューを目指す女性の物語。第1巻の展開はスムーズで、今巻も良いには良いのだが、図式的にきれいに整理しすぎていて、状況の迫真性や内面の葛藤を感じ取りにくくなっている。この最新刊でも、「分かりやすい抑圧者が出てくる→主人公が黒ベタモノローグで動揺する→ヒーローにきれいに慰められて前向きになる」のパターンを連発しているのは、ちょっと飽きる。うーん、もったいない。画面作りに関しても、やけにカメラの近い構図を連続させていて息苦しい(つまり、コマの8割をキャラクターのアップで埋め尽くしまくっていて、空間的な広がりや風通しの良さが乏しい)。絵そのものは良いのだが、画面構成や視覚的演出が平板(単調)になりがちなのが惜しい。
イズミダフユキ『夜鷹ふたたび』第2巻(8-16話)。自堕落な元暗殺者の命を狙うコミカル闇社会サスペンス。若者から中高年まで、イズミダ氏はそれぞれに個性的な外見のキャラデザを披露されていてそれだけで面白いし、テクニカルなバトル描写や、キャラクターの表情を思いきり崩してみせる大胆さも含めて、エンタメとして充実した味わいがある。前作の『マダラランブル』も悪くはなかったが、キャラが多すぎたうえに、バトルシーンに傾斜しすぎたため、少々付き合いづらい作品になっていたが、今作はメインキャラを絞り込みつつコメディの比率を高めているおかげで、見通しの良い物語をベースにしてその都度のシーンを楽しんでいける。
2) ファンタジー寄り。
きただりょうま『魁の花巫女』第8巻(67-78話、完結)。結局、方向性のよく分からない作品だった。伝奇ものとしても中途半端だし、異能バトルというにも食い足りず、お色気ハーレムとしてもエンジンが掛からず、視覚的演出についても(かなり良い出来ではあるのだけど)驚きに乏しかった。この漫画家さんは、『μ&i』からずっと読み続けていて、たぶんファンと自称してもよいくらいだけど(※ただし『エグゼロス』は読んでいない)……うーん。
井山くらげ『後宮茶妃伝』第9巻(47-51話)。お茶関係のネタがヴァラエティ豊かで、読んでいて飽きない(※架空世界の架空茶だが、十分にあり得る話として受け止めることができる)。ストーリーは、後宮の人間関係が安定してきて、政治よりもお茶そのものを楽しむエピソードに集中している。作画に関しても、細く精妙なペンタッチと、くっきりした黒ベタのコントラストを活用しつつ、時にはユーモラスな表情も交えて物語を朗らかに展開している。
目玉焼き『悪役令嬢の矜持』第4巻(17-21話)。作画を引き継いで新たな漫画家が制作されているが、画風は比較的似ている(寄せている)ので、続けて読んでも大丈夫。第2巻までのクライマックスから、第3巻はスイートな後日談でややダレたが、今巻は新章に入って新たな物語が展開されている。紙面全体の描き込みがべったりと重たいせいで、やや読みづらいが、美術面でもストーリー面でも十分な面白味があるので、引き続き買っていくつもり。
眼亀『ミズダコちゃん~』第5巻(29-35話)。プールにお祭と、夏のイベントが続く。異種族キャラクターの造形のユニークさと、そのディテールの掘り下げ、そして空間的なレイアウトを意欲的に使ったレイアウトなど、見どころは多いが、同時にサブキャラなどには、チープで品のないところもある。pixivのイラストを見ても、本格派のクリーチャー系趣味で奇想豊かな作品をいくつも描いておられ、創作的な根っこはそちら側にある方なのだろう。
上田悟司『現実主義勇者の王国再建記』第15巻(73-77話)。ドラゴン編を終えて、雪国編へ。政治的交渉の中で人間性の輝きや技術的卓越を見出していく軍師的な楽しみの作品だが、縦進行を大胆に取り入れた独創的なコマ割は健在だし、ディテールをハンドライトでザクザク描き込んでいく気持ちよさも、洋書で描かれる顔アップの魅力的なニュアンスも素晴らしい。
恵広史『ゴールデンマン』第9巻(67-74話)。向こうの世界の悪徳企業との大決戦。それぞれにキャラ立てが上手いうえに、ここまでの描写の蓄積もあり、そのうえで各キャラの志操信念に関わる決意やテクニカルな対処の旨味もたっぷり味わえる。なお、9月頃に最終巻(10+11巻)が発売されるとのこと。