2015/02/24

美少女描きのスキルと擬人化のテクニック

  こぶいち氏の怪獣擬人化イラストについての雑感。


  [ nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1502/23/news066.html ]
  [ www.youtube.com/watch?v=i1Gn8T0iSQc#t=221 ](※youtube広告注意)

  こぶいちイラストの切れ味は格別だな!(動画3:42-) まず第一に、ちゃんと美少女のイラストになっているのが良い。怪獣のイメージに引きずられていないし、美少女部分とコス部分が明確に分かれていていながらしかも元のデザインがはっきり分かるシルエットになっている。元々が人体を大きく逸脱していた奇矯な造形の怪獣を人間形態に転換するものとして、実に巧みな見せ方になっている。そのおかげもあって、元キャラの基本造形と質感をはっきり残した「擬人化」にもなっている。MS少女のような融合型デザイン(人体部分と機体部分を外見的にも機能的にも区分しない)もそれはそれで良いものだろうが、怪獣と人間の場合はただ単に混ぜると怪少女にしかならない虞があり(実際、これ以外のキャラクターたちを見れば瞭然だ)、その意味でこのベムスターのアプローチは、怪獣の擬人化として的確なものだと思う。

  そして、(第一の側面とも関連するが)明快な現実感覚が下敷きになっているのも良い。とりわけ、コスチューム部分のリアルな重みを感じさせてくれる、右手の仕草が素晴らしい。これは、もちろんイラストのポージングとしても愛嬌があって魅力的だというのもあるが、「重さ」を意識させることは巨大怪獣コスならではの着眼点だし、コス部分の存在をはっきり意識させるという点でも上手い見せ方だし、さらに、「この少女は何者なのか、何をしているのか、なぜ怪獣になっているのか」ということまでも意識させてくれるのも楽しい。また、あぐらで座っているのも、イラストとしてなかなかユニークだし、そのおかげで、萌えキャライラストにありがちな「キャラだけがなんだか分からないかたちで宙に浮いている」という不明瞭さと手を切っているのも、強みだろう。ちなみに、曲げた膝は描くのが難しいが、もちろんこぶいち氏はきれいに描いている。腹部の孔を、「なんだかよく分からない装着物」ではなく、ベルトデザインとして現実的に位置づけてみせたのも気が利いている。

  単なるふわふわした萌えキャラではなく、意志的で挑戦的な眼差しをこちらに向けてきているのも、怪獣らしくて良い。肩紐を外してみせる余裕すらある。人体部分そのものはおそろしくシンプルだというのも凄い。ゴテゴテした装飾は無いのに、全体として見れば立派な擬人化として成立しているし、キャラとしての魅力も存分に発揮されている。丸十年間も萌えキャラ描きの第一線に立ち続けているのは伊達ではない。

  なお、トップスにプリントされているガスタンクは、どうやら原作(でガスタンクを襲撃した)を踏まえたもののようだ。このように原作の文脈(作中シチュエーション)をイラスト内イラストという一見何気ないかたちで多層的に取り込んでいるものは、私に分かる範囲では、他のイラストには一切無かった(――原作そのままにロケットを抱えていたり、天敵グドンに噛み付かれていたりするものはあるが、いかにも説明的で添え物めいていて、イラストとして垢抜けない)。

  全体として、「怪獣の擬人化」というよりは「美少女と怪獣」といった趣のコンセプトで、たいへん可愛らしい。サイズ感も含めて、絵としてピントが合っている感じが素晴らしい。言うまでもなくこぶいち氏は凄いのだが、どこがどう凄いのかと聞かれたら、一例としてこのイラストを見せればそれだけで十分に理解してもらえるだろう。



  相方のむりりん氏も一枚描いており(メトロン星人)、原作のキャラデザをロックミュージシャン風ファッション(なのだろうか?)に落とし込んだ手腕はさすがだが、いささか大人しすぎ、生真面目すぎるかもしれない。美少女ゲーム関連だと娘太丸氏も2枚描いておられる(ガタノゾーア/キリエロイド)が、フード着脱デザインが可愛らしい。



  それにしても、全体的に見て、原作の迫力と魅力にイラストが全然追いつけていないのが残念ではある。そもそもイラストレーターの多くがそれほど有名ではないせいもあるが、原作の創造性とディテールと存在感、そしてフィルムからの切り取り方の巧みさが際立っている。物凄い名画、名場面が目白押しだものね……。