2015/02/02

既読判定について

  テキスト既読判定メカニズムについての雑感。


  既読テキストについて、文字色変化によって未読/既読を表すのはよくある手法だが、ソフトハウスキャラの場合は、テキストボックスに既読チェックマークが付いており、そこで判別できるという体裁になっている。テキストボックス右上に、デザイン化された小枠が設けられており、例えば『巣作り』ではドラゴンに握りしめられた珠が、未読では灰色、既読では緑色になる。同様に、『門を守るお仕事』では、テキストボックス枠右上に薔薇の花が付く。『雪鬼屋温泉記』では、同じ位置に灯籠があり、未読では暗いが既読だと灯りが点った形になる。同社がこの手法を初めて採用したのは――そして同時に、同社がそもそも既読判定機能を初めて実装したのは――『巣作りドラゴン』(2004)だが、それ以降、ほぼ一貫してこのアプローチが採られている(――ただし『忍流』には無かった)。
  この手法は他社作品ではほとんど見られない。有効な処方の一つだと思うのだが……。採用されていない理由を想像することはできる。このスタイルは、当然ながら、意匠化されたテキストボックス枠が存在する場合にのみ有効になるものだからだ。言い換えれば、近年支配的な、テキストボックス枠を極力廃した「薄い」インターフェイスデザインでは、うまく取り込むことが難しいからだ。それに対してSHC作品では、SLG作品らしく、かなりはっきりした装飾的な枠が用いられており、その中に既読マークも自然に溶け込んでいる、つまり、そのようにきちんと配慮されたうえでのデザインになっている。
  おそらく00年代末頃からだと思うが、AVG作品(とりわけ白箱系)の趨勢は、テキストボックスのデザインをできるだけシンプルなものにするようになっている。それは、「テキストボックス内は、単色(通常、グレー)で半透明の透過形式(さらに、しばしば透過度をコンフィグ変更できる)」、「テキストボックスの縁取りは無い(つまり枠を持たず、そのまま境界が接する)。あったとしても、ごく控えめである」、「主要なボタン群は、テキストボックスの右または右下に小さくまとめられる(大きく露出することは無く、またポップアップ等の処理も伴わない)」「ただし、話者を表示するフェイスウィンドウも(テキストボックス左側に)多用される」といった特徴をもつ。

  既読テキストの色変更は、グレーにする(明度を落とす)のが多数派だろう。吉里吉里系やe.go!などがこのタイプ。triangleは既読テキストを水色にする。例えば『こみっくパーティー』は黄色にしていた。巻き戻し式バックログの作品は、既読(巻き戻し)テキストを黄色にする傾向が強かったように思う。ちなみに、当然ながら、キャラクター別テキスト色指定とは、基本的に両立できない。

  個々の選択肢が、過去のプレイで選択済みかどうかを表示するものもある。これについては、テキスト色変更、枠(と地)の色変更、マーク追加など、対処は様々である。

  そもそもテキストの既読判定が導入されたのは、いつ頃だったろうか。本格的に普及したのは00年代に入ってからだと思うが、短期間で急速に浸透し、02-03年頃には既読判定が付いているのが普通という感覚になっていた筈。例えば『アトラク=ナクア』(1997)ではすでに実装されていた筈。それに先立つ『雫』『痕』(1996)にも、――「次の選択肢へ進む」コマンドとともに――たしか既読判別機能があったかと思う。おそらくこれが最も早い部類だろう。上記ソフトハウスキャラも、『巣作り』の前の『LEVEL JUSTICE』(2003)までは既読判定が無かったが、その時点で既読判定が無いのはすでに「明らかに標準から遅れている」という認識だった筈だ。読み物AVGとは違ってテキストが単線的限定的に進むわけではないSLG作品ゆえ、既読/未読イベントが斑模様に出没することになるので尚更だ。
  私自身は、当初は「既読/未読の認識をゲームシステム側に丸投げするなんて邪道だ、あくまでプレイヤー自身が自己の意識の中で識別すべきものだ」と考えていたが、さすがに今ではそのような見解は持っていない。意見が変わった理由は、「テキストの差分変化(とりわけ局所的な変化)を理解するうえで有用だ」「長大化したテキストに対して、システマティックな既読識別機能の必要性が増した」「あるいは逆に、分岐の少ない読み物AVGにおいてはもはや既読判定などどうでもいい」といったあたり。ゲームエンジンの多機能化は原則として歓迎すべきだが、ただし「余計なもの」「ゲームへの集中を阻害する、無くすことができるならば無くしてもよいようなもの」という認識も私の中には多少残っている。