【 頬の輪郭 】
ほとんど下ぶくれになりそうでぎりぎりなっていないくらいに頬の輪郭がふっくらしているぷにぷにキャラは大好きなので、『ハーヴェストオーバーレイ』は早めに(優先順位を上げて)プレイしたい。仄聞するところによるとAR演出も凝っているらしいし。Escu:deは、水鼠氏が描くキャラクターたちも、頬から顎にかれての輪郭がなめらかで美しい曲線を描いているし、光姫氏のイラストも、頬から顎先へのラインがきれいな放物線を描いている。片倉真二氏も、卵型の輪郭がたいへんよろしゅうございました(――『エーデルワイス』は、ちょっと絵が硬いし、部分的に顎が伸びすぎな絵もあったが、『キラ☆キラ』のバランスは素晴らしい)。珈琲貴族氏も、低年齢寄りのふっくらした頬を好んで描いている。この観点でいえば、とりわけ『MAID iN HEAVEN SuperS』のパッケージアートもかなり理想に近い。双龍氏の描く正面顔とかも。梱枝氏も、横髪で頬の輪郭を隠しているきらいはあるものの、垂れ頬がたいへん可愛らしい。特に『MC』では、頬の輪郭がわずかながら鉛直よりも外側に膨らんでいるのが見て取れる。後述するたまひよ氏も、とりわけ00年代半ば(『復讐の女神』『MERI+DIA』『えむぴぃ』)には、丸々とした顔立ちをしばしば描いていた。
あかざ氏も、『モノごころ』の頃には愛らしい丸顔の可能性を感じていたのだが、その後はわりと細身の輪郭に傾斜していった。もりたん氏も、頬ぷに表現は90年代風にはっきりしているが、全体としてはずいぶん硬い印象。葉賀ユイ氏は路理系だしなあ。べつに低年齢系である必要は無くて、いやむしろ、年齢表現とは無関係に画風そのものとしてふっくらしているのが良いのだ。最近の作品はプレイしていないが、やくり氏はどうなっているのだろうか。べっかんこう氏は、どうしたわけか、あまり好みではない。
全体として見ると、みつみ世代といい、山本氏といい、下顎部の輪郭が直線的で多角形に尖っているのが、美少女ゲームの支配的流儀としてずっと続いてきたということになりそうだ。丸顔は、女性らしい柔らかさを顔面造形において表象する有力な一手法だと考えているが、多数派的アプローチは、輪郭造形よりも、巨大な瞳に代表されるような個々のパーツの強調や、あるいは誇張的に頬先を尖らせることによる存在感の強調を優位に置いているということだろう。
というわけで、書きながらいろいろと振り返ってみると、『HOR』『高天』『Magical Charming!』あたりが、丸顎萌えのおすすめタイトルということになるだろうか。
『彼女は高天に祈らない』
(c)2011 Escu:de
先日の「インターフェイス」記事より再掲。水鼠の描くキャラクターは、1)胴周りに引き締まった立体感のある細身のプロポーションと、2)装飾はシンプルだが質感のはっきりした被服表現、そして3)堂々とした表情の中にも愛らしさのある顔立ちの取り合わせが、たいへん魅力的である。
『キラ☆キラ』 (c)2007 OVERDRIVE
片倉真二の描くキャラクターたちは、曲線の魅力に満ちている。 正面を向いた頭の輪郭は、このように頬から顎までまっすぐつながったつややかな曲線を成している。同様に、アダルトシーンの裸体表現に際しても、豊満な肉感的凹凸を弾力的な曲線と明瞭な陰影で描き出している。
【 鼻無しデザイン 】
ちなみに、鼻の無い絵も好き。つまり、鼻筋が、ほんの僅かな線としてすら描かれておらず、完全にぺったりしている絵。典型的なのが――というか、私の知るかぎり、美少女ゲームで唯一完全に当てはまっているのが――、たまひよ氏。『えむぴぃ』(こよみん)でも『すてぃ~るMyはぁと』(ロロット)でも、とぼけた可愛さのある鼻無し造形のキャラをまさにみる氏が演じていたというのは、偶然の符合ばかりではないだろう。みる氏は『MERI+DIA』でも低身長キャラ「鳳美鳳」さんを演じていたが、こちらは知的なツンデレキャラなので、鼻無し表現は採用されていない。
鼻筋表現の縮小については、漫画史に関する四方田『漫画原論』(151-9頁)がある。それによれば、少年漫画では、80年代には日常ミニマリズムの浸透とともに鼻筋表現がほとんど消滅していたとされる(――例として江口寿史、桂正和、遊人が挙げられている)。アニメや(美少女)ゲームが辿った歴史は、流行も外的環境も主要アクターも支配的美意識もそれとは異なるであろうが、遅くとも90年代には、鼻筋縮小の美意識変化を広汎に蒙っていた筈だ。
『復讐の女神』 (c)2003 ぱれっと
たまひよは、2001年の『Sacrifice』以来、鼻筋不在のキャラクターや頬の斜線「///」を度々描いてきた。本作でも荻原姉妹は鼻が描かれないか、あるいは輪郭線不在の影のみで鼻の存在が示唆される。それ以外のキャラクターも、曲線的な顔立ち、眉間の空いた両目(俗にいうヒラメ顔)と、極端に下に位置する鼻及び口という特徴がある。
『えむぴぃ』 (c)2007 ぱれっと
左端のキャラクター「琴瀬こよみ」は、鼻筋が一切描かれていない。90年代以降、イラスト各分野で鼻梁表現が極小化しており、現在ではわずかな痕跡器官のような点と影が描かれるのみであるが、完全に消滅させているのは珍しい。鼻の無いキャラクターは、いささか間の抜けた、しかしたいへん愛嬌のある顔立ちになる。
『すてぃ~るMyはぁと』 (c)2010 ぱれっと
高い鼻梁がしばしば「社会的成熟」あるいは「プライド」「孤高」の表象として扱われるのと同様に、それと対照的に、鼻筋の欠如は「幼児的性格」「いたずら好き」「融和的関係」のコードとして認識されるであろう。暢気に緩んだ口元も、その印象を強めている。頬の不規則な斜線も、いささか古めの漫画的表現であるが、このキャラクターの享楽的雰囲気を示唆している。
(2015/02/16)
先日の頭部輪郭の話。美少女ゲームのヒロインたちは、どうしてあんなにも顎(オトガイ)が尖っているのか。あるいは、美少女ゲームに限らず、アニメや漫画でデフォルメされた顔面がどうしてこのようになっているのか。よく分からない。丸くすると、太っているように見える(それはネガティブな要素と受け止められやすい)からだろうか、あるいはオールドファッションな漫画のように見えてしまうからだろうか。リアルな輪郭にすると、時として角張っているように見えてしまう(のを怖れている)からだろうか。あるいはもしかしたらもっと消極的に、そもそも――鼻描写の縮小と同様に――顎を描くことが忌避されており、ただ単に「両頬の描線を延長して接したその終端」が描かれているに過ぎないということなのだろうか。技術的には、たとえば横広の頭部骨格と非写実的な口部表現を所与として、口の開閉差分変化に矛盾なく対応するために、下顎の存在が意識されないようになった、といった事情でもあるのだろうか。ホームベース型の描き方が、簡便なデフォルメ作法として画一的に普及してしまったせいだろうか。もしかしたら――とりわけ美少女ゲームに関してはこの可能性は低いと思うが――積極的な理由として、細く尖った顎先を上品だと(あるいは、美しいと)見做す感性の所産なのだろうか。
『終末の過ごし方』の小池氏などは、顎の輪郭を形取る描線にも繊細な丸みがつけられていた。他方、最も極端な尖り顎表現の例としては『DARCROWS』が挙げられる。00年代前半頃の山本氏もかなり極端な長顎を描かれていたが、ただしあれはあれでスタイリッシュな美意識の現れと感じられたものだった。90年代末のみつみ氏や一時期のおにぎりくん氏も、口元をかなり上に置いて下顎を大きく描いたことを考えると、時代的な傾向でもあったのかもしれないが。
『がくパラ!!』 (c)2003 studio e.go!
頬肉の頂点はかなり高い位置に描かれ、それに合わせて――合わせるのがイラストの通例である――鼻と口も高い位置に置かれている。そしてオトガイへつながる輪郭は、大胆にも長大な直線で構成されている。この時期の山本和枝の原画に特徴的な、張りつめた美を湛えた斜め顔の造形である。