2015/02/16

『悪魔娘の看板料理』体験版感想など

  『悪魔娘』体験版の雑多な感想。あとで正式な記事に統合するが。


  システムは、『ブラウン通り』流の経営SLG。料理メニュー開発は『南国ドミニオン』、冒険者依頼も『ブラウン通り』だが、『忍流』にも近い。仕入れルートの継続的確保も、いかにも『忍流』っぽい。周辺の店舗展開は、一見すると『グリンスヴァール』のようだが、機能上はそうではない。

  難点としては、冒険者依頼のシステムが扱いづらいのと、料理メニューの一覧性が欠けていること、それからスキップが遅い(切り替えに時間が掛かる)こと。短期目標を達成/失敗した場合の効果も、体験版では分からなかった。

  行商人の持ち込みは、7割ほどは黒字になるようだし、上手くすれば2.5倍の売上げ(つまり差し引きして1.5倍の儲け)になることもある。よほど資金に余裕が無い状況でないかぎり、受けておいて良さそうだ。

  メニューは10種類並べるところまで行けた。最終的には3*4+6で18種類まで行けるのだろうか。



  クムさんが可愛い。マウさんもそうだが、一つの仕事に関してプロフェッショナルであるキャラクターを魅力的に描いている。アルテのしたたかさには、マーチェリッカを思い出した。アルテ役の芹園氏は、「思考や感情の原理が、どこか人間と違う」というズレをうまく掬い取っている、良いキャスティングだと思う。それにしても、クムさんといいアルテといい、今作は「素肌の肩口萌え」を植え付けられそうだ。全身甲冑のアイアンさんは一条光氏。街長のキンウルさんはおそらく蝦押丈氏。インターフェイス音声(例えば「メニューを開きます」や「仕入れルートの確認ができます」)にも大波氏らしき声が聞こえるのだが……こんな兼ね役の仕方もあるのか。
  プロローグからの見通しのはっきりした書きぶりといい、ベッドシーンの慎重な筆致といい、内藤氏の筆の冴えはここ数作の中でも抜群のものになっているようだ。大いに期待できる。

  ドットキャラアニメも絶品。おそらくいつものTOM氏の仕事。

  大量のアイテムにいちいちコメントが付いているのが面白い。これも00年代半ばのSHCファンには懐かしいだろう(『ブラウン通り』『南国ドミニオン』)。

  バトルシーンの描写が冷静すぎるのは、内藤氏の癖だろうか。『巣作り』の時も、プロローグのユメとの戦闘をスキップしてしまった(行殺?)のを思い出す。

  メイン画面を歩き回っているキャラたちをクリックすると、様々な台詞を喋る。ヒロインの頭にハートマークが浮いているのは、直前に会話実行したキャラだろうか? 好感度最大キャラというわけではなさそうだが。

  旧作との関連。
  ギン(シルバー)という名前は、『ブラウン通り』の「銀」を連想させていかにも怪しい。ガーランドかロバートのどちらかなのではないだろうか。ガーランドならば、(元)王族――というか王族の姫と結婚した――という設定と辻褄が合う。(後日追記:ハズレでした)
  体術と魔法の複合技「ソニックブロー」は『Wizard's Climber』以来。特殊な職能結社「魔法使い協会」があるのも同じく。医学面でも魔法治療が支配的で、薬学や科学的医療がほとんど発達していないというのが面白い。少なくとも重大な傷病に際しては、魔法治療がデフォルトになっている世界のようだ。
  ゴールドアイ商会は、『ブラウン通り』のジャックの実家。 街毎にギルド(商人組合)があるのも『ブラウン通り』以来。
  『BB』シリーズ。トライリース王国の「魔王の森」は、コゼロットが次代の魔王に就任しているようだ。 トージョにも言及されている。建物再建CGの魔族たちも、『BB』シリーズに登場していた。
  モブ来店者。赤いドレスの金髪キャラは、リュミスを連想させた。同様にヴィオラのように見えなくもない来店者もいる。たぶん偶然の類似だと思うが。
  ギュンギュスカー商会は『巣作り』以来。
  「ベトの煮こごり」という料理が出来た。
  その他、大量の固有名詞があるが、記憶のかぎりでは旧作との関連は無い。

  建物の外観はなにやらチューダー様式。
  看板も微妙に英語交じり(――「Open」の文字が判読できる)。



  物分かりの良い妻を得て、各自専門分野でブリリアントな才能を発揮する(しかも可愛い)スタッフたちを集めて、周囲からは実力に見合った敬意(あるいは畏怖)を受けて、きちんと利益を上げながら社会貢献もする……なんという露骨な(男性的)ドリーム。物語の序盤で、障害となる要因があらかじめほぼ排除されているというのも、いささか好都合すぎるようにも感じる(――ただし、借財があるらしいことは示唆されているが)。とはいえ実際には、それが一方的な物語として提示されるのではなく、SLGという体裁を取ることによって、そのえぐみは意外なほど薄れているのだが。「ゲーム」という形式の、つまり相互作用的(参加的)で非決定的な構造を持つ世界であることの、不思議な特長だ。

  体験版ばかりやりこんでも仕方ないので程々にしておくが。製品版では、料理開発が攻略記事のポイントになるだろうか。物量任せの総当たりなので、今回は総合wikiにお任せしよう。『南国ドミニオン』(2005)の頃は、web上の誰も開発メニュー攻略をしてくれなかったので、独力で虱潰しに調べていくしかなかったのだが、今はもうそうんな寂しい時代ではないのだ。

  今作は、ヒロインたちの魅力もはっきり伝わってくる。一つの組織の中での明確な社会的位置づけを伴っていると、内藤氏にはキャラクターの定位がしやすく、描きやすいようだ。『BB』シリーズ(とりわけ二作目以降)や『雪鬼屋』では、その状況からしても、またSLGパートの自由度との兼ね合いからしても、キャラクターたちはどうしても「(主人公)の部下たち」と一括りにされてしまっていたし、『OV』ではライバルたち(メイド、シノビ、エリュトロン)の位置づけが似通ってしまっていたのだが、今作は職能に応じた明確な分業体制が出来るように作られている。

  ただし、設定上では、『門』や『雪鬼屋』にも分業の観念はあった筈なのだが。『雪鬼屋』の問題は、周回とそれに応じたキャラクター登場制限がキャラクター表現を歪にしていたように思う。『門』に関しては……設定上では「交渉」「経理」「発明」「遊撃」「世論反映」などの分業があった筈なのだが、それらを適切に反映するシステムが存在せず、「戦闘」(迎撃SLG)と「政治」(カードゲーム)の二つだけが、主人公(PC)が一手に引き受けて処理するという形になってしまったのが問題だったのだろう。その結果、『門』はSHCの中でも異様に「キャラが薄い」作品になった(――部下のヒロインたちよりも、むしろサブヒロインたちの方が、ゲームシステムとして攻略し甲斐があり、ストーリーとしてもドラマティックだった)。また、ゲームパートでも、ミルカッセたちが毎週律儀に同じ落とし穴に嵌まるという現象に説得力が与えられなかったと思う。

  例の各国兵器ネタに絡めて言うなら、個人的には、『門』は残念ながら「何がしたかったのかはわかるが、やりかったことというのはその程度なのか?」という作品だ。広範な政治的関係をシステムに取り込もうとしたのは分かるが、あまりにもその射程が短かった。『雪鬼屋』は「何がしたかったのかはわかるが、どうしてこうなったのかはわからない」という感じ。巨大なメカニズムを一つの(表面上は)シンプルなシステムにまとめあげるマクロ経営SLGとしてあのような体裁になったのはというのは、分からなくもないが、しかし釈然としないところもある。『忍流』は、「どうしてそうなるのかはわかるが、そうするしかないものなのだろうか?」のタイプだろうか。人材管理ゲームとして組み立てられているのは分かるが、システムに一味足りなかった。『DAISOUNAN』は、まさに「どうしてこうなったのかはわかるが、何がしたかったのかはわからない」。遭難生活SLGになっているのは分かるが、脱出を強く動機づけられていたわけでもなく、『南国』のように生活のなりゆきを楽しめるような多様性も無く、プレイヤーが何を目指したらいいのかが結局分からなかった。もちろん、作品全体としてはどれも好きだが、システム面では難のあるものもあった。



  クムさん良いわあー。赤目のツリ目で、獣耳キャラで尻尾ふさふさで、スレンダーで(一枚絵はそうでもない?)、ちょっとぶっきらぼう口調で、八重歯ありで、微妙に褐色肌で、中東系ファッションで、肩口がセクシーで、性格もしごく素直で、嘘偽りがなく率直で、物怖じせず、廉恥と礼節も弁えていて、慢心がなく、他人の「心」をきちんと尊重していて、普段からご機嫌で、物事の割り切りがはっきりしていて、善悪の判断も公正で、頭の回転もわりと速くて、自分が置かれた状況の把握も的確で、食欲も健康的で、きれい好きで、細かいことにも気が利いて、それなりに冗談を解する余裕もあって、寛大で、仕事には意欲的でプロフェッショナリズムがあって(料理は超一流とのことだ)美意識もあって(「料理が曇るのが気に入らなくてな」)料理への愛もあって、ルールの扱いも公明正大で、しかも萌花ちょこヴォイスで……って、大当たり大人気キャラになるが約束されてるようなものじゃないですかー!
  この短い体験版のごく少ないイベント群の中で、これだけ多岐に亘る特徴を、しかも一つのキャラクターとしてのアイデンティティをきっちり示しながら、説明的にもならず嫌味にもならずに生き生きと描写している内藤氏の腕は、やはりさすがだ。

  「クウガー族」は、おそらくクーガー(※ピューマのこと)+タイガー。「クーガー」のままにならないように、あえて「ク"ウ"ガー」にしたものと思われる。ピューマは精悍で攻撃的な外見だが、クムさんはわりと温和そうな感じ。



  『悪魔娘』デモムービー。BGMのおかげもあるが、後半のゲーム紹介パートがなにやらものすごく幸せそうな雰囲気だ。ヒロインたちも満面の笑顔だし。OPムービー部分は、なんとなく「おまけムービー」っぽい。
  ゲームデータとしては、「牛肉鍋」の11Bに驚いた。「魔物の森」は、いかにも本作ならではだろう。『ブラウン通り』のように、季節イベントがたくさんあるといいな。デモを見るかぎりでは、料理のメニューは、1+(2*4)+7=16種まで提供できるようになる模様。余白があるので、もっと増やせるのかもしれないが。うまくすると毎週1万Bほどの収益を上げられるようになったりする模様。

  『ブラウン通り』からの変化――あるいはここでは明確に進歩と呼んでもいいだろう――は、取引先開拓(仕入先開拓)から新レシピ開発(料理開発)、そして販売戦略(投資)と人材運用(週コマンドと冒険者依頼)に至るまで、一つの店が関わる経済活動の全体を扱う包括的なSLGになったことにある。表面上は『ブラウン通り』そのままのモティーフを取り上げてはいるが、しかしそのコンセプト――すなわちシミュレーションとしての可能なかぎりの包括性――は、『南国ドミニオン』に近いと言うことができるかもしれない。いずれにせよ、以前に夢見ていた「ソフトハウスキャラによる『宇宙船サジタリウス』」、「ソフトハウスキャラによる『狼と香辛料』」のようなものとは随分異なりつつも、そういう安直な形で妄想されていた夢の核心部分にあった願いが今回の作品で十二分に果たされそうだという期待感がある。


  ミフリーさん、立ち絵も真正面を向いていて、真面目な人なのかなと思っていたが、公式サイトで立ち絵全身画像を見たら、ちょっと腰を傾けて左足を斜めに出していた。ああ、なんだ、わりと洒落の分かる、楽しそうなキャラなんだなと思った。風格のある年長者(っぽい)キャラだけど案外愛嬌のあるところも見せてくれるというのは、最近のSHCの大波こなみキャスティングの常道に沿っている(――フォーゼロッテとか、『門』のミルカッセとか、『忍流』の春香さんとか)。『DAISOUNAN』(日和)の頃までは、セリス、リンテール、リズィ、アーティといった小さめのキャラに配役されることが多かったのだが。

  最初の出会いが戦い(殺し合い)で、ぎりぎりのところで首に噛み付かれた(ぎりぎりのところで胸を掴まれた)のがきっかけでご縁が出来たというのは、もしかしてアルテさん、母親(あるいは父親)から夫婦の馴れ初め話を聞いていたのだろうか。あの外見(角のデザイン、髪と瞳の色)と魔力吸収体質からしてまず間違いなくフォーゼロッテの娘なのだが、しかし天界人姉妹(ミアルテ、ルーアルテ)を連想させる名前なのがちょっと不思議。

  アイアン君が冒険者として大成して、「偉大な(グランディ)」アイアンと呼ばれるようになり、そして彼は鎧兜に頼ることをやめて……なんてことにはならないでしょうね、まさか。瞳の色も骨格も全然違っているので、そんなことにはならないと思うけど。『ブラウン通り』のキャラクターたちと比べると、人間関係や属性の配分は、今のところ、

 超一流の冒険者だった主人公
 元冒険者として一部から高い声望がある
 名前はゴールドアイ
 魔法使いだった主人公
 過激な行動で怖れられるようになった
 名前はギン(シルバー)
 経営を知らなかった、嫉妬する妻
 明確なトップヒロイン
 CV: 大波こなみ
 経営上手な、嫉妬しない妻
 明確なメインヒロイン
 ライバル商店の女主人(執事付き)
 主人公たちより先に商売していた
 メインヒロインの知り合い(親友)
 CV: 羽賀ゆい
 ライバル店(取引先)の女主人(執事付き)
 主人公たちの後からやって来た
 メインヒロインの知り合い(部下の娘)
 CV: 青山ゆかり
 義理堅く有能な旧知の冒険者(男)
 主人公に懐いている
 名前はグランディ・アイアン
 忠良でそれなりに有能そうな冒険者(男)
 主人公を慕っている
 名前はアイアン
 駆け出しのソロ冒険者(女)
 小柄で頑張り屋なウェイトレス
 実力派のソロ冒険者(女)
 小柄で頑張り屋な店員(精霊)
 相談役になる、旧知の歌姫
 魔法使いとしても超一流
 自由人な年上キャラ
 相談役になりそうな医者
 魔法治療の代わりに科学的医療を行う
 苦労人な年上(?)キャラ
 CV: 大波こなみ
 陽気なモブ冒険者(獣人) 陽気な超一流コック(獣人)

といった様子。ラネットがキィ&マウに再編されて、クムとライゼが追加されたという感じだろうか。『ブラウン通り』はかなり小規模のタイトルだったので、10年代水準に作品規模が拡大された本作でキャラクターが大幅増加したのは自然なことだろう。また、料理人ヒロインが(準メインヒロインらしき存在感で)新規登場したのは、今作の「料理」コンセプトに合わせたものだろう。