2016/07/06

アダルトゲームのCGワーク(5)

  アダルトゲームで用いられる、様々なスタイルの画像について(5ページ目)。

はじめに(1ページ目
第1章:アダルトゲームCGの基本的特徴とその構造的事情
第2章:修辞としての特殊なCG表現(2ページ目3ページ目
第3章:構造的な事情に基づく画風変化(4ページ目
  1. SLGパートとAVGパート
  2. 原画のシステマティックな分担このページ
  - 1)キャラクターの位置付けに対応した原画分担
  - 2) シナリオ分担に対応した原画分担
  - 3) シナリオ構造を反映した原画分担
  - 4) その他の特殊な構造的原画分担
  3. OPムービー
第4章:個別作品の総体的な画風選択(6ページ目7ページ目8ページ目
おわりに


  【 2. 原画のシステマティックな分担 】

  前節では、ゲームパートとAVGパートを持つ作品が、二つのフェイズでそれぞれ異なったスタイルの表現(とりわけキャラクター表現)の機会を持っていることを概観した。ここでは、ゲームパートという構成要素が、多面的/多層的な表現機会をももたらしている。それ以外にも、一つのゲーム作品が質的に異なった複数の要素を持つことがあり、そしその相違が視覚的造形にも反映されている場合がある。本節では、その典型例の一つとして、複数の原画担当者の機能的分担について、いくつかのタイプを紹介していく。

  ゲームキャラクターの絵は、CG着彩によっても大きく変化するが、アダルトゲーム分野ではとりわけ原画家の個性をベースとして認識され言及され評価される。個別作品のキャラクター原画は、一人の原画スタッフが専属的に引き受ける場合もあるが、複数のスタッフが原画作業を分担することも多い。

  原画分担はどのような場合にどのくらいの頻度で行われているか。さしあたりErogamescapeのデータを参照して、2016年上半期と、直近5年間の各1月について、単独原画であるか複数原画かを調べてみると、以下のようになっている。Erogamescapeはあくまで有志による私設サイトであり、情報の正確性は保障されないが、そこから抽出される全体的傾向はおおむね実態を反映していると考えられる。

  【 表1: 2016年各月の発売タイトルの原画 】
発売月タイトル総数フルプラ単独フルプラ複数ロープラ単独ロープラ複数単独原画率(全体)単独原画率(フルプラ)
2016年1月234316087.057.1
2016年2月265912065.435.7
2016年3月3810820078.955.6
2016年4月3471017070.641.2
2016年5月408916760.047.1
2016年6月286316378.666.7
1894042971072.548.8

  【 表2: 各年1月の発売タイトルの原画 】
発売月タイトル総数フルプラ単独フルプラ複数ロープラ単独ロープラ複数単独原画率(全体)単独原画率(フルプラ)
2012年1月299415182.869.2
2013年1月288414278.666.7
2014年1月308516180.061.5
2015年1月308417183.366.7
2016年1月234318087.057.1
140372078582.164.9

※PC商業18禁新作のみをカウントした。ソーシャルや家庭用、同人、非18禁、リメイク、再版タイトルは除外している。「フルプライス」はパッケージ版税抜7000円以上、「ロープライス」は7000円未満。単独原画か複数原画かの判断に際しては、キャラクター原画のみに限定し、SD原画や背景原画は除外している。また、原画不明のものも除外している。

  単独原画は全体の7~8割を占めるようである。ただし、ロープライス(特に3000円以下の低価格=小規模タイトル)はほぼ全てのタイトルが単独原画であるのに対して、フルプライス級タイトルでは5~6割にまで落ち込む。言い換えれば、フルプライス帯では4~5割のタイトルが複数原画で制作している。なお、上記のデータを見ると今年に入ってから単独原画比率が低下しているように見えるが、事情は不明。

  複数原画は、白箱系(学園恋愛もの)、黒箱系(ダーク系)、ピンク系(非蹂躙的な性描写重視タイトル)のいずれでも採用されており、上述の価格要因以外では特別な偏りは見られない。複数原画を採用するのは、後述の諸目的以外にも、大規模作品で大量のCGを投入するため、複数の原画家の知名度を活用するため、社内に複数の原画スタッフがいるため、同時平行作業で制作期間を短縮するため、リスク分散のため、メイン原画に苦手な分野(例えば男性キャラやモンスターの原画)があるため、追加要素に際しての別原画、等々、ブランド毎/タイトル毎に様々な事情があるだろう。原画同士の画風の違いに関しても、それぞれの個性をはっきり表出しているタイトルもあれば、逆にほとんど見分けがつかないほど似通った画風にしているブランドもある。逆に単独原画で制作する場合も、美的統一感を実現するため、不必要な分散を避けるため(連絡密度確保)、コンセプトに沿った絵を描ける人材が他にいないため、等々、様々な考慮があると思われる。作品毎の個別事情とともに、ブランド毎の基本方針もあるだろう。ただ一人の看板原画を擁して一作品ずつ慎重に制作しているブランドもあれば(例えばでぼの巣製作所[山本和枝]Littlewitch[大槍葦人]Q-X[亜方逸樹]Innocent Grey[杉菜水姫])、複数原画制作が常態化しているブランドもあり(例:Purple software、HOOKSOFT、ゆずソフト、dualtail)、複数人の原画家を一作品ずつ交互にメイン起用しているブランドもある(例:ソフトハウスキャラ、ぱれっと、light、キャラメルBOX)。

  現代の商業アダルトゲーム制作では、原画と着彩の分業が確立されており、複数原画でも着彩レベルでの統一が図られるため、極端に不自然な状況になることはほとんど無い。ユーザーサイドでも、よほどミスマッチな複数原画の場合以外では、単独原画/複数原画に対する特別な選好は無いようである。

  複数原画制で制作する場合でも、作業分担の仕方は一様ではない。キャラクター単位で縦割り分配するのが最も一般的であるが、全員集合したイベントCGなどでは共同作業になることもある。メイン原画に対して「原画補助」が付く場合もある(例:AUGUST)。珍しい例では、キャラクター基軸の分担はせず、複数人のスタッフが大量のイベントCGを分担制作していく場合もあるようだ。また、先頃発売された『手垢塗れの天使』では、立ち絵担当(秋空もみぢ)と一枚絵担当(砂丘太)という分業も行われている。


  1) キャラクターの位置づけに対応した原画分担
  原画分担は、基本的にはキャラクター単位で分配される。2~3人程度の原画家が、ヒロインを数人ずつ担当するというタイプが多い。それ以外にも、サブキャラ担当、敵キャラ担当、男性キャラ担当、モンスターデザイン担当、メカデザイン担当など、いわゆる「サブ原画」が付く場合もある。

  サブ原画の意味づけや分担理由も様々である。α)サブキャラ(サブヒロイン)は、主人公に対する関係による位置づけの相違(つまり主人公と結ばれるかどうか)、あるいは脚本上の位置づけの相違(つまり専用のシナリオを持つかどうか)である。プレイヤーにとってみれば、ヒロインとサブキャラとが異なった画風で描かれていれば、それによって登場人物各々の位置づけを理解することができるだろう。とりわけ白箱系においては、ヒロインはその作品をプレイする最大の目的であり、それゆえ、「このキャラクターがヒロインであるかどうか」「ヒロインに相応しい魅力を(視覚的にも)備えているか」は決定的に重要である。商業的に見れば、サブキャラはしばしば作中の登場機会が少なく、広報上の露出機会も乏しく、ユーザーの購入判断にも影響しにくいため、裁量の余地が大きい。腕の良い社内グラフィッカーがサブキャラ原画を担当するという場合も多いようだ。β)敵キャラも、脚本上の位置づけに対応した原画分担である。

 γ)男性キャラクターは、第一義的には、登場人物の生物学的属性の相違であるが、私見ではその点を視覚的に反映することはそれほど重要ではない。基本的には、見れば分かるからだ。美少女ゲーム分野では、若年女性キャラクターを描くスタイルは徹底的に追求されてきているが、男性や幼年、老年のキャラクターを適切に描くノウハウはあまり開拓されておらず、それらを描いた経験に乏しい原画家もいる。それゆえ、能力面から、あるいは制作効率(確実性)の考慮から、それらのキャラクターの絵はサブ原画に任せるという判断もあり得るだろう。

  同様のことは、δ)モンスターデザインに、より強く当てはまる。架空のクリーチャーをデザインするのは、人間キャラクターを描く能力とはまったく別種の、高度に専門的なスキルが求められるし、クリーチャー画像の出来映えが作品の印象を大きく左右する場合も少なくない。実際、単なる「サブ原画」という一般的な肩書ではなく、「モンスターデザイン」としてはっきりクレジットされる例は多い。例えば『AYAKASHI』(CROSSNET/ApRicoT、2005)で鳥取砂丘が、サトリ、八咫烏、カマイタチなど20種類ほどのアヤカシ(妖怪)を制作している。同様に『九十九の奏』(SkyFish、2012)では、満月○が、白蛇精、仁木弾正、呑龍など九十九神12体のデザインを一手に引き受けている。モンスターデザインに関しては、とりわけalicesoftの織音が著名であろう。ε)メカデザインや武器デザインも、個別にクレジットされることがある(『BALDR』シリーズや『マブラヴ』シリーズなど)。

  例えばぱれっと『えむぴぃ』(2007)では、4人のヒロインの原画をたまひよが担当し、中盤以降の各シナリオで登場してくる準主役級キャラクターたちは橘すりむ(チーフグラフィッカー)らが担当している。また、同ブランドの『ましろ色シンフォニー』(2009)では、ヒロインら主要キャラクターを和泉つばすが担当しつつ、今度はたまひよが男性キャラなどを担当している。

  SLG作品は、しばしば幅広い社会関係や多層的な人間関係を描写することになり、また作品規模も大きくなりがちであるため、系統立った原画分担が行われやすい。例えば『雪鬼屋温泉記』(ソフトハウスキャラ、2011)では、固有シナリオのあるヒロインズや主要キャラクターたちはメイン原画佐々木珠流が制作しているが、一部のサブキャラ(妖怪宿泊客など)や作中作キャラクターについてはかごのとりが原画担当している。また、同じブランドの『その古城に勇者砲あり!』(2015)では、主要キャラクターの原画は紅村かるが担当し、一部のサブヒロインはアラタ、敵対勢力の「コロナ」「ラクリマ」はたかとうすずのすけ、女性型モンスターたちは皇征介が原画担当している。

  興味深い例を挙げよう。2003年にMBS Truthブランドから発売された『DOOP ADVANCE』は、1997年発売の『DOOP』のリメイク作品であり、新規シナリオが追加されている。97年版の葉沢武梓原画のCGに加えて、03年版の新規キャラクター「海音」の絵は望月望が担当している。葉沢原画は肉感的でダイナミックな絵を描いているが、髪型や表情の描きぶりは二次元的なデフォルメを取り込んで、愛嬌のある絵になっていた。それに対して望月原画は、繊細かつ入念に女体の曲線美を表現し、またキャラクターの顔面表情もしばしば攻撃的な雰囲気を漂わせて、迫力と存在感のある新規キャラクターに仕上げた。この「海音」の追加シナリオは、作中事件の真相に新たな光を当てる特別なストーリーであるが、それと同時に、その物語を導くキャラクターの絵も、他のシナリオに登場するキャラクターとは異質な、特別な雰囲気を持っていた。そのため、まるで「海音」が真ヒロインとして原画時点であらかじめ聖別されているかのように感じられたものだった。この視覚効果は、リメイクによる新規シナリオ追加という偶然の後発的事情によって成立したものであり、このような効果を制作者がどこまで意図したのかは分からないが、プレイヤーにとってはきわめてユニークで印象深い体験になった。

『DOOP ADVANCE』
(c)2003 MBS Truth
(図1:)1997年版『DOOP』から、システム、CG、シナリオの大幅な刷新が行われているとのこと。葉沢武梓の絵は、多角形的な両目の輪郭や頬から顎に掛けての造形に90年代風のデフォルメが現れており、前髪の描き方も記号的だが、若々しく表情豊かなキャラクター表現になっている。
(図2:)本作の立ち絵は、胸上のアップと腰上までのタイプの2種類が併用されている。望月望による追加キャラクターの絵は、チャイナドレス風のノースリーブファッションに、繊細で柔らかな頭髪表現、小さく引き締まった両目、イヤリング/髪留め/カラーマスカラといった装飾性など、フェミニンな諸要素が、海底研究基地との間にミステリアスな対比を生んでいる。


  2) シナリオ分担に対応した原画分担
  大抵のフルプライス作品では、3人から6人程度のヒロインが登場するが、これらは複数の原画家に分担制作されることがある。つまり、原画家一人がそれぞれ一人乃至数人のキャラクターを専属で担当し、外見や性格を入念にデザインされたうえで、立ち絵(ポーズ差分、服装差分、表情差分などを含む)と、一作品あたり総数90枚程度の全画面イベントCG(一枚絵)を制作する。

  ヒロインたちは、原則として相互対等の存在である。白箱系(恋愛系)においては、プレイヤーが自身の好みでヒロインを選べるようにしているが、その選択が正当化されるためにはヒロインたちの間に優/劣や主/従の位置関係は好ましくないからである。また、黒箱系(ダーク系)においても、あらゆるヒロインは等しく主人公(プレイヤー)の性的欲望の対象になる。したがって、ヒロイン間の原画分担が脚本上、構成上の特別な意味を担うことは少ない。

  ところで、とりわけ白箱系においては、その性質上、ヒロインを選択することは、まさにそのヒロインとの間に恋愛関係を形成して幸せな結末を迎えるプロセスを選び取ること、すなわち脚本の選択と、事実上同義である。このことから、原画家による画風の違いが、分岐するシナリオそれぞれのムードの違いと対応する、あるいは、ムードの違いを視覚的にも表現するという機能を持つ場合がある。ヒロインAとのシナリオに分岐していけば、当然ながらそのヒロインAが主役となって画面内の登場時間が飛躍的に増え、それによって、画面の雰囲気は、ヒロインAを担当した原画家Xの画風に染まっていくであろう。その一方で、ヒロインBのシナリオに入っていけば、それを担当した原画家Yの画面占有率が大きく高まるだろう。ユーザーはこのような割合的な画風の傾斜を、物語の変化と併せて享受することになる。

  さらに興味深い変化が生じることもある。アダルトゲームにおいては、脚本もまた、単独のシナリオライターによって書き上げられるとは限らず、むしろしばしば複数のライターによって分担執筆される。現代のフルプライス級AVGでは、総テキスト量は2MB(100万字)以上になるとも言われており、これを一人の脚本家が10ヶ月かそこらで書ききるのは難しく、したがって複数の脚本家による共同制作が支配的になっている。そして、原画作業がヒロイン単位に分担されるのと同様に、脚本作業もしばしばヒロイン単位(=シナリオ単位)で分担される。このような複数原画&複数脚本の体制下で、原画と脚本が一対一でコンビになる場合がある。現代の白箱系アダルトゲームシーンを直接基礎づけた『To Heart』(Leaf、1997)がまさにそうであった。すなわち、水無月徹(原画)と高橋龍也(脚本)が「神岸あかり」「来栖川芹香」「保科智子」「HMX-12 マルチ」などのキャラクターを担当し、ら~・YOU(原画)と青紫(脚本)が「長岡志保」「宮内レミィ」「姫川琴音」などを担当した。原画の担当範囲と脚本の担当範囲が結びつくことによって、一作品の中に、複数のはっきりした色合いの違いが生まれる。そして、趣の異なる複数のラインは、ユーザーサイドでは、いわばコンビ毎の競作のように受け止められるかもしれない。この現象を、本稿の趣旨に立ち戻って評価するならば、以下のように述べることもできるだろう。すなわち、ここでは、複数の原画家の個性の違いが単なる偶然的な違いに終わらず、それぞれ特定の脚本の個性と結びつくことによって、物語の違いを視覚的にも体現するという特別な意味を持つようになる、と言えるだろう。

  もう一つ、例を挙げておこう。『朝凪のアクアノーツ』(Fizz、2008)では、闇野ケンジ(原画)と雪村戌(脚本)のコンビが「朝凪深緒」「小鳥遊美幸」を担当している。メインヒロイン「朝凪深緒」は人魚伝説にまつわる物語であり、人魚の魔法や海底王国といった美しくロマンティックな要素が行き来する華やかな脚本である。そして、シナリオの雰囲気に合わせるかのように、原画家闇野は、丸々とした曲線美を強調したプロポーションで、朗らかで裏表のない素朴なヒロインの笑顔を描いている。その一方、水月悠(原画)と小野楽園(脚本)が担当するヒロインは「白玉かなか」「慧本友里子」である。「白玉かなか」は、人魚の肉を口にしたと噂される特異体質のヒロインであり、夏場でも和服に和傘という場違いないでたちで街中を闊歩している。このシナリオは、物語後半では、過去の悲劇的な出来事や、ヒロインの喪失、さらには夢現定かならぬ幻想的な描写を展開していく。また、「慧本友里子」は、主人公の実姉であるため、インセストタブーに直面することになり、これまた陰影のあるシナリオが展開される。ライター小野は、日常シーンでも刺激の強いブラックジョークを多分に含んだコメディを披露している。そしてそれと歩調を合わせるかのように、水月の原画も、目元に愁いを含んだ鋭いツリ目キャラたちを描いている。原画の個性と脚本の個性が相俟って、それぞれ固有の視覚的/言語的な印象を際立った形にしている、優れた見本である。

『朝凪のアクアノーツ』 (c)2008 Fizz
(図1:)小鳥遊美幸(左)と朝凪深緒(右)。頭部の輪郭のつるりとした丸まり、頭髪の柔らかなウェーブと暖色のデザイン(赤-茶)、涼しげに開かれている前髪、ユーモラスに記号化された撥ね毛(アホ毛)、可愛らしい髪留め、表情豊かなポージングなど、陽気で開放的な雰囲気を匂わせているのが、この闇野ケンジの絵である。
(図2:)慧本友里子(左)と白玉かなか(右)。こちらは、厚みのある前髪、直線的に尖りつつ複雑に乱れている頭髪、装飾性の強いリボン、寒色系の色彩設計(青味がかったシックな黒髪と、神秘的な薄紫色の長髪)、そして警戒心を示唆するかのように体の前で手を組んだポーズ。静かな緊張感を湛えている水月悠の絵は、脚本の雰囲気と正確に対応している。


  3) シナリオ構造を反映した原画分担
  ヒロイン間の分担は、あくまで水平的な(そして原則としては等価な)シナリオ分岐である。それに対して、構造的な階層性を伴うシナリオにおいて、その階層性に対応した原画分担が為されている場合がある。最も典型的なのは、入れ子構造を持つシナリオである。アダルトゲームでは、しばしば「作中作」が持ち込まれることがある。しかも、『Maple Colors』(CROSSNET/ApRicoT、2003)や『Clover Point』(Meteor、2007)のようにキャラクターたちが実際に演劇をするのではなく、明確にそこから分断された別個独自の描写がゲーム内に現れるというものである。

  古い例としては、SLG『Piaキャロットへようこそ!!』シリーズ(カクテル・ソフト、1996-)では、主人公が書籍やビデオを借り受けた時に、それを実際に再生することができるモードがある。そしてそこでは、本編の絵とはまったく異なった絵柄の――別の原画家によって描かれた――CGが展開される。同様に、ソフトハウスキャラのSLG作品にも、毎回数個の作中作が登場する。ゲーム本編中で特定の条件(例えば特定アイテム入手)を満たした時に発生する幕間イベントであり、ちんじゃおろおす明音のようなゲストイラストレーターによるものであったり、笠懸えびらかごのとりなどの社内CGスタッフによるものであったりする。これらの作中作の内容は、総じて捻りの無いアダルトシーンであり、本編ストーリーとの関連性はほぼ皆無である。

  作品の構成上、本編部分と密接なつながりを持つ作中作もある。『らくえん』(Terralunar、2004)には、本編中の登場人物が視聴しているアニメ作品の抜粋のようなものが、差し込まれてくる箇所がある。また、「ぼくのたいせつなもの」というタイトルの作中作を実際にプレイすることができるが、これは、本編中に登場するライバルゲーム会社が制作しているゲームそのものである。本編部分の原画はやまもとなをゆき、それに対して作中作の原画はKarenが担当している。さらに、『長靴をはいたデコ』(LOST SCRIPT、2007)では、この入れ子構造が包括的なものになり、作品全体を決定的に規定しそして転換する。この作品でも、シナリオの二つの層に対応して、「長靴をはいたデコ」部分はVanilla、「ホスト☆聖夜」パートは吉澤友章が原画担当している(――脚本も、大槻涼樹が後者のパート、うつろあくたが前者のパートを分担執筆している)。

『らくえん』 (c)2004 Terralunar
(図1:)本編部分の画風。零細アダルトゲーム会社の物語である。ゲームによってゲーム制作を描写するという体裁もあって、大胆にもSD立ち絵を投入するなど、コミカルでありながら、シニックな雰囲気も匂わせている。こちら側が本編であるにもかかわらず、画面上下には白い余白部分が設けられている。
(図2:)作中作「ぼくのたいせつなもの」の画面。本編部分(図1)がストレートな描線とフラットな塗りで形作られているのに対して、この作中作は、薄手の色合いと繊細なグラデーション、清潔感のあるハイライトを伴っている。インターフェイスデザインまで変化しているという凝りようである。もの悲しいこのSF悲恋の脚本を、『らくえん』本編部分では田中大三郎という俗物が書いているというギャップも面白い。

『長靴をはいたデコ』
(c)2007 LOST SCRIPT
(図1:)前作『蠅声の王』(2006)と同じくVanillaが原画担当した「長靴をはいたデコ」パート(あるいは「デコ」編)は、白箱系に近い日常恋愛ものである。その一方、吉澤友章原画の「ホスト☆聖夜」パート(下の図2)は、歌舞伎町を舞台にした超常ホストバトルものである。
(図2:)「聖夜」は、「デコ」編のキャラクターが視聴しているTV番組という扱いになっているが、作品の終盤では、実は「デコ」編の方が「聖夜」編主人公の見たイリュージョンであるとされ、双方の位置づけが転倒されるという大ネタが明かされる。二つの画風のギャップは、様式的不整合ではなく、まさに作品構成の側からあらかじめ要請された効果である。


  4) その他の特殊な構造的原画分担
  最後にもう一つ、ユニークな例を紹介しておこう。『恋姫†無双』シリーズ(BaseSon、2007-)や『乙女恋心プリスター』(Escu:de、2010)は、非常に広大な世界を扱っており、複数の国乃至勢力と、大量のキャラクターが登場する。大作であるため原画家も複数人参加しているが、その原画分担は、基本的には国/勢力単位で分かれている。『恋姫†無双』では、片桐雛太が主に蜀軍所属のヒロインたちの原画を担当し、かんたかは曹魏軍を、日陰影次が孫呉軍を、さえき北都が袁紹軍を担当している。ただし、厳密な縦割りではなく(特に八葉香南は複数の勢力のキャラクターを受け持っている)、またシリーズを重ねるにつれてキャラクター分担はさらに錯綜したものになっていくが、全体としてみると分担の傾向も画風の違いも歴然としている。

  同様に、『乙女恋心プリスター』には「マリアンロード」「ツドラ」「モンローハート」の三国が登場するが、原画はそれぞれ、光姫満太郎がマリアンロードのキャラクターを担当し、はなたかれともはツドラ、水鼠はモンローハートを担当している。この作品は、それぞれ異なった勢力に属する三人の主人公の中から、一人を選んでプレイすることができる。主人公を変えてプレイすることにより、背景画像として展開される風景も一変するし、身近な登場人物たちもまったく異なった顔触れになる。光姫、はなたか、水鼠はそれぞれ非常に個性の強い画風を持っているため、プレイする度にゲーム画面の基調はまったく違ったものになる。周回プレイを要求するこの大作SLGにとって、その彩りの変化はプレイヤーを大いに楽しませてくれる。もちろん、個々のキャラクターの所属国が一目ではっきり識別できるという効用もあるだろう。『恋姫†無双』も、第1作のストーリーは蜀軍所属に限定されていたが、第2作目以降は主人公がそれ以外の勢力に参加することもできるようになっている。ここでも、勢力帰属の変化が、そのストーリーでの主要登場人物の絵柄の視覚的変化にも反映されることになる。

  この二つの作品は、前記2a)の「キャラクターの位置づけに対応した原画分担」の例でもある。しかしながら、分担の包括性と基準の明確性において、ほとんど別個独自のクオリティを持つに至っているため、別途項目を立てて紹介すべき十分な価値があるだろう。

『乙女恋心プリスター』 (c)2010 Escu:de
(図1:)マリアンロードは、歴史の長い王国であり、またプリスターバトル(「マホウ少女決定大会」)の主催国でもある。キャッチーな華やかさと神経質な描き込みを併せ持った光姫満太郎の艶やかな原画は、押し出しの強いキャラクターたちの過激な漫才を、よりいっそう鮮やかなものにしている。
(図2:)ツドラは、社会的経済的格差の激しいロシア的北国である。はなたかれともの描く立ち絵は、いかにも木訥でありながらユーモラスな愛嬌を放射することで、北国舞台の雰囲気の厳しさを和らげている。また、腹黒キャラや卑屈キャラなどの極端な奇人が多いのもこの勢力の特徴であるが、原画の朗らかな雰囲気はそれらの棘をうまく包み込んでいる。
(図3:)モンローハート国は、南方に位置する平和的な国である。経済的にも恵まれており、プリスター教育に関しても先進国である。Escu:deスタッフの中では、この都会的な洗練と社交的な人懐っこさを備えたバランスの良いキャラクターたちを描くのに、水鼠のシックな画風こそが最も相応しい。



  【 3. ムービーパート

  上記1)で概観したように、SLGパートとAVGパートは機能上の理由から区分され、それとともにそれぞれの視覚表現の構築原理も異なっている。また、2)で述べたように、脚本との連携という観点でも、様々なタイプの原画分担の実例が存在する。現代のアダルトゲームには、もう一つ、本編から分離した異質な構成要素がある。オープニングムービーである。

  OPムービーは、内製で賄われることが無いわけではないが、ほとんどのアダルトゲーム会社にとって、ムービー制作専門の社員を持っておく余裕はなかなか無い。そのため、OPムービーの制作は社外の映像制作者に外注されることがほとんどである。とはいえ、本編の内容に対応しないムービーをゼロから制作するわけではなく、本編中の立ち絵素材や一枚絵などを提供し、それらを映像制作者がうまく組み立てて、主題歌に合わせた映像を作り出すのである。したがって、アダルトゲームのムービーは、たいていの場合、本編の画風とのギャップを生じない。
 
  なお、アダルトゲーム分野では、発売前のデモムービーと、本編中で使用される(オープニング)ムービーとで、しばしばまったく同一の映像が使われるという奇妙な慣行がある。ムービーの末尾に発売告知を挿入すればデモムービーになり、それを無しにして主題歌とオーバーラップする部分だけにすれば製品版OPムービーとして通用する。その理由としては、複数のムービーを制作するコストや、製品版ムービーがさほど重要ではないことなどがあると考えられる。

  しかし、デモムービー/OPムービーで映されるキャラクターたちの絵が、本編のそれとは大きく異なっているという場合がある。とりわけ、ムービーがセル画風の本格的なアニメーションムービーとして外注制作される時に、そうなりやすい。00年代に入って、例えばLeaf『うたわれるもの』[2002]、『Tears to Tiara』[2005]など)、alicesoft『大番長』[2003]、『超昂閃忍ハルカ』[2008]など)、CROSSNET/ApRicoT『Maple Colors』[2003]、『AYAKASHI』[2005]など)のように、アニメムービーの導入に積極的なブランドも現れてきたし、その中には現在でも高く評価されている作品もある。また、『いただきじゃんがりあんR』(すたじおみりす、2005)は、アニメーションムービーではないが、映像制作者のAC-Promenade/URAが独自にキャラクターイラストを描いてムービー内で使用している(――なお、演出技術論Ⅲ-3-1も参照)。

  ムービーと本編とで画風が異なることは、それ自体としては、良いことでも悪いことでもない。端的に作品外在的な制作工程上の事情によるものであり、絵の違いは当該作品を理解するうえで、なんら意味の違いをもたらすものではない。しかし、本質的に雑種的で混淆様式の存在であるアダルトゲームが、そのような振れ幅を易々と受け入れられるキャパシティを持っていること、そしてそれによっていくつもの卓越した映像を自らのものとして世に問うてきたことは、大いに喜ぶべきだろう。

  例えば、『THE GOD OF DEATH』(Studio Mebius、2005)のデモ/OPムービーは、新房昭之が絵コンテを制作し、吉田潤が作画監督、REMICが制作したものだが、超自然的存在に支配された学園の劇的状況とそこで生き延びようとするキャラクターたちの有様を、ダイナミックなアニメーションとともにシンボリックに描き出している。また、『AYAKASHI』で正統派の高品質なアニメーションムービーを制作したJellyfishは、その後もPurple software作品などでいくつものアニメムービーを制作している。『聖剣のフェアリース』(Littlewitch velvet、2009)のPoint Picturesは、大槍葦人(本編原画)の個性的な画風を掬い取りつつ高い水準でまとめあげ、しかも映像演出の次元でも洗練された表現を提示してみせた。

『AYAKASHI』
(c)2005 CROSSNET/ApRicoT
(図1:)超常能力を持つ若者たちの現代伝奇バトルAVG。前作『Maple Colors』のOPムービーでは社内スタッフのTOMAらがアニメーション制作していたが、本作ではJellyfishに外注制作している。
(図2:)ゲーム本編のCGも、輪郭線をはっきり残しつつグラデーション塗りの控えめなアニメ寄りのCGワークであるが、このOPムービーは一般的なセル画タイプのアニメ映像として制作されている。本編の内容と異なるカットもあるが、作品のイメージははっきり伝えている。
『THE GOD OF DEATH』
(c)2005 Studio Mebius
(図1:)凶悪な魔族(主人公)が現代の一学園生の中に意識を取り戻し、学園内でテロを発生させつつヒロインたちを蹂躙していくという、陰惨かつ過激なストーリーの作品である。
(図2:)このOPムービーの00:45秒から、メインヒロイン「秋坂なつき」による、ストリートダンスのような印象的なカットがある。幻像のようなビル街夜景を遠く臨みつつ、時折ネオンの光(?)に照らされながら、全身を滅茶苦茶に振り回してぐるぐると踊っている。
(図3:)ヒロインは両目を閉じて、ただ闇雲に何回転も踊り続ける。極端に激しく高速で不規則なその動きは、まるで何が憑かれたかのような異常性をプレイヤー(=視聴者)に暗示し、また、過酷なシチュエーションに翻弄される悲惨なヒロインの運命を予告するようでもある。
(図4:)このカットの最後では、ヒロインは瞑目したまま、斜めに力無く倒れてフレームアウトしていく。アニメーション(運動描写)の卓抜さとシンボリックな構成の妙趣とが一致した秀逸なムービーであり、本編のこぶいち/むりりん原画のエロティシズムとは異なった迫力がある。
『いただきじゃんがりあんR』
(c)2005 すたじおみりす
(図1:)アダルトゲームのデモ/OPムービーの中でも非常に名高い一本。音楽のリズムに合わせて、軽快なモーショングラフィクスを高速に展開して、映像演出の楽しさを前面に押し出している。
(図2:)図地反転、入れ子化、レイヤー操作といった画面の解体と(再)構築。巧緻かつ多彩なカットつなぎ。デザイン化された背景のポップなカラーリング。色調変化による画面の雰囲気のコントロール。そしてそれらのめまぐるしい転換の連続。
(図3:)デモムービーにもかかわらず、立ち絵などの本編画像を見せたり、スタッフ情報を提供したりすることは、ほぼ放棄されている。この図3でも、ほんの一瞬映された原画/彩色クレジットは、キャラクターの持つボードとなって、あっという間に斜めにフレームアウトしていく。
『魔界天使ジブリール4』(公式動画
(c)2010 Front Wing
(図1:)URA(AC-Promenade)は、『いたじゃんR』の他にも、『トロピカルKISS』(Twinkle、2009)や『ジブリール』シリーズ(第4作:2010/第5作:2011)などで、手の込んだムービーを披露している。
(図2:)『魔界天使ジブリール』と『戦国天使ジブリール』(公式動画)の二作品では、空中幼彩原画の本編CGと、渡辺明夫によるアニメーションとを取り混ぜて、デモ/OPムービーを制作している。

(図3:)上記図1および図2は、本編原画の空中幼彩の絵(静止画)をアレンジしている。この図3は、渡辺明夫によるアニメーション部分のスクリーンショット。渡辺自身、アニメーターだけでなくゲーム原画家としても活動している。
『聖剣のフェアリース』(公式動画
(c)2009 Littlewitch velvet
(図1:)本編の原画家大槍葦人の作風は、漫画寄りのデフォルメや、線画の筆触を残したおおぶりなグラデーション塗り、意匠性の強い構成によって、アダルトゲーム分野では個性派と見做されている。
(図2:)Point Picturesが制作したこのOPムービーは、大槍のキャラデザの美質や絵の特徴を反映させつつ、アニメーション向きの一般的なスタイルとの間で巧みにバランスをとった作画を行っている。

(図3:)地に足の着いたキャラデザを再現しているだけではない。このムービーの最も輝かしい成果は、アニメーション演出としての洗練にある。これ見よがしにキャラクターをのっぺりと動かしてみせるのではなく、映像構成の一部として効果を挙げるような、鋭く切り取られたカット編集である。
(図4:)大胆なレイアウトに切り取られた絵を、主題歌「mirage tears」に合わせてさらに大胆に組み合わせている。図4も、ヒロイン「九澄千鶴」が剣を振り回す最中の様子ではなく、斬撃直後の長髪のゆらめきのみが曲の拍節に合わせて流れる。影表現や文字配置の装飾性もクールである。
『恋神』
(c)2010 PULLTOP(公式動画
(図1:)3Dモデリングされたメインヒロイン「ツクヨミ」が自由自在に駆け回り飛び回る。TEATIMEやILLUSIONの継続的活動を経て、2010年代にはほとんど2Dと落差の無い3Dデザインも可能になっている。
(図2:)日本古来の神々が現代日本に顕現したというシチュエーションの物語。OPムービーでも、杏子御津ヴォイスのメインヒロインが、長大な袖丈と美しい銀髪を振り回しながら、ミステリアスな神道的意匠群とポップなカラーリングを組み合わせたデザイン空間を華やかに駆け巡る。


  小括
  以上、1)ゲームパートにおける表現様式の機能的変化、2)キャラクターやシナリオの位置づけに対応した原画分担、3)ムービーパートの多様性、について概観してきた。

  前節の諸事例(SDカットインや漫画風CG)は、あくまで通常の画風をベースとし、そこからの一時的な逸脱的変化によって、アドホックに特殊な演出作用をもたらすものであった。それに対して、本節で紹介してきたタイトルの多くは、構造上/機能上の要請により、特定の画風の選択と、それらの組織立った使い分けがトップダウンに指定され統制されている。したがって、これらは修辞(演出)表現というよりは、その作品全体の基本原理、あるいはアダルトゲーム分野一般において普及した基本文法の一つであると言うこともできるだろう。

  次章では、包括的全面的な様式選択の特徴的な実例を紹介する。


  次ページ(第4章)に続く。