2016/07/04

アダルトゲームのCGワーク(4)

  アダルトゲームで用いられる、様々なスタイルの画像について(4ページ目)。

はじめに(1ページ目
第1章:アダルトゲームCGの基本的特徴とその構造的事情
第2章:修辞としての特殊なCG表現(2ページ目3ページ目 
第3章:構造的な事情に基づく画風変化このページ
  1. SLGパートとAVGパート
  - 1) 古典的なドットワーク、チップキャラ
  - 2) イラストキャラクター
  - 3) 3D表現
  - 4) 固有画像を極力使用しないゲームデザイン
  2. 原画のシステマティックな分担(5ページ目
  3. OPムービー
第4章:個別作品の総体的な画風選択(6ページ目7ページ目8ページ目
おわりに


  第3章:構造的な事情に基づく画風変化

  前章では、AVG表現にしばしば見られる視覚的変質の導入とその作用について概観した。それらは総じて、通常画面との落差によって特定の効果を挙げようとするものであった。そのような一時的な演出的変化に対して、比較的長時間に亘る変化や、複数のスタイルの間の対等な切り替えまたは併存、そして当該作品の表現システムに由来する構造的分離など、よりいっそう大規模な変化や構造的な変化も存在する。本節では、構造的分割の例として、1)SLGパート、2)原画分担、3)OPムービー、の三つの代表的なパターンを紹介していく。1)のSLGパートとAVGパートの区分は機能上の理由から視覚表現の構築原理が異なるパターンであり、2)の原画分担は主に脚本上の階層化やキャラクター配置に対応した視覚表現の分節化であり、3)のムービーはどちらかといえば作品外在的な事情から生じる相違である。



  【 1. SLGパートとAVGパート
  キャラクターイメージのデフォルメ表現に関しては、90年代以来のコミカルなSDの伝統と並んで、もう一つの重要な伝統がゲーム分野に存在する。すなわち、ドットキャラに代表されるような、ゲームパート上の簡略表現である。これは、第1章で述べたように、むしろSDのようなデフォルメ文化に先行しており、かつ、ゲーム分野においては中心的な手法である。

  アダルトゲーム分野は、性表現やキャラクター性が決定的に重要であるため、テキスト進行をベースとするAVGパートを切り捨てることがほぼ不可能であり、それゆえ、大規模なゲームシステムを持つタイトルでも、ほぼ必然的にゲームパート+AVGパートの併存様式になる。そして、ゲームパートは、AVGパートの通常画面とは異なるフェイズに切り替わり、画面構成も変化すれば操作性も変化するのが通例である。

  アダルトゲーム分野の非AVG作品(SLG/RPG/ACT/STG/TBL)は、ゲームパート上でのキャラクター(ユニット)の存在表示に際して、様々な手法を採ってきた。おおまかに分類すると、a)古典的なドットワーク、b)イラストの動的操作、c)3Dモデリング、d)極力使用しないゲームデザイン、が挙げられるだろう。


  1) 古典的なドットワーク、チップキャラ
  現代のゲームシーンではドットアートは稀少なスキルになっているし、また大味なドットワークに拘泥し続ける合理性も無い。しかしながら、一部のブランドでは、ドットキャラやそれに類する簡素な画像(「チップキャラ」「チップアニメ」)が使用されている。

  具体例。現在のアダルトゲームブランドとしては、ソフトハウスキャラEushullyの二社が、小サイズのチップ画像をSLGパートのキャラクター表現やアニメーション表現に活用している。ドットアートは、レトロゲーム風の親しみやすさがあり、ゲーム的美意識の一つの流儀として確立されており、さらに小さなユニットを表示するうえで好都合だといった長所もある。なかでも、『アウトベジタブルズ』(ソフトハウスキャラ、2014)における怪盗活動時の多彩なアクション表現は、たいへん充実した内容である(制作担当者はTOM)。alicesoftも、『しゃーまんず・さんくちゅあり』(2010)や『大帝国』(2011)などでドットアニメを局所的に使用している。

  メリット。ドット/チップ表現の一般的なメリットとしては、1)大掛かりな3Dシステムを導入しなくても使える、2)スキルさえあれば少人数で機動的に制作できる、3)非常に軽量である、4)アニメーションできる、5)拡縮等の操作をしても崩れにくい、6)極端な小スケールにしても判別できる、7)通常原画と分業できる、といった点があるだろう。なお、別掲「美少女ゲームの2Dチップアニメ」を参照。


『アウトベジタブルズ』
(c)2014 ソフトハウスキャラ
(図1:)弟子二人を指揮して、指定された財宝群を盗み出していく、怪盗コンテストのSLG。建物マップを自由に移動して、カード数値で各部屋(関門)を突破していくゲームである。
(図2:)ヒロイン二人が各関門に挑む様子は、細やかで可愛らしいアニメーションで表現される。この金庫開錠アクションでは、「二人が立つ」→「金庫に接近」→「一人が開錠を試みる」→「扉が開く」→「決めポーズ」までの一連の動きが表現される。
(図3:)待機中のキャラクター(右側の赤マント)も、腕を動かしたり瞬きをしたりと、飽きさせない動きを見せてくれる。緻密なアニメーションでありながら、この3頭身キャラクターたちの動きは非常にユーモラスでもある。
(図4:)アクションに成功すると決めポーズを取ることになっているが、これもこの怪盗競技の主催者からの指定である。周囲に撮影者がおり、怪盗活動の華麗さで「怪盗ポイント」をスコア評価して、コンテストの成績に反映させるというルールになっている。
(図5:)探索中に、警備員やライバルとの戦闘になる可能性がある。図5に「ミライコンボ」とあるのは、ミライ(金髪ヒロイン)のカードのみを出した時に成立するコンボで、カード数値が加算されたり、ボーナスの怪盗ポイントが付いたりする。怪盗ポイント稼ぎも本作のゲームの醍醐味である。
(図6:)図5から図7にかけては、ライバル「リューコ」との交戦時のアクションである。相手を発見し、互いに対峙し、前進してきたリューコの鋭い突きを回避してから反撃し、相手を制圧して決めポーズをとるところまで、非常に見応えのあるひとつづきのアクションが披露される。
(図7:)コンフィグでアクション演出を「簡略」にすれば、ゲーム進行を高速化できる。とはいえ、開錠や戦闘以外にも、歩行、しゃがみ、ジャンプ(罠や敵を飛び越える)、潜伏、探索、一時的変装に至るまで、様々なアクションが精密に作り込まれているので、見ないのはもったいない。
(図8:)例えばこのジャンプアクションでは、心地良い浮遊感のある跳躍をしているし、マントの複雑なひらめきまできれいにアニメーションされている。「アクションキャラ」「アクションエフェクト」の制作担当はTOM
『BUNNYBLACK3』
(c)2013 ソフトハウスキャラ
ダンジョン内移動は3D構成だが、戦闘フェイズでは2Dドットキャラによる多対多戦闘になる。自軍ユニットは背面表示だが、顔が見えるような角度で巧妙にデザインされている。攻撃と被弾のアクションあり。
『姫狩りダンジョンマイスター』
(c)2009 Eushully
(図1:)ジャンルとしては、いわゆるSRPGの一種。配下ユニットたちを使役して、ダンジョン探索しつつ様々な敵と戦っていくゲームである。マップ上にはSDモデルのチップキャラが表示され、ステータス等は画面右側に立ち絵とともに表示されるという、美少女ゲームらしい折衷様式である。
(図2:)ユニット一覧画面はこのようになっている。一覧では各ユニットの頭部のドット絵だけが表示されており、一応グラフィカルにユニットを判別できるようになっている。ドットのディテールをきれいに保つためか、これらの画像にはアンチエイリアスは施されていない。全身画像も、正面向きのSDデザイン。
(図3:)戦闘フェイズは、対面レイアウトの2D画像で表現される(※コンフィグでスキップ設定にして、戦闘結果だけを表示するようにもできる)。ドットキャラと、2Dイラストと、3Dマップの組み合わせと使い分けによって本作のバトル表現は成り立っている。ただし、攻撃等のエフェクトはかなり控えめであるが。


  2) イラストキャラクター
  ドット/チップキャラよりも支配的なアプローチは、イラストをそのままゲームパート内で使用するというものだろう。もちろん、AVGパートのキャラクター立ち絵をそのまま使うのではない。ゲームパートに組み込むために大抵はSDデザインで、専用のキャラクター画像を新規制作して使用するものである。

  具体例。この路線は、現代のSLG系アダルトゲームの支配的流儀になっているが、その中でもとりわけEscu:deが傑出した成果を挙げている。古くは『とびっきりRUIN』(2000)のマップ探索から、『乙女恋心プリスター』(2010)の召喚獣バトル、そして『あかときっ!』シリーズ(2010/2011)や『Re;Lord』シリーズ(2014-)の脱衣バトルに至るまで、創意を凝らしたシステムの中で、プログラマー(水鼠KIT)の入念なチューニングにより、華やかで動きに満ちたゲーム画面が構築されている。このほか、でぼの巣製作所ninetail系列softhouse-seal系列も、しばしばこのアプローチを採っている。さらに近時は、マップ上にキャラクター画像を配置する際に3Dで運用されていることも多い。2Dと3Dの興味深い融合である。

  メリット。イラストキャラクターのメリットは、1)AVGパートとの視覚的なギャップが小さい、2)比較的低いコストで(特別なスキル無しでも)制作できる、3)ミニゲームなどでも柔軟に対応できる、4)プログラマーの腕次第では、十分に魅力的な画面が作れる。

『とびっきりRUIN』 (c)2000 Escu:de
不思議な遺跡の探掘をする学生サークルの物語。ゲームパートでは主人公ユニットを動かして、ステージ毎にアイテム収集をしたり、パズルを解いたり、左の画像のように落とし穴を避けて奥へ進んだりする。キャラクター画像は2頭身程度で、あくのない素朴なデザインになっている。
『あかときっ!』 (c)2010 Escu:de
行動ウェイト管理型のコマンドバトル。行動選択時や被弾時に表示されるキャラクター画像は、ふわふわと軽やかに動いており、連続攻撃時のエフェクト表現やキャラクター切り替えもキビキビとしており、さらにダメージに応じた脱衣差分変化もするという華々しいタイトル。キャラクターは立ち絵並の頭身。本作については別掲の紹介も参照。
『機械仕掛けのイヴ』 (c)2006 ninetail
(図1:)2Dイラスト基軸のバトルゲーム画面。じゃんけん式のカードバトルであり、優勢側が数値に応じた連続攻撃を仕掛ける。一連の攻撃モーションは、アニメーションとしては簡素な2D切り替えアニメであるが、大量のパターンが用意されているうえ、攻撃時エフェクトもよく作り込まれているため、なかなか見応えがある。
(図2:)シンプルな2D対面レイアウトであり、キャラ画像もSDであるが、相当のコストを掛けて大量のキャラアクション画像を制作している。そのおかげで、通常原画の雰囲気を反映した大サイズのキャラクター画像で派手なアクションを披露させられるのは、大きな強みであろう。ninetailはその後の作品群も、ゲームパートのキャラ画像は基本的に2D制作である。
『絶頂成長! 魔法少女ハルカ』
(c)2013 softhouse-seal
2Dのキャラクター画像とごく簡素なマップCGで構成されている低価格ACT。このブランドは2012年頃からこの種のレガシーな横スクロールACTを量産した。ヒロイン(自機)は、攻撃を受けると脱衣変化し、さらに敵に接触するとその場で蹂躙される(簡易アニメーション)。画像は溜め攻撃の瞬間。
『セックス あ~ん♪ パンツァー』
(c)2014 softhouse-seal
擬人化戦車少女が、同じく擬人化した敵軍兵器と戦うACT。本作では、自機(ヒロイン)画像がかなり大きくデザインされており、魅力が増している。システム面も、スコア制、武装切り替え、ボム実装など、作品毎に多少変化している。
『紅神楽』 (c)2012 でぼの巣製作所
(図1:)典型的なSRPG作品。ユニットは2.5頭身程度のデフォルメイラストであるが、マップは3Dで作られており、高低差も表現されている。でぼの巣製作所(旧studio e.go!)は、早い時期から積極的に3D技術を投入してきた。
(図2:)マップは任意の角度に回転でき、多段階ズーミングもできる。SDのユニット画像は正面画像と背面画像があり、左右反転も行えるので、あらゆる角度に対応している。さらに、簡素ながらアニメーションもする。図2はほぼ真上からの画面だが、まっすぐ立っていると認識できる。
(図3:)マップのほぼ全景。2Dイラストキャラと3Dマップの複合表現は、いかにも美少女ゲームらしい画面作りである。「霊脈」は立体的な3Dエフェクト。敵ユニットの妖怪も、旧studio e.go!時代はリアル寄りの外見だったが、でぼ時代には愛嬌のあるデフォルメデザインになっている。
『Maple Colors』
(c)2003 CROSSNET/ApRicoT
本作に多数含まれるミニゲームの一つである。画面右をボール型アイコンが移動するのを見て、大きな円に合わせてタイミング良く左クリックするとストライクを取れる。投球フォーム、投げられたボール、打者のスイングはそれぞれアニメーションする。


  3) 3D表現
  現今では3Dツールが利用容易化、低コスト化しており、またユーザーサイドでも、往時のような3D画面や3Dキャラクターに対する反発は解消されつつある。そうした状況下で、大規模なゲームシステムを構築しコントロールする際に、3Dシステムを導入するという選択肢は、アダルトゲームにおいても十分有望なものになっている。

  具体例。先駆的な『SinsAbell』(すたじおみりす、2002)を初めとして、『君が呼ぶ、メギドの丘で』(Leaf、2008)や『闘神都市III』(alicesoft、2008)のゲームパートは、キャラクター画像に至るまでほぼ完全に3Dベースで制作/表示されている。alicesoftの近作RPG群、『ランス・クエスト(Rance VIII)』(2011)、『ランス9』(2014)、『Evenicle』(2015)も同様である。また、STGタイトルとしては、例えば『とびでばいん』(abogadopowers、2001)、「天神楽」(studio e.go!、2005[『でぼの巣箱』所収])、『精霊天翔』(xuse、2010)、ACTでは『BALDR』シリーズ(戯画、1999-)や『マジカライド』(すたじお緑茶、2008)も、ゲームパートはフル3D表現、または大半が3Dモデルである。

  2Dと3Dの折衷として、『ダンジョンクルセイダーズ』シリーズ(アトリエかぐや、2006/2008)や『BUNNYBLACK』シリーズ(ソフトハウスキャラ、2010/2012/2013)は、ダンジョンマップのみを3D表現し、個々の戦闘ではフェイスアイコンやチップアニメでキャラクター表示するという方策をとっている。当然ながら、ゲーム表現をどちらかに限定しなければならないということは無いし、ましてやアダルトゲーム分野では、キャラクター性重視の観点でも、コスト面の考慮からも、2Dと3Dを適宜使い分けるのが望ましいだろう。

  メリット。3D表現は、しかるべきスキルを持っているスタッフがいれば、1)制作が効率的であり(通常原画との分業もできる)、2)基本素材が出来れば拡張可能性も高く、3)フィールド表示と一貫した仕方でゲームパート全体を制作/表現できるし、4)なまじのアニメーションよりも低容量で収められることも多い。このアドヴァンテージは、大規模なRPGに対しても、小規模なSTG/ACTパートについても、発揮されうるだろう。また、ヴィジュアルエフェクトを制作/使用するうえでも、2Dに対する3Dの優位性がいよいよ高まっている。

『SinsAbell』 (c)2002 すたじおみりす
レベル要素や装備変更などもあるが、実態はARPGというよりはACT+AVGである。2002年当時のアダルトゲームには珍しい、完全な3Dモデリングであり、ヒロイン「アポ・ステイト」の眼鏡も含めてキャラクターのポリゴン立体表現はそれなりに良く出来ている。
『Evenicle』 (c)2015 alicesoft
(図1:)ゲームシステムは、オーソドックスなRPG。フィールドやオブジェクトは、すべて3D制作されている。ただし、フィールド上でもテキストイベントが発生することがあり、その場合は立ち絵とテキストボックスがオーバーラップで表示される。
(図2:)戦闘フェイズは、ごく標準的なコマンドバトル。戦闘画面は、敵ユニットや戦闘フィールドもすべて3Dデザインである。敵ユニット画像は、行動待機中はゆるやかに動いており、行動時/被攻撃時にもそれぞれ固有のアクションを見せる。大技では2D画像カットインがある。
『BALDR FORCE』 (c)2003 戯画
(図1:)美少女ゲーム分野では比較的珍しいサイバーパンク志向の作品であり、仮想空間での高速な多対多ロボット戦闘が頻発する。主人公機は、マシンガンや誘導ミサイル、レーザー、浮遊機雷、ドリル、パイルバンカーなどの武装を適宜換装して使用することができる。見下ろし固定カメラだが、オートで適切にズーミングする。
(図2:)ACTパートの最中に、テキストイベントが発生することもある。そうした際には、テキスト進行に対応して、画面の3Dキャラクターたちも様々なアクションを見せる。キャラクターの表情は、話者欄フェイスアイコンの変化によって表現される。
『マジカライド』 (c)2008 すたじお緑茶
(図1:)3D空間の細い道を辿りつつ、ステージ毎のゴールを目指したりボスと戦ったりするミドルプライスACT作品。交差点で「↑」を押すと画面が90度回転して縦横の向きが切り替わる。ステージ毎に様々な仕掛けのある、パズル的性格の強い立体迷路である。ヒロインキャラ(自機)は、ツインテールのなびき具合が可愛らしい。なお、画像は体験版による。
(図2:)主人公(プレイヤーキャラ)の「如月巴弥」や通常の敵キャラクターは2Dベースで制作されているが、巨大なボス敵などは3Dモデリングされている。また、左記引用画像のように、ゲームパート内でも、AVGパートと同じレイアウトで会話イベントが挿入される場合がある(――フキダシ型テキストボックスを全面的に採用している珍しい作品でもある)。

『とびでばいん』
(c)2001 abogadopowers
(図1:)様々なジャンルで意欲的な作品を作り続けていたブランドのSTG。2001年のタイトルであるが、STGパートは自機(プレイヤーキャラ)から敵ユニット、背景に至るまで、ほぼ全てが3Dで造形されている。ただし、スコアアイテムの寿司類はさすがにドット絵である。
(図2:)このブランドは、同社社長浦和雄が制作したエンジンを使用しているが、当時としても異例なほど動作が軽快であり、迫力ある巨大ボスや大量の弾幕、攻撃エフェクトの連続表示などにも十分耐える。左記画像は、ボスユニットが六角形の防御シールドを展開しつつ機雷(爆導索、青い点々の部分)を伸ばしているところ。
(図3:)AVGパートでも、3Dキャラが活用されている。話者欄には立ち絵(静止画)が表示されるが、画面中央の小窓では3Dキャラたちが様々な振り付けアニメーションを展開する。解像度の限界もあり、残念ながら3Dキャラはそれほど可愛くはなかったが、賑やかなアニメーション空間は貴重なものであった。


  4) 固有画像を極力使用しないゲームデザイン
  本稿の趣旨からは逸れるが、ゲームパートで固有の画像を使わないアプローチもある。すなわち、一方では機能性重視のシステムおよびインターフェイスの下で、既存素材のアレンジによって凌ぐ対処があり、また他方で、十分に練達したプログラマーが大きなサイズのキャラクター画像を柔軟に使いこなしている場合がある。

  具体例。前者は、一連の調教SLG(調教AVG)が典型的であろう。ゲーム進行システムとしては、ツリー型のコマンド体系と、パラメータ表示システムがあれば足り、個々のコマンド実行内容はAVGパートのイベントシーン(一枚絵+テキスト+音声)になって賄われる。また、Triangle、アトリエかぐや、astronautsのようなオールドファッションなSLG/RPGも、戦闘パートの表現は、ごく簡素なコマンドシステムと、必殺技カットインまたはヴィジュアルエフェクトによって表現されている。麻雀などのボードゲームも、フェイスアイコンによってキャラクターが表現されるのが通例である。また、後者の路線でゲームシステムの作り込みが高度なものになっていけば、上記1b)のカテゴリーとして捉えられるようにもなるだろう。

  メリット。この路線は、作品内容に即して理に適ったコマンドシステムを構想する能力があり、かつ、エンジン側が適切なエフェクト処理を施すことができれば、きわめてリーズナブルにゲームパートが表現できるだろう。通常画面と同じレベルのキャラクター画像を使える余地が大きく、ゲーム全体の印象を一貫したものにさせやすいし、それどころか、立ち絵などの既存画像をそのまま流用できる場合も少なくない。

『塔の下のエクセルキトゥス』
(c)2015 astronauts Comet
ダンジョン探索RPG。ダンジョン内は3Dマップであるが、戦闘フェイズはカードバトルのかたちで簡略化されており、アクションはもっぱらエフェクトのみで効率的に表現されている。
『幻聖神姫LINEAGE(セイクリッド・リネージュ)』 (c)2015 Triangle
邪悪な侵略者となって、高潔な変身ヒロインを心身ともに陥落させようとするゲーム。戦闘パートはフェイスアイコンとステータス表示、テキスト、カットインで賄われている。ヒロイン立ち絵はダメージ脱衣する。


  小括
  STGやACTといった特有の「ゲーム」要素を含む作品、あるいは作品全体が一つの参加的な進行制御システムの下に置かれているSLG作品は、アダルトゲームにおいてはほぼ不可避的にAVGパートを伴うことになり、したがって「SLG+AVG」、あるいは「ACT+AVG」の体裁になる(――特有のゲームパートを持ちながらAVGパートを含まない作品は、ごく簡素な調教SLG/調教AVGか、あるいは後述する純3Dタイトルでしかあり得ないだろう)。そうした状況下で、SLG系/ACT系タイトルには、表現様式のレベルでも二重性が生じる。すなわち、ゲームパートは機能性ベースの画面構築を行い、AVGパートはキャラクター性重視の立ち絵/背景レイアウトを展開する。ゲーム媒体のかような混合様式において双方は両立併存しうるし、それだけでなく、キャラクターの魅力を多面的に深めていける機会としても役立っている。それは、可愛らしいSDキャラたちによる賑やかなアニメーションであったり、緻密に制御された空間バトルにおける脱衣表現であったり、3Dゲームでヒロインを自機として操作する楽しさであったりする。

  ただし、コストの問題も意識されるべきであろう。チップアニメを組み合わせて多様な状況に適合させていくか。SDデザインの2D画像で、簡易アニメーションをしつつ制作者が理想とするような格好良い全身運動を作り込むか。3D空間と2Dキャラのミックスによって、制作効率性と2Dテイストを両立させるか。一からフル3Dモデリングをするか。あるいは、ゲームパートの画像制作は立ち絵の流用程度にとどめて、作品の雰囲気を一貫させるか。等々。作品のコンセプトや予算規模に応じて、様々なアプローチが用いられている。

  アダルトゲーム分野は小規模経営がほとんどであり、個別ブランド単位での技術蓄積や人材育成は容易ではない。しかし、意欲的にSLG制作をおこなっているブランドは、プログラム技術も比較的高く、ノウハウの蓄積やシステムの改良も活発に行われている。そしてそれは視覚的構築のレベルでも行われており、彼等が画像素材を柔軟に利用したり、洗練されたインターフェイスを実現したりすることで、アダルトゲーム分野全体に対して新たな可能性を開いている。とりわけEscu:de、alicesoft、Eushullyは、AVGパートの画面構成や視聴覚演出に関しても、刺激に満ちた挑戦をおこなっている。


  次ページ(3章2節)に続く。