2026年7月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。
●新規作品。
文川和海『道端葉のいる世界』第1巻(祥伝社、原作者=ストーリー担当あり、1-5話)。ジェンダーアイデンティティを男/女どちらにも置かないノンバイナリーの大学生主人公の物語。テーマ設定からして、説明やモノローグが不可避的に多くなるし、動きの乏しい会話劇になりがちだが、主人公造形は説得力があるし、個性的なシーンもある。
綾野綾乃『香穂ちゃんは顔がわからない』第1巻(講談社、原作者あり、1-5話)。こちらもマイノリティ主人公をフィーチャーしている。相貌失認状況の顔が、コミカルさと不気味さをぎりぎり両立しつつ、場面ごとの演出に役立っている。ストーリーそれ自体は、この症状を正面から取り上げるヒューマンドラマ路線であり、視覚的演出も良い。
●続刊等。
1)現代世界が舞台。
丸井まお『となりのフィギュア原型師』第8巻(77-87話)。相変わらず絶好調の切れ味。パーツ分割の話も、キャラぬいぐるみも、『Warhammer』風のボードゲームも、いずれもディテールの的確さからネタの掘り下げ、そしてそれらをコメディにつなげる手腕まで、びっくりするくらい洗練されている。
松元こみかん『玉川さん 出てました?』(21-26話)。毎回の見開き演出など、見せ方の上手いところは確かにあるが、メインヒロインよりもサブキャラの妄想ばかりで話を回すようになっており、ネタは少々マンネリになりかけている。悪くはないけれど、そろそろ潮時かな……。
雨水汐(うすい・しお)『僕らのアイは気持ち悪い』第3巻(12-18話、完結)。旧友への恋愛感情をフィギュア作りにぶつけている主人公と、出来たフィギュアに興奮してしまうキャラクター、そしてその少女に執着する同級生という、ドロドロした物語は、最終的にベターな着地点に辿り着いた。台詞回しや筋運びも個性的だし、開放感のある結着シーンなども良い。この作者の他の作品も探してみよう。
山口貴由『劇光仮面』第9巻(72-80話)。能楽親子エピソードの続き。ナレーションテキストが介在するためもあって、全体的に静まりかえった雰囲気の中で、悲しくも陰惨な物語が次第に展開されてくる。
万丈梓『恋する(おとめ)の作り方』第12巻(103-111話)。修学旅行から年末まで。いわば性欲抜きのBLのようなもので、しかも二人とも精神的に安定してそれぞれの将来をポジティヴに考えていく描写も増えてきているので、たいへん気持ちよく読める。
2) ファンタジー世界など。
kakao『辺境の薬師~』第13巻(102-109話)。今回も、繊細かつ精密な超絶作画の上に、エキセントリックなおねショタえろシーンと温かな人情話がまぜこぜに展開されていく。
宵野コタロー『滅国の宦官』第3巻(13-24話、完結)。分厚めの最終巻で、物語の結着まで描ききった。ビザンツ帝国風の架空世界の宮廷での殺人と陰謀のドラマは、キャラクターたちの情念と野心と情愛を劇的に絡み合わせている。後半は政治ドラマが主眼となった分、宵野氏らしい華やかな運動描写は減ったが、それでも印象深いコマは多い。
イツカぬくもり『推しの妹に転生してしまったので~』第3巻(11-17話)。謀略ストーリーとしては浅いが、紙面の余裕をたっぷり取ったテンポは個性的。一ページにわずか2-3コマの大ゴマ基調で、台詞も(原作小説付きの現代漫画としては異例なほどに)じっくり溜めつつスローペースで語られていく。悪役としての表情も、乱用はせずに要所に絞って投入している。
水辺チカ『悪食令嬢と狂血公爵』第13巻(61-65話)。昨年秋のアニメ化の頃から、かなり荒れている。絵も繊細さが欠けているし、コマ組みもだらだら続けているだけで抑揚が無いし、デフォルメ絵を多用するのも成功していないし、作品の勘所である筈の恋愛描写と美食描写がどちらも不完全燃焼のまま続いている。第10巻(?)あたりの、庭での封印儀式の頃がピークだったか……うーん。
フカヤマますく『エクソシストを堕とせない』第15巻(110-117話)。バーバヤーガの過去エピソードから、世界崩壊へ。女性のアイデンティティ獲得への問題意識を下敷きにしてはいるが、作中キャラクターのパーソナルな事情をかなり強調しているので、背景的な広がりにはあまり繋がっていない。
及川徹『異世界H英雄伝』第3巻(8-11話)。これも相変わらず、お色気描写はしつこくベタベタしながら、ヒーローは力強く頑張り、そしてモンスターはオリジナリティのあるデザインで世界の危機の瀬戸際まで追い込んでくる。作画の空間的な広がりとディテールも良い。
桃山あおい『三日月の国』第2巻(6-10話)。オスマン帝国の宮廷に生きる人々の中編オムニバス。暗殺事件や遠征など、比較的ミクロな視点から当時の生活を活写している。コマ組みがやや生硬で、漫画としてはオールドファッションなところもあるが、キャラクター個性は明瞭に打ち出されているのでエンタメとして素直に楽しめる。とりわけ今巻では、言動は乱暴だが優秀なミライさんのキャラ立てが実に良い。
近江のこ『もうやめて 回復しないで 賢者様!』第3巻(16-23話)。出版社を移籍しての連載再開。成長したスライムが手強いというのは、昔の映画『ブロブ』の頃からのクラシックなアイデアだが、本作はそのアイデアを現代水準でテクニカルに掘り下げている(体内侵入と乗っ取り、衝撃波で細胞を破壊、スキル吸収、等々)。視覚演出としても、スライムに取って代わられた元人間たちのくねくねした異常な動きや、スライムが溶け出てくるダイナミックな変化の描写など、見応えがある。「最果ての露出」という発想も物凄い。