2023/04/05

模型雑話:2023年

 プラモデル&フィギュアの雑多なメモ。


 05/10

 30MS×アイマスのキットは、うーん、かなり印象が悪いなあ。顔立ちがのっぺりし過ぎているし、ディテールもいろいろと甘いし、色も足りてなさそう。
 1) 元々、30MSはガールプラモとしては低価格(=低品質)路線なのに、
 2) 既存キャラなので、ゲームCGや出来の良いフィギュアと直接比較されてしまうことになり、
結果として、出来の悪さが強調されてしまう。これが完全オリジナルのキャラクターであれば、最初から「こんなものか」と受け入れられたのだろうけど……。
 フェイスパーツの互換性も気になる。互換性を重視すると、頭部造形が大きく制約されてしまう。例えば丸顔や面長などの個性が出にくく、画一的になりかねない。そのあたりを上手く調整できればよいのだけど、上記のとおり30MSは安価路線なので、あんまり期待できない。

 好意的に捉えるなら、30MSシリーズそれ自体としては、頭髪のヴァリエーションが大量に提供されるというのがメリットになるかもしれない。また、「3000円台(?)の可動プラモデル」という条件が、上手くニッチを占有できる可能性はある。つまり、「2000円の固定ポーズの(プライズ)フィギュアと比べると、自由にポージングさせられる」。「9000円の可動フィギュア(figma)と比べて、はるかな安価に購入できる」。「3万円の高額フィギュアと比べても、もちろんきわめて安価」。その意味で、好きなキャラの立体物として、それなりに有望な選択肢に食い込める可能性はある。

 ガールプラモ全般が、もうそろそろ頭打ちっぽい。市場規模の変化は分からないが、メーカーサイドで新規性のあるクリエイティヴなネタが出てこなくなったという意味で。KOTOBUKIYAもいろいろなシリーズを作っているわりにデザインはマンネリ気味だし、Guilty Princessが簡素なキットのヴァリエーションばかり続けているのもかなりの悪印象。


 模型に関しては現場的技術や実物考証はたくさん語られているが、模型の理念論、価値論、美学論等が語られる機会は、残念ながらまだまだ乏しいように見える。建築学や美大での模型製作はあるけど、それらも実用主義的なように見えるし、ホビーとしての模型分野はそこからさらに距離がある。文化のフレームワークや価値観の基盤について、自らきちんと問い直すことはきわめて重要なことだと思うし、実際いろいろ考えているので、折を見てなんとか形にしていきたい。


 Max factoryのGuilty Princessは、私の中では、ものすごく印象が悪い。なにしろ最初からメイドシリーズのキャラバリエーションを3連発で、その次はシンプルな下着素体キャラを4連発というのは、あまりにも安易に見える。
 マイナーな趣向でも自身のやりたいことを追求しているメーカーや、挑戦的な取り組みをしている「志のある」メーカーならば、できるだけ買って応援している。しかし、Max factoryは、ガールプラモとしては最後発なのに、最初のうちから下着素体のようなイージー路線に引き籠もっている。キット単体としての出来は、そんなに悪くはないのだけど、とにかく面白味が無い。メイド2人の箒型メカと掃除機メカはそこそこ良かったのだけど、それ以降は鉄球や刀といった、芸の無いものばかり。
 今後予定されているのも、既存キットのカラバリばかり。ここまでつまらないシリーズになるとは、さいすがに予想もしていなかった。Maxには期待していなかったとはいえ、心底がっかりしている。

 プラモデルは「趣味」の世界だ。だから、新しい面白さを作り出してくれるメーカーこそは、最も高く評価されるべきだ。精緻なディテール表現の追求でもいいし、マニアックなキャラクター造形でもいいし、パーツ構成の新機軸でもいい。感性的な面白さや、知的な面白さ、そういったものの手掛かりを提供してくれるメーカーは応援していきたい。


 ミキシング制作をする方々はすごいなあ。独自性のあるアイデアを生み出す発想力と、それを具体的な構成にまとめ上げる設計スキル、手を動かしてそれをきちんと仕上げるモデリング技術、長大な工程を自力で遂行する行動力、そして、場合によっては大量のオプションパーツを購入する資金。模型制作はオタクの総力戦だ。



 05/05

Academy「1/35 AH-64A サウスカロライナANG(州空軍)」。全長約50cmは、1/350艦船(Trumpeter「ドレッドノート 1915年」)と遜色ないボリューム。

 ヘリコプターの模型も一度は作っておこうということで、トライしてみた。ただし、ヘリは(うるさいから)好きになれないので、あくまでイージー制作。とはいえ、せっかくなので大スケール。ということで上記のとおりAcademy社の安価なキットを選んだ。
 馴染みのないジャンルは、パーツ構成が新鮮で面白いし、モデラー経験としても大きな収穫があった。しかし、知識の乏しいジャンルなので、組み立て工程に迷いやすく、手順も非効率になるし、組み立てに失敗したり、細かなパーツの取り付けがよく分からないという事態が発生したりする。実際、このAcademyキットは説明書も不親切だし、パーツ精度もかなり低いので、かなり苦労した。各所に隙間が出るし、接着に対する配慮が欠けているし特に窓ガラスパーツは、どうやっても上手く嵌め込めなかった。インストの記載によれば2020年のキットとのことだが、最新キットにしてはかなり拙い出来。窓ガラスのマスキングシールが同梱されているのはありがたかったが……。
 パーツ数そのものは少なめなので、割り切って省力制作すればすぐに完成する。ローター(プロペラ)基部のディテールなど、見せどころもある。各部のリベット表現なども頑張っている。それにしても、50cm四方に大きく広がったプラモは、うーん、置き場所に困るなあ。

 Acedemy社でも、1/350ウォースパイトは素直にまとまった良いキットだったし、TBM-3(アヴェンジャー)も意欲的なインテリア再現キットでなかなか面白かったし、パーツの合いも比較的まとも(※ただしインストは説明不足なうえに手順もひどかった)。なので、上記AH-64Aは、Acedemyの中でも不出来な部類と言うべきだろう。



 01/01

 【 ガールプラモの歴史観 】
 ガールプラモ(美少女プラモ)について、2015年の「FAG轟雷」から始まったのだと主張する人がわりといるけど、それは大きな間違いだと思う。それ以前からハセガワ「フェイ・イェン」「ガラヤカ」(2007-)や、コトブキヤ「レイキャシール」(2011)、「KOS-MOS」(2012-13)などの長い蓄積が存在したので。
 
 2015年の「轟雷」(+「スティレット」)が、ガールプラモ史の中で一つの大きなブームの契機になったことは確かだろう。しかしその意義は、それ以前から存在したいくつものキットの流れの中で捉え、それらと比較することによってこそ、適切に把握することができるだろう。例えば、1)特定の原作に依存しないキャクラターであったこと。2)小顔なレイキャシールやKOS-MOSキットと比べて、頭部が大きい(=表情が見て取りやすい)ことがキットの魅力を増していること。3)接続穴の多用で、拡張性を与えていること。4)当時の擬人化(女体化)ブームとの関連。等々。
 技術面でも、例えばハセガワ「フェイ・イェン」の頃から高強度のPOM素材を関節を使っていたことは評価されるべきだし、また逆に、「フェイ・イェン」や「KOS-MOS」はかなり華奢な(デリケートな)キットだったのがFAGでは頑丈で動かしやすく進歩していることも評価されるべきだろう。
 
 現代に至るガールプラモの基本枠組(サイズ感や可動構造の基礎)は、「フェイ・イェン」の頃には確立されていたし、そこからの8年間を無視して「轟雷」がいきなり画期的なキットとして生まれたかのように捉えてしまうことは、かえって「轟雷」の歴史的意義を見失うことになりかねない。そういう意味で、一面的な「轟雷」過褒史観はあんまり褒められたものではないと思う次第。ちなみに、「フェイ・イェン」にきちんと注目しておくことは、ただ単に過去を遡るだけでなく、ガールプラモのメディアミックス的広がりや、メカ少女ものの文脈にも目を向ける手掛かりになるだろう。


 【 ガールプラモ市場 】
 近所のホビー店ではKOTOBUKIYAの再生産ガールプラモが山積みになっている。ただし、新作キットはすぐに捌けている。こういう状況を見ると、ガールプラモの新規ユーザーはここ数年間で、たいして増えていないのかもしれないという見方もできる。つまり、既存モデラーは、既発売のキットはだいたい買っていて、再生産はもう買わなくてよい。そして、新規ガールプラモユーザーは、ここ4~5年であんまり増えていないのかも。例えば「朱羅:蒼衣」は2018年夏の発売で、今回の再生産でもセールスはやや鈍そう、という狭い観察からの推測。
 例えば私自身も、すでに70個以上買っているわけで、欲しいものは大抵入手済みだ。複数買いをしてオリジナル塗装でいろいろなキャラを作りまくるという生産的なユーザーは、(twでは目立ちやすいけれど)実際にはかなり少数だろう。
 予約加熱も、たしか「朱羅:影衣」(2018年6月)の頃から本格化していたと記憶するし、その時期が大きなピークを迎えていたのは確かだろう。だが、そこから新たな市場的パラダイム変化があったかというと……うーん。既存ガールプラモ層の市場が大きな広がったという印象は……うーん、あんまり無いかも。模型店での棚面積は2018~2020年あたりで一気に拡大したけれど。BANDAIは「FRL南ことり」「ぷちりっつ」などのコラボ商品をリリースしたし、KOTOBUKIYAも各種コラボや創彩などの新機軸、Dark Adventはお色気路線、chitoceriumは耽美路線、AOSHIMAのVFGはもちろん『マクロス』だが、それでユーザー層が拡大したかというと……よく分からない。

 おおまかな流れとしては、「フェイ・イェン」(2007)で現代的なガールプラモが始まり、ホイホイさんやレイキャシールが足掛かりになり(2010前後)、FAGとメガミが本格的に展開され(2015-)、中でも朱羅(201712/201801)が起爆剤になって、VOLKS/AOSHIMA/GSCらの参入が相次ぎ(2017-2019)、その2018-2019年頃には市場が確立されたと思われる。さらに2020年以降は、海外企業もガールプラモを製造するようになる。ただし、そこからは国内新規メーカーがほとんど出ていないし、ユーザー層を増やそうとする動きも乏しい。BANDAIの30MS/水星が新たな起爆剤になり得るかもしれないが、まだ不明。
 「(二次元系)女性キャラの」「自分で組み立てなければいけないプラモデル」「しかも価格は5000~8000円」というのは、やはりニッチな趣味だと思うし、そろそろパイの拡大が上限に達しているという可能性はある。再生産はありがたいが、まあ、そんなに売れるとも限らないよね……。
 個人的な話をすると、2015年11月に「スティレット」を作ったのが最初で、その時は「マイナーなジャンルに手を出してみた」くらいの気持ちだった。元々は艦船モデラーで、KOTOBUKIYAと言えば「斑鳩」くらいの認識。それが、2017年12月に「イノセンティア(青)」に手を出してから一気にハマった。というわけで、個人的にはちょうど5年になるわけだが、まあ、いろいろあったよね。


 【 完成度と拡張性の間で 】
 メガミデバイス新作が全身各所に3mm穴をボコボコ開けまくっているのが、ちょっと気持ち悪く見えてきた。ユーザーの自由なアレンジに期待して拡張性を確保しようというのは分かるけど、さすがにやり過ぎでは……。機能性を重視しすぎて、美観が大きく損なわれているように見える。これはこれで、KOTOBUKIYA独自のアプローチとして評価できるところもあるのだが……。MSG(同社の様々なオプションパーツシリーズ)と組み合わせてほしいというのも理解できるのだが……。そして、その路線が一定程度成功しているのも分かるのだが……。やり過ぎると見た目がキモいよね。表面に大きな接続穴がボコボコ開いているのは、それを埋めずに剥き出しのまま(つまりキットのまま)だと、ただ単に不格好なだけになってしまう。早い時期(例えばFAGアーキテクトの頃)からその傾向はあったが、最近は「3mm穴を増やす」一辺倒で、デザインの完成度が犠牲になりつつあるように見える。
 キャラ単体の美観とパーツ拡張性を両立させるには、1)武装手足との差し替え、2)背負いものなど、目立たないところで接続する、3)接続ピンなどをデザイン的に取り込む、のいずれかにならざるを得ない。KOTOBUKIYAのアプローチは3)だと言えるが、それでデザインとして成功しているかは、うーん。
 他社ガールプラモでは、AOSHIMAのVFGは腰にいくつか接続穴があるという程度。BANDAIは、30MSで拡張用アタッチメントパーツを提供しているくらい。VOLKSのFIOREは、大胆な「×」穴が各所に(※これも好きじゃない)。海外(中国)メーカーは、自由な接続穴はほぼ皆無で、単体の完成度重視。

 VOLKS(FIORE+VLOCKer's)、BANDAI(30MSオプションパーツ)、KOTOBUKIYA(+MSG)はいずれも、ガールプラモとオプションパーツの自由な組み合わせを想定した商品展開をしているが、拡張性と美観のバランスについては、各社/各シリーズで様々な違いがある。
 VOLKSの場合は、メカ路線のVLOCKer'sが先行しており、そのためガールプラモ「FIORE」シリーズでも作為的な「×」型の接続穴を採用してしまっている。ガールプラモとしては最も美しいプロポーションなのに、上腕や脛に「×」穴が開きまくっているのは、あまりにもったいない。
 30MSは、キットごとに異なるが、基本的には控えめ。上腕や太腿で拡張用リングに差し替えて、そこからパーツを盛り付けていけるようにしている。ただし、来年の新作「ネヴィリア」は腕やふくらはぎに大きな穴が開いているようだ。
 それらと比べてKOTOBUKIYAは、四肢のあらゆるところに隙あらば3mmを仕込んでいて、いささか無節操に思える。キャラクターの可愛らしさという点ではガールプラモ随一の水準なだけに、その露骨さはちょっと興醒めする。
 私自身、グライフェン君に追加パーツを盛り込みまくる実験をしてみたことがあり、これはこれで楽しかったけれど……。個人的な好みとしては、整理されたシルエットの方が好きというのもある。



 04/06(Thu)

Tamiya「1/700 フッド」および「1/700 レパルス」。2023年3月上旬制作。00年代の比較的新しいキットのようで、ディテールはあっさりしているが明晰な出来で、特にフッドはブルワーク(各部の防壁)も極薄に造形されていて、見応えがある。レパルスも、黒白2色にざっくり塗り分けた迷彩がポップで面白い。
フッドは、この側面俯瞰の撮影が好み。上面(濃いグレー)を塗り分けたことによって、艦橋の段積みが視覚的に強調されて、構造的な面白味が際立つ。
フッド同梱のE型駆逐艦。これもTamiyaらしく清潔感のある造りで、とても組みやすい。甲板面の塗り分けは、水性アクリルの筆塗り。制作時間は約3時間(※上記フッドとレパルスは9時間程度)。
巨大なフッドと並べると、駆逐艦はいかにも小さく、そして機能性や役割やコストの違いも想像される。こういうギャップを実感できるのも、スケールモデルの楽しみの一つだ。
Tamiya「レパルス」の方は、黒白のコントラストが強烈。Creosミッドナイトブルー+ブラックで塗装して、黒いけれど微妙な色合いのあるブラックを目指した。


 【 モデラーとしての、今後の展望 】
 モデラー生活を8年ほど続けてきて、だいたいのジャンルをひとまず経験してみた。AFVから航空機からドールから建築物までいろいろ。未着手はラジコン、ジオラマ、大規模鉄道模型、木製模型/ペーパークラフト、フルスクラッチ制作くらいか。技術面でも、エアブラシ塗装やウェザリング塗装、ミキシング、異素材使用(エッチング等)あたりまで、中級者レベルで語られるものはひととおり試してみた。全力の精密工作も、手抜きの仕方も覚えた。……さて、ここから目指すべきフロンティア(今後の構想)が見えてこない。どうしたものか。
 実のところ、模型制作は私の中ではあくまで「余技」という位置づけなので、そんなに深めなくてもいいのだけど、しかし、その都度のマイルストーン的目標を定めていく方が、モチベーション維持と満足感の手応えのために望ましい。艦船についても、ひとまず作りたい艦はほとんど作ってしまった。技法面でも、エッチングから海外の超精密キットから3Dパーツまで、近年の動向はひととおりフォローしてきたつもり。ここから先、モデラーとして何を目指していけばよいのか、長期展望を作るのがちょっと難しい。実際には、定期的に模型店に通いつつ、面白そうなキットを作ったりメーカーの新技術を体験してみたりしながら、今後10年かそこらは十分楽しみ続けられると思うけど。でも、趣味は楽しいからやるのであって、ただの惰性的継続にはしたくない。
 模型制作は、50代や70代になっても続けている人がそれなりに多い。つまり、「長く続けられる趣味だ」ということを意味しており、それはそれで素晴らしい。しかし、それらの人々はどうやってモチベーションを保ち、どんな展望を持って何十年もモデラー活動を続けているのだろう。そこが私には分からない。まあ、見方を変えれば、「60歳になってもモデラーを続けていられる人というのは、新しい境地を自分でひたすら開拓していける人だったり、知人との交流などで独自の楽しみ方を見出していたり、マンネリでも飽きない人だったりする、だからこそ続けていられるのだ(その一方で、趣味活動を止めていった人も多い)」ということかもしれないが。
 スケールモデルの場合は、実物や歴史を参照することによって常に新たな刺激が得られるというのはある。例えば航空ショー、護衛艦一般公開イベント、鉄道(乗ったり撮ったり)、等々。私自身はそれらのイベントに行くことは全然無いが、そういう視点も取り込んでいったらもっと楽しくなるのかもしれない。というわけで、個人史的な次元では模型制作のフロンティアは消滅しつつあるが、「技術面での新機軸を試す」、「対象を掘り下げる(モデル元や歴史)」といった可能性も含めて、まだ当分楽しんでいけると思う。
 そういえば、「英米独仏日5ヵ国の大スケール艦船プラモデルを作る」という中期目標を建てていたのだった。すでに英独仏日は手掛けているし、Hobbybossの米戦艦「アリゾナ」を買ってあるから、最後のはたぶんそれになる。それに加えてイタリア艦もきちんと作りたいし、REVELLの1/350ティルピッツもいつか作りたいし……まだまだやりたいことはたくさんあるなあ。


 【 模型趣味と(紙)雑誌媒体 】
 模型雑誌は現在でも何種類も刊行されていて、賑わっているというか、ありがたいというか、不思議というか……。まあ、実際には季刊くらいのスパンのものもあるけど、それでも普通の駅前書店などでちゃんと置いてあるレベルの雑誌が何点もあるのはありがたい。オンライン優位の時代といっても、模型関係はオンラインで代替しきれないところがある。以下私見。
 1) 模型写真の色調は、閲覧環境で大きく変わってしまう。適切に調整された印刷物の発色には大きな資料的価値がある。
 2) 資料性。雑誌(定期刊行物)というよりも、ムック本に近い資料的側面も大きい。そのため、単なる読み捨てではなく、バックナンバーの保存もしばしば意識される。
 3) 一覧性。オンラインでは大量の写真を低コストで掲載できるといっても、長い記事をスクロールしていくのは大変。モバイルは尚更。適切に編集された大判雑誌の見開きで、何枚もの写真とキャプションをじっくり見比べられるのは、大きな利便性がある。
 だいたいこんなところかな。模型分野は、速報性はそれほど重要ではないので、ネットのスピード感と勝負する必要は無い。半年以上先に発売されるキットの情報や、既発売キットの話だったりするし。もちろん、メーカーときちんと連携して今月発売キットの紹介特集を組んだりもするが(※もっとも、そういったメーカーとのつながりの強い雑誌は、過年のHobbyJapan編集者のtenbai云々みたいなのを引き起こしかねないし、誌面のチョイスやキットに対する論評がどうしても甘くなったり偏ったりすることはあるだろうけど……)。
 電撃はオンライン化してしまったが、紙媒体の月刊模型総合誌としてはMGとHJがあるし、スケールモデルはスケモ総合誌『MODEL ART』のほか、航空機/AFV/艦船それぞれに特化した雑誌、それから鉄道、カー、モデルガンなどもある。艦船模型では、『NAVY YARD』は実艦や歴史に関する資料性も重視していて、『艦船模型スペシャル』は制作技術寄りといった感じかな。
 というわけで模型誌は、手許のキットを作りたいというときに、「高度な資料というわけではないが、実艦資料+制作技術ガイド+見本写真が一定の水準でまとまって、アクセスしやすい形で提供されている」という意味でたいへんありがたい存在だし、モデラーとしての視野を広げてくれる契機も様々に与えてくれる。


 【 海外メーカーの1/350キット雑感 】
 制作歴20隻未満のアマチュアの印象論ながら、備忘録的に書いてみる。
 1) TRUMPETER(米仏伊の戦艦、巡洋艦、空母、駆逐艦など多数)。本格派路線。主砲もスライド金型できちんと開口されている。デリケートなパーツは、ランナー保護が巻かれているのもありがたい。
 2) HOBBYBOSS(米戦艦、仏戦艦、中国潜水艦など)は、どちらかと言えばシンプル路線のようだ。パーツ数は少なめで、艦橋もスライド金型などできれいに整理されている。モールドは浅め。エッチングはクレーンなどが同梱されている。
 3) ACADEMY(ビスマルク級やウォースパイト)。かなり細かくパーツ分割しているという印象。モールドは甘めだが、一部梯子の手摺までプラ表現しようと頑張っているのは、かなり珍しいアプローチ。価格は割安。
 4) REVELL(ビスマルク、ガングートなど)。1/350スケールは少数で、縮尺はキットごとにバラバラ。歴史が長いだけに、オールドキットも多い模様。言い換えれば、パーツ精度などは低め。お国もののUボートはさすがのラインアップで、それ以外も揚陸艦や帆船などいろいろ。
 その他、HELLER(エレール)の1/400やLINDBERGの雑多スケールなどもあるようだが、所持していないので分からない。
 
 日本国内メーカーについては、詳しい方が多いだろうけど。
 1) FUJIMIの1/350(IJN戦艦や空母)は細密路線だが、パーツ精度はそれほど高いわけではない(船体は左右貼り合わせ)。総じて店頭在庫が豊富なのはありがたい。艦NEXTシリーズの1/350駆逐艦は初心者向けにも良い。
 2) AOSHIMAの1/350キット(IJN巡洋艦や潜水艦)は、おおらかな作りだが、純正エッチングに折り目が付けられているなど、作りやすい。ただし、品切れしがちな印象で、入手しづらいかも。
 3) TAMIYAキット(利根筑摩、最上、英米独戦艦など)はシンプルだが、巧みなパーツ構成。エッチング船体は上下分割で、フルハルにもWLにも作れる。ただし、純正エッチングセットを提供していないのは弱点か。
 4) HASEGAEWAの1/350キット(IJN長門、隼鷹、阿賀野型、駆逐艦、宗谷など)は、ヴァリエーションキットを見込んだ作りで、個人的には非常に作りにくい。エッチングも癖が強いので(手摺ののりしろなど)、モデラーの対処スキルが求められるだろう。精密感は高いのだが……。1/450の信濃もある。
 5) PIT-ROADの1/350キットは、現用艦が中心。細やかな作りで、トラス部分もプラパーツの組み合わせで表現しきるアプローチ。

 1/350キットは良いと思うんだけどなあ……。艦船模型を作ってみたいという初心者は、1/700の超細密工作にいきなり手を出すよりも、艦NEXTの駆逐艦などの1/350キットから始める方が安全に楽しめるだろう。中級者が全力で取り組む対象としても、1/350大型キットは十分な歯応えがある。艦載機なども、1/350スケールになればそれほどおもちゃっぽくはならず、ディテールに手を入れる余地が出てくるので、モチベーションも保ちやすい。パーツサイズも大きいので、破損や紛失もしにくいし。ディテール(モールド)の再現度も、キットのままで十分優れている。
 価格は、駆逐艦などは5000円台、戦艦でも10000~15000円程度で買えるものは多いし、趣味の支出としてはリーズナブルだろう。ガールフィギュアが1体で2万~3万もしたり、鉄道模型セットに数万~数十万円を使うのに比べれば、非常にお安い。エッチングセット等を買い込んでもせいぜい5万だし、それで100時間楽しめるなら十分だろう。
 デメリットは、1)塗装面積の大きさ、2)ラインアップの少なさ、3)アフターパーツの少なさかな。全長60cmは事実上エアブラシ(スプレー含む)が必須のサイズで、塗装環境が要求される。空中線も20-30cmの長さになるので、作業が大変だろう。そのあたりが解決できるなら、1/350艦船はとても楽しい。
 残念ながら、国内の模型シーンでは1/350ジャンルはしばしば軽視されている。特に「総ざらい」シリーズのムックは、その名に反して1/700ばかりで、1/350に全然目を向けていないものが多い。実艦資料に関してはスケールの違いは問題にならないにしても、キット紹介や制作記事でも1/700オンリーというのは欠落が大きすぎるように思う。
 
 
 【 昨年の模型活動回顧 】
 2022年に制作したプラモデルで印象深かったのは、艦船模型ではREVELL「UボートXXI型(U2540, 1/144)」、ガールプラモではSUYATA「ARTEMIS」、SF関連ではGSC「MODEROID : パワーローダー(1/12)」、それ以外だとFUJIMI「薬師寺東塔(1/100)」かな。それぞれ個別記事できちんと紹介しておきたい。
 この一年は、様々な新しいジャンルに取り組んでみて、それぞれ一定の成果があった。視野を広げた一年に対して、2023年は腰を落ち着けて、1/350艦船模型やインテリア(内部再現)AFVにしっかり向き合おうかなと考えている。

REVELL「UボートXXI型(U2540, 1/144)」。2022年9月制作。
SUYATA「ARTEMIS」(ノンスケール、2022年10月制作)。
GSC(MODEROID)「パワーローダー(1/12)」。2022年7月制作。
FUJIMI「薬師寺東塔(1/100)」。2022年8月制作。


 【 BANDAIのガールプラモ 】
 ガールプラモとしてのBANDAIの特徴(美質、武器)が腑に落ちてきた。BANDAIは技巧的な関節構造の実験を繰り返しており、その中には成功例も失敗事例もいろいろあるのだが、そうした実験の試行錯誤の蓄積は、着衣キャラデザを表現するときに最も優れた形で結実しているように思う。
 水着やボディスーツの方が可動範囲を広げやすいという見方もあるが、衣服パーツに隠して内部に大胆なジョイントを仕込めるという見方もできる。後者のアプローチで成功しているものは、現状のガールプラモシーンではおそらくBANDAIだけかもしれない(※フィギュアではfigmaなどが上手くやっているが)。「仮面ライダー」シリーズや『DRAGON BALL』キャラクターの可動プラモデルを大量に手掛けてきた経験から、着衣モデルの可動構造を熟知しているという点で、ほとんど唯一のガールプラモメーカーと言えるかもしれない。
 ただし、常に成功しているというわけではないけれど。例えば、「ダイバーナミ」や「モビルドールサラ」の頃は、肘の二重関節があまりにも作為的に見えたし、「レディコマンダー」シリーズでは肘がボールジョイント式で、保持力が低すぎて役立たずだった。もちろんメーカーごと、シリーズごとに長所と短所があるものだが、前記のような視点からBANDAIの試行錯誤を評価していける余地はあるだろう。例えば、chitoceliumの箱詰めパズルの技巧性や、KOTOBUKIYAの両目プリントの品質、AOSHIMA (VFG)のヒップラインの造形美確保が、そのブランドの美質&創造性として高く評価されるのと同じように。

例えば「ミオリネ」は、肩関節には特異な引き出し構造があり、肘関節にも露骨な可動溝がある。しかし、実際に動かしてみると上手く隠れてちっとも気にならない。
ポージングの自由度確保と、ジョイント剥き出しの不味さとの間で、「関節構造をどこまで割り切っても、見栄えが確保できるか?」というバランスをしっかり見据えて判断されている。
脚部も丁寧に左右別パーツで、VOLKS並の曲線美がある(※「人造人間18号」の時点ではまだ簡素だったが、「ダイバーナミ」の頃から脚部造形のクオリティが向上してきた)。スライド金型を多用して、脚部等のワンパーツ化を進めているのも大きい。