2023/04/19

学園恋愛系とピンク系の接近

 アダルトPCゲームでは、白箱系(学園恋愛系)とピンク系(イチャラブ/ハーレムもの)の距離感は、時代ごとに変化してきた。以下、私なりの展望をメモしておく。


 【 00年代前半まで 】
 90年代半ばくらいまでは、そもそもジャンル区分の意識が弱かったようだ。学園恋愛系は、『同級生』(1992)のようなSLG路線であって、ラブストーリー路線はいまだ確立されていなかったし、恋愛描写と蹂躙描写が共存しているタイトルもあった。例えば『脅迫』(1996)では、悲惨な蹂躙シーンも多いが、被害を一切受けないまま恋愛を貫徹できる進行もあった。また、『とらいあんぐるハート』(1998)は学園恋愛系だが、選択肢によってはヒロインが襲撃者に蹂躙殺害されるバッドエンドもある。 

 しかし、『To Heart』(1997)の出現から00年代初頭のうちに、両者は明確に分離していった。学園ものはAVGに舵を切って白箱系ブランド群が形成されていき、それに対してピンク系はアトリエかぐや、テックアーツ系列、XERO系列を中心とし、それからRUNE/CAGE、ZEROなどの路理系も強かった。ベッドシーンへの力の掛け具合も、白箱とピンク系で明確に異なっていた。学園恋愛系ではベッドシーンも非常にライトなままで、各ヒロインの終盤にHシーンが一回あるだけというのも珍しくなかった)。ただし、『フローラリア』(2002)、『うちの妹のばあい』(2003)、『Maple Colors』(2003)、『がくパラ!!』(2003)、『こころナビ』(2003)など、学園もののようでいてベッドシーン比率の高い桃+白混淆路線も一部現れていた。

『ゆんちゅ ~お嬢さまはご奉仕中~』(xuse、2006年)。『フローラリア』(2002)のヒロイン1人を取り出した外伝的なタイトル。『フローラリア』それ自体もベッドシーンの濃厚さが注目されていた(いわゆる「萌えエロ」の先駆)が、『ゆんちゅ』はさらに過激になっており、断面図カットインまで導入している。


 【 00年代半ば~後半にかけて 】
 00年代半ばには、Whirlpoolゆずソフトがデビューした(2006)あたりで白箱系が大きく再編成され、学園恋愛系のパラダイムが固まった。そしてそれ以降、白箱系でも「クオリティ向上」という意識からベッドシーン増強傾向が一貫して強まっていった。Whirlpoolが公式サイトで、各ヒロインのHシーン提供回数を明示するようになったのは、その端的な表れだろう。00年代半ばまではヒロイン1人あたり2~3シーンだったのが、00年代後半以降は4~5シーンが普通になる。
 とはいえ、白箱系では「純愛」が維持された。つまり、ベッドシーンはあまり過激にはならないし、一つのゲーム進行で2人以上のヒロインと付き合うことも稀だった(※『処女はお姉様に恋してる(おとぼく)』(2005)のような例外もあったが)。その意味で、ピンク系との違いは明確に存続した。2010年頃までの白箱系は、Hシーンを穏健に拡充していた(ALcot、ASa Project、ぱれっと、SAGA PLANETSなど)。
 ピンク系にとっては、学園舞台はあくまでワンオブゼムだった。アトリエかぐやは、chocochip氏原画の『Schoolぷろじぇくと』(2006)、『幼なじみと甘~くエッチに過ごす方法』(2007)、『プリマ☆ステラ』(2008)で学園ものに傾斜したが、あくまで一時的なもので、学園以外のシチュエーションを大量に制作している。テックアーツ系も、学園舞台だけでなく、SF近未来からファンタジー、病院舞台などを様々に制作している。

『Schoolぷろじぇくと』(アトリエかぐや、2006年)。まるで学園恋愛系のように明朗でコミカルな雰囲気で始まり、キャストには安玖深音氏もいるが、本編後半はやはりピンク系らしくベッドシーンの釣瓶打ちになる。


 【 2010年頃からの動向 】
 2010年前後に、状況が大きく変化してきた。a)学園もののパラダイムが解体、相対化されるとともに、b)ベッドシーンも急激に濃厚さを増した。早いところでは、例えばRicotta(2008年の『プリンセスラバー!』)、路線転換したPULLTOP(2010年『恋神』)、ま~まれぇど(2011年『らぶ2Quad』あたりから?)などが、白箱系とピンク系を融合させていった。十分に発達した白箱系は、もはやピンク系と識別できない。
 白箱系メーカーがサブブランドでピンク系を展開する事例も、00年代末から増加した。具体的には、UNiSONSHIFT Accent.(2006-:織澤あきふみ路線)、apricot cherry(2009-)、MOONSTONE Cherry(2009-)、SkyFish poco(2011-)、PULLTOP LATTE(2012-)、ensemble sweet(2014-)など。
 白箱風のフレームワークとピンク系の濃厚さが完全に融合したのは、まどそふと『ナマイキデレーション』(2013)、『恋する夏のラストリゾート』(2014)、あざらしそふと『アマカノ』(2014)の頃だったかと思う。

『恋する夏のラストリゾート』(PULLTOP LATTE、2014年)。リゾート島を舞台に、前半のストーリーと演出は白箱系らしい朗らかなムードで進行する。しかし、ラブストーリーが一段落ついた後半パートやアペンドストーリーでは、多人数乱交を含めた大量のHシーンが展開される。

 10年代半ば以降は、白箱系でもヒロインに明確なお色気目的の設定が与えられたり(例えばサキュバス)、一つのシナリオ進行の中で複数のヒロインと関係を持ったりするようになる(ハーレム路線)。低価格帯の単独ヒロインものでも、「前半は白箱系の物語進行+後半はベッドシーン大量」というアプローチが増えている(fengや、前記あざらしそふとなど)。そしてそれ以降は、嗜好の細分化とニッチ分散が進行して、トレンドを語るのが難しくなっている。


 だいたいこんな感じかと思う。2010年頃に白箱(「萌え系」)とピンク系(「抜き系」)が急接近したという指摘は、私から見てもひとまず妥当に思える。大枠はだいたい合っている筈だけど、私自身それほどたくさんプレイしているわけではないから、見えていないところも多い。もっとディープなアダルトPCゲーマー諸賢の歴史展望も、機会があれば伺ってみたい。